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介護現場での4つのNG表現「タメ口、赤ちゃん言葉…」で学ぶ介護を心地よくするヒント

 介護士として働いた経験をブログで発信している、たんたんさんこと深井竜次さんが、介護をするときに「言ってはいけない言葉」について考察。これまでに特別養護老人ホームや老人保健施設などの介護施設で働いてきた経験から、4つのNGワードとその背景について、教えてくれた。介護施設で働く人だけでなく、在宅介護を心地よくするためのヒントがありそうだ。

 介護士ブロガーのたんたんと申します。

 7年間介護現場で働いてきて得た経験や知見をもとに、「多くの介護士さんが幸せな働き方を実現できるように」という思いでサイト運営をしています。

 介護ポストセブンでもこれまで僕が介護現場で経験した出来事や学びを、「介護士さんをはじめ介護に関わる方の参考になれば…」と思って記事を書いています。

 今回のテーマは「介護職員が利用者に言ってはいけないNGワード」についてです。

「気づかないうちに利用者の怒りを買ってトラブルになってしまった」といった経験をした介護職員は多いのではないでしょうか?

介護職員が利用者と良好な人間関係を作るためにも、言ってはいけないNGワードについて考えてみたいと思います。

介護職が利用者に言ってはいけない言葉

 僕の経験から、介護職が利用者と関わる上で言ってはいけない言葉とシチュエーションについて4つ挙げてみました。

1.「〇〇できないんですか?」など身体的、精神的なコンプレックスを刺激する言葉

2.「○○さん、元気そうじゃん」など友達口調(タメ口)で気軽に話す

3.「おいしいでしゅかぁ」など赤ちゃん言葉で話しかける

4.「息子さんはどんな方ですか?」など本人のプライベートに踏み込むような発言

 それぞれ、詳しく解説していきます。

1.身体的、精神的なコンプレックスを刺激する言葉

 介護を受けている利用者は、心身どちらかに問題を抱えていることが多く、自立した生活をすることが難しいという背景があります。たとえば、以下のような問題を抱えていることがあります。

・立ち上がり、歩行が難しい

・1人でトイレに行くことができない

・麻痺があって、思うように体を動かすことができない

・うつ病、統合失調症を患っている

 このようにさまざまな理由があって介護を受けることになっているので、ご本人もそれをコンプレックスに感じているかもしれません。
 なので、コンプレックスを刺激するようなことを言ってはいけないと僕は考えています。

たとえば、

「何で1人でトイレに行くことができないんですか?」

「リハビリをしているのになぜよくならないんですか?」

 こういった声かけは絶対にNGです。

 そもそも人のコンプレックスを刺激するような言葉は、利用者だけではなく、家族や友人や同僚に対しても言ってはいけないこととなので、人としてあたりまえの関わりをすることが介護をする上で一番大事だと感じています。

2. 友達口調(タメ口)で気軽に話す

 友達口調、いわゆる“タメ口”で利用者と関わろうとする職員は結構いるように思います。

 利用者の視点からすると、「あなたよりも何十年も長く生きているけど」「客なのにどんな態度なんだ?」と思われてしまうこともあるかもしれません。

 介護職もサービス業なのでサービスを提供する側として相手に気持ちよくケアを受けてもらえるのか?と考えながら言葉を発することが大切だと思います。

 介護職として経験が長くなるほど仕事にも慣れてきて、タメ口になってしまう傾向があります。

 本人も自覚をしないままそうなってしまうこともあるので、職場としても何度も職員全員に伝え続けていく必要があると思っています。

3.赤ちゃん言葉で話しかける

 赤ちゃん言葉に関しては、あくまで僕の個人的な感覚ですが、特に認知症を患っている方に対してそのような言葉を使っている方が多いように思います。

 利用者さまは人生を重ねてこられた大先輩で、赤ちゃんではありません。関係性にもよりますが、会話の中に、「大丈夫でちゅよ~」とか、「おいしいでしゅか?」などの赤ちゃん言葉があったら、誰だって「バカにしているのか?」と思ってしまいます。

