C型肝炎治療後の肝がん発症予防に「血中亜鉛濃度測定」
C型肝炎は新規治療薬が保険承認されて治る病気になった。最新の臨床研究により、肝炎の治療後にウイルスが消滅しても、必須微量金属・亜鉛の血中濃度が低いと肝がん発症が2年間で5.1%もあることがわかってきた。亜鉛は体内で働く300の酵素を活性化させ、がんのリスク因子である活性酸素を除去する役割も担う。肝炎ウイルス治療後も、血中の亜鉛濃度測定が欠かせない。
C型肝炎ウイルスが消えても、その後に肝がんを発症するケースも
C型肝炎ウイルスの感染者は国内で100万人〜150万人と推計され、肝がん発生の大きな原因の一つとなっている。ここ最近、C型肝炎ウイルスの経口新薬が発売、治療後にウイルスが消滅する症例も増えている。ところが、C型肝炎ウイルスが消えても、その後に肝がんを発症するケースもある。
考えられる肝がん発症リスクの原因として浮上したのは、亜鉛濃度の低下だ。
大阪労災病院(大阪府堺市)消化器肝臓内科の法水淳部長に話を聞いた。
「私は細胞のシグナル伝達について研究しており、細胞シグナルや亜鉛が肝がんに影響を及ぼすことを突き止めました。その後の臨床研究で健常者と慢性肝炎の患者、肝硬変患者の血中亜鉛濃度を比較したところ、慢性肝炎と肝硬変の患者は健常者に比べ、非常に亜鉛濃度が下がっていることがわかったのです」
慢性肝炎や肝硬変で亜鉛が減るのは門脈圧亢進(もんみゃくあつこうしん)、アルブミンの減少、摂取亜鉛量の減少の3つの理由からだ。
肝臓が硬くなると腸管から肝臓に栄養を運ぶ門脈の圧力が高くなり、腸管での亜鉛吸収が減少する。さらに亜鉛は血液中ではアルブミンという物質と結びつくが、肝炎、肝硬変になるとアルブミンが減少し、結びつくものが少なくなり尿から、そのまま出てしまう。
肝臓の働きには欠かせない亜鉛
肝臓における亜鉛は300もの酵素を活性化させる働きを担っている。
例えば、アルコール分解や細胞分裂にかかわる酵素は亜鉛によって活性化する。要するに亜鉛がなければ、アルコール分解や細胞分裂ができず、新しい細胞が増えない。また遺伝子に傷をつけ、がんを発生させる活性酸素を無害化するSODという酵素の活性にも亜鉛は必須で、肝臓がその働きを全うするためには亜鉛が欠かせないのだ。
亜鉛の血中濃度は、以前は60㎍/㎗以上が正常値とされていたが、現在は80㎍/㎗以上に引き上げられている。肝臓に炎症が起こると亜鉛の血中濃度は容易に70㎍/㎗以下に減少する。78㎍/㎗以下になったら、体内の亜鉛が不足していると判断してもよく注意が必要だ。
「C型肝炎の治療終了後の亜鉛の血中濃度により、2群に分けて経過を観察しました。亜鉛の血中濃度が高い群では、がんの発症はなかったのですが、血中濃度が低い群には肝がんが発生した症例が2年間で5.1%もありました。症例数が少ないので、統計的に有意差があると断定はできませんが、亜鉛の血中濃度と肝がんの発症には関係があるといえそうです」(法水部長)
保険承認された亜鉛製剤で補充しがん発症予防を
亜鉛の補充としては牡蠣などの食品の大量摂取が考えられるが、亜鉛が多い食品は鉄分含有量も多く、過剰摂取は活性酸素を増やす作用があり、肝臓には負担が大きい。サプリメントによる補充法もあるが、含有量が少ない。昨年3月に亜鉛製剤が保険承認された。C型肝炎治療後は亜鉛の血中濃度を測定し、低下しているようであれば、薬剤による補充が発症予防に繋がる。
取材・構成/岩城レイ子
※週刊ポスト2018年10月12/15日号