『星降る夜に』4話 次々明らかになる登場人物の過去、そして鈴を誹謗中傷する人物はそれなりの年齢か
吉高由里子演じる産婦人科医と北村匠海演じる遺品整理士のラブストーリー『星降る夜に』(テレビ朝日系 火曜よる9時〜)。脚本は来年のNHK大河ドラマ『光る君へ』(吉高由里子主演)を手掛けることでも話題のベテラン・大石静。『鎌倉殿の13人』の全話レビューを担当したライター・近藤正高さんが4話を考察します。今夜放送の5話は、鈴の過去の事件をめぐってとんでもないことになりそう……!?
「世の中狭いねー」
『星降る夜に』第4話では、登場人物たちの関係が深まったりぎくしゃくしたりするなか、おのおのの過去や抱える悩みが少しずつあきらかになっていった。
主人公の産婦人科医・雪宮鈴(吉高由里子)は、同じ手話教室に通う北斗千明(水野美紀)とすっかり親しくなり、講習後に一緒に飲むのがお決まりになっている。この日はいつも行く居酒屋が臨時休業で、急遽、千明の経営する会社兼自宅で飲むことに。このとき、まだ会社に残っていた社員の柊一星(北村匠海)と佐藤春(千葉雄大)、高校から帰宅した千明の娘・桜(吉柳咲良)に、春の妻のうた(若月佑美)も加わり、ささやかな飲み会となった。コロナ禍以来、多くの人がそうだろうが、皆で集まっての飲み会など久しくしていないだけに、この場面には何だか心がなごんだ。
この席で鈴は、勤務する産院の同僚である佐々木深夜(ディーン・フジオカ)が、千明の高校の同級生だったと知らされる。千明が深夜と以前会っていたのはそういうことだったのか、と合点が行った。娘の桜も彼を「深夜」と下の名前(しかも呼び捨て)で呼び、親子ぐるみで親しい付き合いがあることをうかがわせた。同時に、鈴と深夜が同僚だと知り、桜が「世の中狭いねー」と言っていたのが、このドラマの視聴者の思いを代弁するようであった。
桜は口も達者だが、小さいころから一星に教えてもらっていたおかげで手話も得意だ。その後の展開を見ると、兄のような存在の一星にほのかに恋心を抱いているようなふしもある。だとすれば、鈴のライバルともいえる。
その桜に初めて会った際、鈴は「お母さんにむちゃむちゃ似てますね」と言い、千明も「そうなのー、よく言われるのー」と返していた。しかし、後日、鈴はデートしていた一星から、桜はじつは千明の別れた夫の連れ子だと教えられる。夫は離婚後に桜を引き取ったものの、やがて彼女を置いてほかの女のところに行ってしまったらしい。千明は、血のつながらない桜を女手一つで育てたことになるが、周囲にはそんな素振りをみじんも感じさせないのが清々しい。
さて、千明たちの職場での飲み会には、すでに書いたとおり春の妻・うたも現れた。春にはその晩、外で食事をしないかとSNSにメッセージを送り、逆に飲み会に誘われたのだった。うたは食品会社に勤務し、春とはそこで同期として出会い、結婚していた。
その日、うたは産院で深夜から妊娠を告げられていた。本来なら夫婦で喜ぶべきところである。だが、飲み会からの帰り、彼女に妊娠したと聞かされた春はうろたえ、翌日一人で深夜のもとを訪ねると、いつまでなら中絶が可能かと相談する。そこには彼の過去に絡む深い事情があった。
食品会社に勤務していた頃の春は、着実に業績を上げるうたとは対照的に、仕事がうまくいかず、結婚後は多忙な彼女と話すこともだんだんなくなっていった。そのなかで自信を失い、会社にも行けなくなってしまう。それでもうたは春を責めることはせず、その優しさがかえって彼を苦しませた。
その後、春はいまの仕事(遺品整理士)に就き、どうにか社会復帰する(前々から春が片耳にピアスをしているのが気になっていたのだが、おそらくあれは、再就職するにあたり心機一転という決意を込めて着け始めたのではないか)。しかし、妊娠を告げられた彼は、自分がまだ完全に自信を取り戻したわけではないことに気づく。これでは子供を育てるのは無理だ……そう思い、深夜に中絶できないかと相談したのだった。当のうたは、内心では妊娠を喜びながらも、春の気持ちを慮って、判断を彼にゆだねていたのが、またせつない。