 なので、もし介護職員で赤ちゃん言葉を使っているのを見かけたら、注意したほうがいいと思います。

4.家族や本人のプライベートに踏み込むような発言

 僕が以前働いていた介護施設では「本人が自分から話す時以外は、職員から本人が施設に入る前の生活や家族については言及しない」というルールがありました。

 理由としては、介護施設に入る前までに嫌な思いをして思い出したくないことがある可能性があるからです。

 ある程度の情報は入所前の情報提供書に書いてあります。しかし、情報提供書に書かれていない、ご本人の感情が崩壊してしまうようなスイッチを、意図しないまま押してしまうこともあるので、本人が自分から話すこと以外は、職員からプライベートの話を振らないように職員たちは気をつけていました。

 利用者との関係性が崩壊すると、介護の仕事をする上で大きな障害にもなりますし、そのリスクを防ぐためにも、利用者のプライベートに職員が深入りするのは避けるべきだと思います。

 介護職と利用者は、あくまで仕事上での関係であり、他人であるという意識を持っているほうが、関係性が保ちやすいと考えています。

■介護現場で「言ってはいけない」言葉や行動(一例)

・身体的、精神的なコンプレックスを刺激する言葉

「何で1人でトイレに行けないんですか?」

「リハビリをしているのになぜよくならないんですか?」

「着替えがなかなかできるようになりませんね」

「お食事をこぼさずに食べたいですよね?」

・タメ口で気軽に話す

「元気そうじゃん?」

「着替えよっか」

「そろそろトイレ?」

「ご飯にする?」

・赤ちゃん言葉

「おいしいでしゅか?」

「大丈夫でちゅよ~」

「お着替えしましゅよ~」

・家族や本人のプライベートに踏み込むような発言

「ここへ来る前はどういう施設にいたんですか?」

「息子さん(娘さん)たちとは、仲がよくないんですか?」

「ご兄姉とは、どうして疎遠なんですか?」

利用者とのコミュニケ―ションで意識すべきこと【まとめ】

 介護職として利用者とコミュニケーションをとる上で意識したほうがいいのは、以下の2つだと僕は考えています。

・利用者は「人生の先輩でお客様」という意識を持つ

・「距離感」を意識して関わる

 利用者は「人生の先輩でお客様」という意識を持つというのは、あたり前の話かもしれませんが、介護の仕事はサービス業です。

 利用者はお金を払って介護サービスを受けているわけなので、お客様になります。さらに、自分よりはるかに年上の人生の先輩でもあるので、そこを意識して関わることで相手を不快にさせる言動も減ると思います。

 また、「距離感を意識する」と言っても具体的にどのような距離なのか?と思われる方もいると思います。

 僕が以前働いていた施設では、「上司と関わるのと同じような距離感」と教えられてきました。

 よく「寄り添った介護」と言われますが、距離感が近すぎると、相手に依存心されすぎるなど、距離が近いからこそ起こる人間関係のトラブルも発生します。

 僕の経験から言うと、利用者に寄り添いすぎた結果、トラブルが起きて信頼を失ってしまったといるケースは多いように感じます。

「介護は仕事だから仕事相手として割り切る」ぐらいが、ちょうどいい距離感になるように思います。

 利用者との円滑なコミュニケーションは介護職として働くことで徐々に身についてくる立派なスキルです。言葉のかけかた1つで、介護の難易度は一気に簡単になることもあれば、難しくなることもあります。

 自分自身が心地よく仕事をする上でも、言葉の使い方と関わり方は常に意識しておきたいものです。

 最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

文/たんたん(深井竜次)さん

たんたん(深井竜次)さん

島根県在住。保育士から介護士へ転職し、介護士として勤務。主に夜勤を中心に介護施設で働きながら介護士の働き方について綴ったブログ『介護士働き方コム』を運営。著書『月収15万円だった現役介護士の僕が月収100万円になった幸せな働き方』(KADOKAWA)が話題に。

●僕が介護職を経験して変わったこと3つ「相撲」「車いす」「人見知り」に関する実体験

●介護施設で働く職員の「休み」に関する不満を考察「本来休みを取ることに罪悪感を感じる必要はないはず」

●「介護職賃上げ9000円」実際どうだった?金額に納得いかない現場のリアル

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