68才で始めた70才。おしゃれ防具で小学生と真剣勝負
「礼儀を重んじる教育」と「決闘」と
教室では、年齢や体格、男女の区別なくランダムに相手を組み合わせて試合をするのが決まりだ。フェンシングには、フルーレ、エペ、サーブルと3種の剣があり、それがそのまま競技の名前にもなっている。
ざっくり解説すると、フルーレは胴を突くのみで剣がしなやかで軽く、礼儀を重んじる教育のために生まれたフェンシングといわれる。
エペも突きが有効だが、フルーレと対照的に剣が重く、決闘が起源。サーブルは突きだけでなく斬りも有効で、騎兵の武器が起源とされる。
剣の先端が相手の体に触れて、500グラムの力がかかると、アルミでできたガード部分から電流が伝わり、勝ち負けが決まる。その有効面は、フルーレが胴体のみ、エペが頭から足先までの前面の全身、サーブルが上半身全てとなっている。
太田雄貴選手がメダルを獲ったのも、この教室で教えているのもフルーレ。欧米人に比べて小柄な日本人でも同等に闘え、一般の女性や子どもも混じってレッスンできるのは、フルーレならでは。
ちなみに軽いとされるフルーレの剣だが、持ってみると、思った以上に重く感じる。この剣を振り回すとなると遠心力も加わるから、コントロールするにはかなりの腕力を必要とする。
取材日、太田さんの相手に当たったのは、フェンシング歴数か月の小学校6年生の男子。昨年、小学1年から続けた剣道からフェンシングに鞍替えしたばかりで、フェンシング歴こそ短いものの、武道では太田さんより経験が長い。
「僕なんて、ちょっと動いただけで動悸息切れがひどいのに、子どもは体力もあるし、覚えも速い。大人げないけれど、相手が子どもだからって手加減する余裕なんてありませんよ。本気でぶつかります」
食欲が出たしぐっすり眠れる
「教育のために生まれたフルーレは、どんな手段でも勝てばいいというスタイルでなく、相手の剣を一度はらったうえでないといくら突いてもポイントになりません。勝敗より、いかに勝ったか、いかに負けたかが肝心。剣と剣との会話ができるんです。それが、この競技にハマってしまった最大の要因です」
この日の、太田さんと小学生の試合の結果は…、残念ながら引き分け! 太田さんは悔しいといいながら、どこか楽しそう。
「もっと体力をつけて、次は勝ちたいです。フェンシングをはじめて、モリモリ食欲が出てなんでもおいしく食べられるし、ぐっすり眠れて気持ちよく目覚められるし、体調がぐんとよくなりました。この歳になっても心身が変わるのを実感できるのはうれしいですよ。フェンシングのおかげで、毎日が楽しいです」
〔取材講座データ〕フェンシング教室 ―基礎から応用まで 楽しく学ぶフェンシング― 中央大学クレセント・アカデミー 2016年秋期講座
2017年1月28日取材
文・写真/まなナビ編集室
初出:まなナビ