春から相談を受け、深夜もまた悩む。僕はどうしたらいいのかと深夜に訊かれた鈴は、自分たちには話を聞いてあげることぐらいしかできないと申し訳なさそうに答える。
贅沢な悩み
このとき2人と一緒にいた看護師の蜂須賀(長井短)が、相談に立ち会った春の気持ちに共感し、仕事としてはお産に感動するが、ここで働けば働くほど自分には子供は持てないとしみじみ思うとぼやいた。子供ができることで自分のやりたいことを犠牲にするなどとてもできないと言うのだ。これを聞いて深夜が「贅沢な悩みなんじゃないかな。目の前の幸せを大切にできないなんて」とちょっとキレ気味に言い、一瞬、不穏な空気が漂った。
たしかに、待望の子供を、生まれる直前、妻と一緒に亡くした深夜からすれば、蜂須賀の発言は受け入れがたいものであっただろう。それでも蜂須賀の言い分も、イラっとさせるとはいえ(長井短のセリフ回しがまた上手かった)一理あるように思う。
そもそも「贅沢な悩み」とは、あくまで第三者から見ての判断でしかない。他人からそう見えても、本人にとっては深刻な悩みということは往々にしてあるだろうし、贅沢だと軽々に非難することは、場合によっては本人を追いつめることにもなりかねない。ひょっとすると春のなかでも、子供を授かりながらも受け入れられない自分は贅沢なのではないかと、そんな葛藤があったかもしれない。
いらだちを募らせた春は職場でも、親友の一星から子供について冗談めかして話しかけられ、つい逆ギレしてしまう。このとき、春は一星に向かって、もし生まれてくる子供がおまえのように耳が聞こえなかったら、自分には抱えきれないと、かなりひどいことも口にして、その場を立ち去る。部屋の外で桜がたまたまそれを聞いていて、すぐさま一星に駆け寄ると、春には悪気はないし一星も悪くないとなぐさめた。
一星もその場ではさほど傷ついた様子ではなかった。だが、帰宅して深く落ち込む。もっとも、それは春の言葉に傷ついたというよりは、親友の気持ちを理解してやれない自分に不甲斐なさを感じてのことであったのだろう。
そんな彼を見て、同居する祖母のカネ(五十嵐由美子)がてっきり鈴と喧嘩したものと勘違いしたらしく、ウソをついて彼女を家に招く。期せずして一星と2人きりになった鈴は、このあと外に出ると、以前デート中に立ち寄った店で見つけて気に入ったペンダントを彼から贈られる。そして改めて一星とお互いに好きだと確認すると、ついに彼の“ステイ”を解除し、唇を重ねた。それまでの深刻な展開をしばし忘れさせるように、2人が本当の恋人同士になった瞬間だった。
誹謗中傷の主は?
幸せの絶頂にあった鈴だが、そのころ、SNSに「雪宮鈴は人殺し」と書き込む人物がいた。おそらく、かつて鈴が責任を問われた医療事故の関係者だろう(演じ手の名前はまだ伏せられている)。この場面はその後起こる事態を予感させ、ザワザワさせる一方で、暗闇でパソコンの画面に向かって書き込むという描き方がどうにも紋切型なのが気になった。いまのネットでの誹謗中傷は、スマホから時間も場所もかまわず手軽に行われるからこそむしろ深刻だと思うのだが……。それでも、パソコンを使っているあたり、誹謗中傷の主は若者ではなくそれなりに歳をいった人物だと推察される。
もちろん、そんなふうに中傷されていることを、この時点ではまだ当の鈴も一星も知らない。2人はまた、うたが帰宅するや玄関で倒れ、春がうろたえていることもまだ知らなかった。こちらの行方も気になるところである。
文/近藤正高 (こんどう・ まさたか)
ライター。1976年生まれ。ドラマを見ながら物語の背景などを深読みするのが大好き。著書に『タモリと戦後ニッポン』『ビートたけしと北野武』(いずれも講談社現代新書)などがある