フリマアプリを「終活」に活用する高齢者が増加「思い出の品の処分に利用 捨てるよりずっといい」
おなじみのフリマアプリ「メルカリ」が、高齢者を中心に意外な形で注目を集めている。不要品を売ったり、掘り出しものを購入するだけではなく、「終活」にも一役買っているというのだ。60才以上のメルカリ利用者たちは人生の節目にフリマアプリをどのように活用しているのか──。
60代以上の人たちは、「儲け」ではなく「不用品処分」が目的
フリマアプリ「メルカリ」が行った意識調査で興味深いものがある。2020年以降、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、フリマアプリの利用状況が大きく変わったというのだ。自宅で過ごす時間が増え、家にいながら買い物を楽しむ人が増えた中で、60才以上のシニア層がフリマアプリを活発に利用するようになったという。
数字で見ると、2020年4月から2021年3月の60才以上のメルカリ年間利用者数は、前年度と比べて約1.4倍に増加。同世代の年間購入商品総数も約1.4倍増、年間出品商品総数は1.6倍となっている。
調査に携わった経済アナリストの森永康平さんは、今回の結果について次のように解説する。
「総務省『家計消費状況調査』によると、2019年から2020年の1年間で65才以上におけるネット通販などのEC(電子商取引)利用率は5%も上昇しました。これは新型コロナの感染拡大で外出を控える高齢者が増加した影響だと考えられ、フリマアプリでも同様の傾向が確認されています。さらに、コロナ禍の不安による節約志向の高まりで、『お得に買い物をしたい』というニーズが増えたこともシニアのフリマアプリの利用を後押ししたと考えられます」
お金目的でフリマアプリを始めた60代は、20代の半数
ただし、節約や収入目的でフリマアプリを利用するのは圧倒的に若い世代の方が多い。メルカリが2019年に発表した調査では、フリマアプリの利用目的について20代の7割以上が「お金を得るため」と回答したのに対し、60代以上は約半数の35%しかいなかった。
目的調査|「60代以上のフリマアプリ利用実態」に関する意識調査(2019年)」
・お金を得るため
20代は71.6%、60代は35.0%
・不用品の処分をするため
20代は67.7%、60代は79.6%
・欲しいものをお得に購入のため
20代は38.8%、60代は51.7%
・品切れ商品、限定品の購入のため
20代は16.3%、60代は9.7%
・買い物に行く時間の節約のため
20代は7.8%、60代は10.7%
・売買相手とのコミュニケーションのため
20代は4.1%、60代は4.1%
・誰かの役に立つため
20代は3.2%、60代は10.9%
・その他
20代は1.2%、60代は1.2%
60代の平均出品数は20代の約2倍
ところが出品数の多さでは数字が逆転する。昨年度調査によると、20代の平均年間出品数が1人あたり約39個だったのに対し、60代以上は約72個とほぼ2倍に上る※。これは、「儲け」ではなく「終活」への意識の表れだと考えられている。
※『60代以上の「メルカリ」取引データ分析』および『COVID-19拡大に伴う60代以上の意識・行動変化とフリマアプリ利用』に関する調査(2021年)
思い出の品の処分、遺品整理などに活用
実際、フリマアプリを利用したことがないシニアで「終活・生前整理を意識している」と答えたのは57%だったが、コロナ禍にフリマアプリを利用したシニアでは70.9%が「意識している」と回答した。
都内在住の三宅奈津子さん(仮名・70才)も、終活の一環として2年前からメルカリの利用を始めた。
「コロナ禍で外出の機会がなくなり、持っていても使い道がないので若いときから集めてきた靴やバッグ、アクセサリー、洋服類を売ることにしました。最初は子供に頼んで、車で数十分のところにあるリサイクルショップへ持ち込んだのですが、『デザインが古い』だの『時代遅れ』だのと言われ、値段がつきませんでした。私にとっては思い出の品ですから悔しくて落ち込んでいたら、孫がメルカリを教えてくれたんです。すると、リサイクルショップで0円だったものが意外に売れる。送料を負担すると、多くても月2000~3000円の儲けしかありませんが、捨てるよりずっといい。誰かが使ってくれると思うとうれしくなります」
街のリサイクルショップとは比較にならないほど幅広い年代の利用者が存在するメルカリは、「こんなものまで!?」と驚くアイテムにも値がつくことがある。
失業した息子一家と同居することになった関東在住の箕輪すみれさん(仮名・68才)は、荷物置き場になっていた部屋の整理がてら、メルカリに出品するようになった。
「出しているのは、主人と私の不要品。私は社交ダンスの衣装や油絵の道具、カメラなど。主人はゴルフバッグ、将棋セット、釣り道具などです。釣り道具なんて、年季が入っていて傷だらけですが、『初心者だから、使い込まれた道具の方が扱いやすい』と購入を希望する人がいるんです。特にフィルムカメラは人気商品。『中古店を探し回っていたから、見つけられてラッキーです』なんてメッセージを購入者のかたからもらったこともあります。なかには粗大ゴミ扱いで処分にお金がかかるものもありましたが、メルカリなら数百円の儲けに変わる。半年ほどで30万円以上は稼ぎました」
親族の遺品をフリマアプリに出品する人もいる。
九州在住の橘恵美子さん(仮名・67才)は昨年亡くなった夫の遺品整理のためにメルカリを始めた。
「おしゃれが好きな人だったので、時計やバッグ、コート、革ジャン、未使用の靴、シャツ、ネクタイなど、高価なものが状態のいいまま、たくさん残されていました。時代を選ばない定番商品が多く、昭和に購入したコートなんか、最近では見ないほど仕立てがしっかりしているんです。男性ものは売れにくいといわれていますが、値段を数百円にしているおかげで、いまのところ完売です」
