脳科学者・川島隆太さんに学ぶ「認知症にならない生活・スマホの使い方」【最新!脳トレ計算問題」
「スマホにはアプリがたくさん入っていて、次々にプッシュ通知が流れてきますよね。心理学で『スイッチング』と呼ばれる、『何かの作業をしているときに邪魔が入り、別のことをやり始める』という行為を繰り返すと、気が散って極端に集中力が短くなる。これが、認知機能を低下させる主な要因ではないかと考えられているからです。
YouTubeを見ていたかと思えばLINEに切り替わり、次はメールをチェックして、今度は何かを検索するなど、スマホは次々にスイッチングができてしまうツールですが、スイッチングによって作業効率が下がり、ミスが増えることも私たちの実験で明らかになっています。
せっかくスマホの脳トレアプリでせっせと学習しても、画面の上方に流れるプッシュ通知を見ただけでトレーニング効果はゼロどころか、マイナスになってしまいます。スイッチングは集中力をそぐだけではなく、もっと深刻な影響を脳に与えているのではないか…。まだ科学的に解明されていませんが、私たちはそう考え、遺伝子レベルの研究を進めています」
結論は数年先になるそうだが、プッシュ通知の設定をオフにする、スマホの使用時間を決めるなど、スマホに振り回されない生活習慣をいまから身につけておきたいものだ。
「また、極端にスマホに依存するのはアジア人に多いという説もあります。欧米では、家族でいるときにスマホを見る人があまりいないのに対し、家族そろってスマホを見ているのは、不思議とアジア人に多いのです。こちらも、現在遺伝子解析を行っている段階です」
アジア人として、解析の結果が気になるところだ。
(※)NTTドコモの社会科学系の研究所であるモバイル社会研究所の「データで読み解くモバイル利用トレンド 2022-2023―モバイル社会白書―」より。
川島隆太さん監修「認知機能を上げる脳トレ計算問題」
認知症リスクの危険性をはらむデジタル社会において、どうすれば脳を健やかに保つことができるのか?
「いろいろな物事に興味や関心を持ち、前向きな気持ちで暮らしている人は、脳の体積も大きく、健康であるというデータが出ています。時間があれば美術館に出かけたり、人と会ったりと外向的に行動する人の方が、家でじっとしている人よりも明らかに脳の状態がいいのです。
他人と接するのが嫌いな人も、脳のためには意識を変えていく必要があると思いますが、かえってストレスになるようなら、その分、家でしっかりと脳トレに励むことです。皆さん、体の健康のためにウオーキングやジムに行きますよね? 脳も体力と同じで、何もしなければ低下します。フィットネスの感覚で週に3~4日、20~30分“集中して”行ってみましょう」
川島さんがすすめるのが、簡単な計算や音読だ。
「それも、できるだけ速く作業するのがポイントです。性能のいいコンピューターの計算速度が速いように、脳も認知速度(情報処理の速さ)が速い方がいい。しかし、年を重ねるとどうしても認知速度は落ち、判断力を含め何もかもが遅くなります。ところが、自分がちょうどいいと思うより速い速度の作業を意識して行うと、認知速度はどんどん向上するのです」
これは、創造力や記憶力、自制力などを司る前頭前野(前頭葉にある部位)を活発にするためのトレーニングで、読み書きをしたり、人と会話を交わしたり、旅行をしたり、料理や楽器の演奏をするときに活発に働き、テレビを見たり、ぼんやりしているときにはほとんど働かないという。
「計算問題なら、間違えてもいいから速く解くこと。音読は、舌を噛む一歩手前まで速く読むつもりで。早口言葉もすごくいいと思います。難しい問題をじっくりと解くことや、内容を理解するように読むことに一生懸命の人がいますが、それは無意味。脳トレの邪魔になるだけです。簡単な作業を速く行うことのみに意味があります。こうした脳トレドリルを開発したきっかけは、50代になって私自身が認知速度の衰えを感じたからなんですよ」
まずは下記の計算問題に挑戦してみよう。前向きな気持ちで脳トレに臨めば、90才でも100才でも認知機能は上がっていくそうだ。
教えてくれた人
川島隆太さん/脳科学者。東北大学加齢医学研究所所長。脳機能開発の第一人者として任天堂DS『脳を鍛える大人のDSトレーニング』、冊子『脳を鍛える大人の音読ドリル』シリーズ(くもん出版)、自分で脳の活動状態を計りながら脳トレできる『Active Brain CLUB』などを開発。
取材・文/佐藤有栄 イラスト/うつみちはる
※女性セブン2023年2月16日号
https://josei7.com/
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