「自動運転車」が生活の一部になったら…どんな暮らしかシミュレーションしてみた
かつては漫画の世界だった「自動運転車」――だが、文明は進化を遂げて実現にあと一歩まで迫っている。そんななか、米国で思わぬ事故が起こってしまった。
3月18日、米国アリゾナ州で配車サービス大手「ウーバー・テクノロジーズ」の自動運転車が、自転車を押して横断していた49才の女性に突っ込み、死亡させたのだ。
「自動運転モードで走行中だった車は減速することなく、時速65キロで女性を弾き飛ばした。夜間で照明が暗かったため、障害物を検出するシステムが機能しなかったなどといわれていますが、原因はまだわかっていません」(米紙記者)
暗雲立ちこめる自動運転だが、それでも実現した場合、その恩恵を最も受けるのが高齢者だろう。
高齢者に多い判断ミスの交通事故
今年1月に群馬県前橋市で85才の男性が運転する車が2人の女子高生をはねて、1人が亡くなるという事故が発生するなど、近年、高齢者ドライバーによる事故が多発している。
交通ジャーナリストの今井亮一氏がこう指摘する。
「警察庁の交通事故統計によると、交通事故自体は年々減っています。2007年に83万件だった交通事故件数は2017年には47万件と、ほぼ半減しています。だが一方で65才以上の高齢者が第1当事者(加害者)となる事故件数はほぼ横ばい。85才以上に限れば、倍増しています」
高齢者に特有な“判断ミス”も顕著だと今井氏は続ける。
「アクセルとブレーキの踏み間違い事故についての調査では、2015年に起こった踏み間違い死亡事故58件のうち、実に50件が高齢者によるものでした」
頻発する高齢者による事故を受けて、2009年、75才以上のドライバーは免許更新時に認知機能検査が義務づけられ、2015年からは認知症と診断されれば免許の停止や取り消しとなる制度が設けられるなど、高齢者ドライバーを取り巻く状況は厳しくなる一方である。
運転免許返納がもたらす死活問題
また、高齢者の運転免許の自主返納が叫ばれるようになっている。都内で暮らす50代の女性は、「一刻も早く父親に運転をやめてもらいたい」と言う。
「78才の父は、いくらお願いしても運転をやめません。最近は自宅の車庫で壁にこすったり、スーパーの駐車場で他人の車にぶつけたりするようになった。それでも運転には根拠のない自信を持っていて…心配で仕方ありません」
運転免許を返納した場合、交通の発達した都市部ならまだしも、地方では死活問題である。高知県の山間部で暮らす83才の男性がこう話す。
「80才を超えた今も家と畑の往復に軽トラックを運転します。農機具や収穫した作物を手で持って運ぶのは無理だし、バスも廃線になってしまったから週2回の通院にもどうしても車が欠かせない」
“人生100年時代”ともいわれる現在、高齢者の移動手段の確保が重要となってくる。
夢の自動運転生活をシミュレーション
だからこそ、自動運転の実現に熱視線が注がれているのだ。“夢の自動運転車生活”。その内容を自動車ジャーナリスト・川端由美さんにシミュレーションしてもらった。
●家の前までお迎えの車が!
「20××年…43才の主婦、A子さんは夫、小学6年生の息子(11才)、70代の夫の両親とひとつ屋根の下で暮らしている。
朝食を食べ終わると、夫はいつものようにスマホを取り出しワンクリック。しばらくすると玄関前にお迎えの自動運転車がやってくる。指定時間ピッタリだ。もちろん運転手は不在である。
夫を見送った後、A子さんもスマホをクリック。少子化で統廃合が進み、5kmほど離れた小学校に通う息子のために再び車を呼んだ。
以前は夫を駅へ、息子を小学校へとA子さんが車を走らせていたが、今はその必要はない。続いて、デイサービスに通う義父と病院に行く義母を自動運転の送迎車に乗せる。もう以前のように義父の危なっかしい運転にハラハラすることもない。
家族を送り出し、洗濯機を回し、食洗機にお皿をセットすると、A子さんも出勤。自動運転の実用化によって、家族の送迎から解放されたことを契機に、3年前にフルタイム勤務に復帰したのだった。
AIとネットワークで交通量が管制されており、通勤時の渋滞もすでに昔話。運転する必要もないため、車内でお化粧をしたり、モニターでビジネス番組をチェックしたりと移動中も時間を有効活用できる。
勤務中でも、事前に設定しておけば、息子の下校に合わせて自動運転車が迎えに行き、塾へも送り届けてくれる。この日、上司に呼び出され、部長昇進の内示を受けた。自動運転がなかったら成し得なかったキャリアだ。
終業後、帰宅すると、今夜は飲み会だという夫以外で夕食。昇進の話をすると、義父に「お祝いに一杯飲もう」と誘われる。以前なら酔っぱらった夫を迎えに行かねばならないかも、とがまんしていたお酒だが、もうその心配も不要。ビールで乾杯しながら夕食を楽しんだ」
山積みの課題 未来を見据えて実現を目指す
――こんな夢のような自動運転生活だが、「まだ解決すべき問題は山積み」とアトム市川船橋法律事務所の高橋裕樹弁護士は指摘する。
「完全自動運転車が事故を起こしたら誰が責任を負うのかなど、法的な整備がまだなされていません。国交省がガイドラインを発表し、議論を行っている段階ですが、免許のない小学生を乗せて自動運転車を走らせるまでには、まだクリアすべき課題が多い」
前出の川端由美さんもこう話す。
「今回の事故のようにトラブルが起きると、どうしても批判が巻き起こってしまう。もちろん、死者が出てしまったことは悲しいこと。しかし、いたずらに批判するだけではなく、多くの人々が“未来”を見据えて、文明の進化とともに生じる課題に向き合って、対話することが自動運転社会実現への近道となるのです」
かつて飛行機が誕生した際も「鉄の塊が飛ぶわけがない」と批判を浴びた。だが、今では生活に欠かせない交通手段となっている。数十年後、自動運転車が高齢者を救っている社会であってほしい。
※女性セブン2018年4月19日号
【関連記事】
●電動アシスト自転車「軽い、乗りやすい、パワーある」が新潮流