しかし、「大事な遺品をメルカリで安く売って」などと、知人から非難されたことも。
「生前の主人は亭主関白で、何度も浮気を繰り返していました。捨てるのは惜しいけど、家には置いておきたくないものなんです。私は昔からラッピングが得意で、発送するときはきれいな包装紙で包んでリボンをかけ、ちょっとしたメッセージを添えて送ります。出品したときのわくわく感、売れたときの達成感、発送の楽しさなど一連の作業が楽しくて、すっかり新たな趣味になっています」(橘さん)
ゴミとして処分するのは心苦しいが、必要とする人のもとへ届けられるメルカリは喜びを感じられることも珍しくない。一度利用すると、あれもこれもと出品したくなる心理はそこにある。森永さんは言う。
「廃品回収や中古品買取サービスを利用しても、ほとんどお金にならなかったり、場合によっては逆にお金を請求されることもあり、ガッカリしてしまうケースも多い。その点、メルカリは高く売れはしないものの、『売れたらいいな』程度で気軽に出品できますし、自分で値段を設定できるので徒労感も少ない。その上で、必要な人にちゃんとお譲りできたという満足感を得られます」
この「満足感」こそが、老後の生活を格上げしてくれる重要なポイントだ。
見ず知らずの人から必要とされる
メルカリが行った調査では、利用したシニアが他者とのつながりを感じられるようになったことも示されている。
「フリマアプリの利用を通じて、売買相手に親近感を覚えますか?」という設問では、合計34.8%が「覚える」「やや覚える」と回答した。メルカリがシニアのコミュニケーションツールとして一役買っていることに森永さんも驚いたと話す。
「You Tubeを見たり、オンラインゲームをしたり、若い人は家でひとりでも時間を潰したり他者と交流する方法を知っていますが、高齢者は家で過ごす方法を知らない人が多い。メルカリは出品者の個人情報の開示はされていませんが、ユーザー同士が質問やメッセージを送り合うことができます。コミュニケーションが本来の目的ではなく、あくまで不要品を売買するための連絡手段ですが、見知らぬ相手とオンラインで直接コミュニケーションを取れたという二次的な価値が大きいのでしょう」
フリマアプリ利用後の意識変化の調査|「60代以上のフリマアプリ利用実態」に関する意識調査(2019年)
・売るときのことを考慮し、ものを大切に扱うようになった
60代のアプリ利用者 60.3%、20代のアプリ利用者 66.7%
・趣味やファッションなどをより気軽に楽しめるようになった
60代のアプリ利用者 30.6%、20代のアプリ利用者 39.0%
・社会とのつながりを感じられるようになった
60代のアプリ利用者 26.8%、20代のアプリ利用者29.1%
・フリマアプリで売れるから、買い物が楽しくなった
60代のアプリ利用者 26.8%、20代のアプリ利用者 29.1%
・新品を購入するとき、フリマアプリで売れるかを考慮するようになった
60代のアプリ利用者 38.5%、20代のアプリ利用者 38.5%
・新しいことを始めたくなった
60代のアプリ利用者 23.4%、20代のアプリ利用者 11.7%
・生活の不安が軽減した
60代のアプリ利用者 7.7%、20代のアプリ利用者 15.0%
・その他
50代のアプリ利用者 5.3% 20代のアプリ利用者 3.3%
“もの”を通じて、同じ趣味嗜好の人とつながりを持てることもメルカリの醍醐味。ほかのSNSと違い、性差の壁が生じにくいこともメルカリの特徴だと森永さんは分析する。
「ツイッターやインスタグラムなどのSNSでは、異性の書き込みにコメントをすると『何かあるんじゃないか』と勘ぐられたり、無意識的にブレーキをかけてしまうことがある。しかし、“ものの売買”という明確な目的があるメルカリでは相手の性別を気にする必要がありません。同じものをいいと思った“共通の趣味の相手”に対し、『それ、いいですよね』と、ちょっとしたやり取りをするだけなのでハードルも低い」
宮城県の竹田洋子さん(仮名・66才)も、メルカリで新たな交流ができたと語る。
「最初は買う一方だったのですが、ハンドメード品がたくさん出品されているのを見て、過去に趣味で作っていたビーズアクセサリーを売ってみることにしたんです。そうしたらリピーターのかたが何人もできて、『こんな商品はありませんか?』とリクエストをもらうことも増えました。見ず知らずの人から必要とされることがうれしくて、10年ぶりにビーズ細工を再開して、やる気がみなぎっています。いつか貯金している売り上げで旅行をして、遠方に住むリピーターさんに会いに行きたいです」
初心者向けの教室も開催
冠婚葬祭のもらいものを中心に出品しているという岡山県の寺内美帆さん(仮名・68才)は、「見ているだけでも楽しい」と話す。
「初心者向けのメルカリ教室というのがあって、友達に誘われて参加したのがきっかけ。いまはコンビニにメルカリ専用の箱が売っているし、想像以上に簡単に発送できます。アプリを眺めているだけでも、出品者の背景が見えておもしろい。『この人はきっと医師か代議士の家の人ね。いいものを出しているからチェック』とかね(笑い)。好きな陶芸家の名前で検索すると、予想外の掘り出しものが見つかって感激することもあります」
コロナ禍が終わっても、メルカリの需要は変わらないと森永さんは予想する。
「物価の高騰により、節約志向が強い現役世代は、ますますメルカリを利用するでしょう。高齢者にとっても、孤独感と生前整理の問題を同時に解消するひとつの手段となる。人それぞれ、多様な目的でメルカリが活用されるはず」
不要品だと思っていたものが、どこかの誰かに感謝されるきっかけになるかもしれない。「儲け」や「お得」以上に、利用してみる価値がありそうだ。
※女性セブン2022年7月21日号
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