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高齢者の自転車運転 ロコモ予防効果は期待できるが事故に要注意

 自動車免許証返納後の新たな“生活の足”として、再び自転車に乗ることを検討している人もいるだろう。ところが予想に反して、かつてのようには簡単に乗れないと経験者は口をそろえる。自転車再デビューに向けて、シニア世代が押さえておきたいポイントをまとめてみた。

 自転車事故の発生総件数のうち、高齢者が引き起こす割合は圧倒的なものに。一方で、自転車に乗ることによって行動範囲が広がったり、健康効果も期待できる。乗るべきか否か、まずはシニアにとっての気をつけたいポイントや利点を押さえておきたい。

操作ミスや状況判断ミスが事故や転倒につながる

 足でペダルを踏み込む自転車は、乗り方によっては有酸素運動や腸腰筋の鍛錬につながり、健康づくりに役立つといわれている。

「その一方で、シニアになると反射神経や運動能力が低下し、衝突事故や単独転倒事故が多くなるのも事実」と話すのは、自転車活用推進研究会理事長・小林成基さん。

 65才以上の高齢者は身体能力が全体的に低下するほか、視覚能力の衰えによる認知ミスや、バランス感覚・運動神経の低下による操作ミスが多くなるという。特にハンドル操作ミスはほかの世代の平均より約2.5倍にあたり、際立って多い。

 事故の内訳を見てみると、出合頭での衝突等が53.1%と最も多く、過半数を占めている。高齢者の場合は意識して注意を払っていても、体がついてこない場合がある。また、安全確認や一時停止等の標識の認知ミスによる事故も少なくない。転倒事故も、ほかの世代に比べて多い。

 このように、高齢者が自転車を運転する場合、若年層に比べて圧倒的に事故につながるケースが多いことを自覚しつつ、運転に臨んでほしい。

高齢者の自転車ハンドル操作ミスの割合比較図表

自転車での健康づくりに過度の期待は禁物?

 応用生理学の分野で自転車運動にも詳しい名古屋市立大学大学院教授の髙石鉄雄さんによれば、自転車で有酸素運動などの健康効果が期待できるのは、一部のタイプのみ。具体的には、競技用ロードバイクあるいはクロスバイクなどで、サドルを高くして前傾姿勢でスピードを出して走るものにほぼ限られるという。

 これに対して、“ママチャリ”と呼ばれる一般的な自転車でゆっくりペダルをこぐのでは、有酸素運動の効果はほとんど期待できない。

「高齢者だとペダルを回す速度が1分間に55回転から60回転で、サドルも低く、体が前傾せずに立った状態で、時速はせいぜい13~14kmほど。この速度だと運動量は平地を歩くのとあまり変わらず、まず有酸素運動になりません」(高石さん)

 とはいえ、ロコモティブシンドローム(運動器症候群。以下ロコモ)予防は期待できるとも。

「たとえママチャリでも、発進時と登坂時には、太ももにかなりの負荷がかかります。信号などで“止まって発進、止まって発進”の反復や、坂道を上る運動は、脚力を維持する無酸素運動につながります。傾斜2%の坂でも運動の強さが平地に比べ2倍になるため、これを継続して足の筋力を維持することは、ロコモ予防に効果があるといえます」(高石さん)     

撮影/浅野剛

※女性セブン2018年10月25日号

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この記事へのみんなのコメント

  • ひなこ

    車の運転をしている時に何度か高齢の方の自転車にヒヤッとしたことがあります。 健康にはいいところもあるかと思いますが、自分で危ない、周りから危ないと言われたら乗らない。お願いしたいです。

  • イチロウ

    残念ながら日本の道路環境は、低開発諸国並みですので、一部の有料道路を除き、危険が一杯ですので、高齢者が自転車に乗るのは止めた方が良いのです。 昭和の時代に未だモータリゼーションが進んでいない田舎に住んでいた時代には、私も他の児童と同じく自転車を利用していました、と言うよりも利用するしか無かったのでした。 青年期からは業務は言うまでも無く、通勤から日常生活に至るまで自動車が必需品でしたが、現役引退後には、その必要経費が嵩むことから自家用車は廃車し、徒歩が移動の唯一の手段になっています。 幸いなことに、私が住むのは都市部なので、自動車は勿論のことに自転車が無くても日常生活に困ることはありません。  超高齢化社会になると、郊外の新興住宅地の住民は、買物難民や医療難民、それに行政難民、と化します。 否、既に、そうなりつつあります。 加えて、それらの地域は、所属自治体自体が存続不可能になります。 今の中に、徒歩で移動可能な都市部に移住するしかありません。 日々、郊外から都市部まで自転車に乗り買物に行ったり、病院に行ったり、とされる元気がある方々は別ですが。

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