5歳の少年が教えてくれた、認知症の家族との素敵な過ごし方
昨日会ったばかりなのに、「久しぶり」と言われたら。
今日が何日で、今何時か。時間の概念をなくしてしまったら。
ついつい冷たい言葉で突き放しそうになるが、5歳の少年の返しはこうだ。
「きのう いらいだね。でも ううんと ひさしぶりみたいだね。
きのう すごく たのしかったから。」
「きょうは きょうだよ。」
認知症のおばちゃんと5歳の孫の交流を描く
2022年8月31日に出版された絵本『わすれないでね ずっと だいすき』(小学館)。
5歳の少年・ジョージは、主人公であるおばあちゃんの孫である。おばあちゃんのことが大好きで毎日訪ねてくるが、このおばあちゃん、5分前のことを憶えていることができないのだ。
しかしおばあちゃんに対するジョージのコミュニケーションは、いつも軽快である。
5分前のことを憶えていられないと告白すれば、
「きっとつまらなかったからだよ。」
と答えるのだ。
認知症の家族の実話にもとづく物語
この絵本は、イギリスの絵本編集者の父親が認知症を患い、娘である自分のことがわからなくなってしまったという実体験にもとづいて生まれた。
掲載されているメッセージの一部を抜粋し紹介する。
「身近な家族が認知症と診断されたら、誰しも途方に暮れてしまうでしょう。
私の父は、いつもおもしろくやさしく、人生の支えになる存在でした。
だから、それを失うことを理解するのは、簡単ではありませんでした。
とくに、父が以前と変わらないように見えるのに、
何かがまったく変わってしまったことを感じたときには……。
けれども、心の深い奥底のどこかで、父が私を愛していることがわかるのです。
私が父を訪ねると、私が父にとって、なんらかのとても大切な存在であることに、
彼自身が気付いていることが、私にはわかりました。
たとえ私が、「誰」なのかわからなくても」
監修は『認知症世界の歩き方』(ライツ社)の著者で、認知症共創ハブのメンバーである、筧裕介氏。
日頃から認知症の方々と接している筧氏は、この絵本についてこうコメントしている。
「5歳くらいの子どもは、しっかりコミュニケーションが取れる年齢だけれども、何かを疑ったり、言葉の裏を読んだりしません。目の前にいる大好きなおばあちゃんが困っていたら、当たり前のように助けるし、自分を忘れられてしまったとしても、5歳なりの理由を見つけます。この認知症のおばあちゃんとの会話のやりとりはとても自然で、大人が学ぶことが多くあると感じました。
もし家族が認知症になってしまったら、一緒に生活したりお世話をしたりすることは、とても大変だと言われていますし、実際そうなのだと思いますが、ジョージのように、まっさらな気持ちで認知症の人と向き合うことができたなら、きっとみんながあたたかな気持ちになるでしょうね」
この絵本は、認知症の人への接し方のヒントとなることが描かれているだけでなく、「人としてどうありたいか」「人間にとって、いちばん大事なものは何であるか」という深いテーマが隠された一冊のようだ。
ぜひ家族3世代で手にして、この5歳の少年の軽やかなコミュニケーションを参考にしてみてはどうだろうか。
【データ】
書名:「わすれないでね ずっとだいすき」(小学館)
定価:1760円(税込)
文 ジーン・ウィリス
絵 ラケル・カタリナ
訳 前田まゆみ
監修 筧 裕介
文/中川ちひろ