1000万人が悩む変形性膝関節症 ひざ痛におすすめ「ひざ皿ストレッチ」を医師が指南
中高年になると、ひざの痛みに悩まされる人が多い。厚生労働省によると、「変形性膝関節症」は、自覚症状のある患者で約1000万人、潜在患者数は3000万人にも上るという。『ひざの激痛が30秒~でよくなる ひざ皿ストレッチ』の著書もある整形外科医の渡辺淳也さんに、簡単にできるストレッチを教えてもらった。
変形性膝関節症は、長年の摩耗で軟骨がすり減り、半月板の変形や骨棘(※)ができるなどで、ひざ関節が変形する病気。軟骨は40才を超えると一気にすり減りが進みます。中高年のひざ痛の9割は変形性膝関節症と考えられている。しかも、50才以上の発症率は女性の方が男性より1.5~2倍も多いとか。
(※)関節軟骨のすり減りによって関節の周囲が骨化し、トゲのようになること。
女性の発症者が多い要因として、軟骨を守る働きがある女性ホルモンの減少、同じく女性ホルモンの減少による骨粗しょう症がある。骨密度が低下していくと骨がもろくなって軟骨を支える力が弱まり、ひざ関節の変形を招きやすくなるのだ。
日常のケアや、ほかの病気の可能性は?
「変形性膝関節症になる原因は、『加齢』『肥満』のほか、『運動不足』も大きい。特に、ひざ皿と直結する大腿四頭筋(しとうきん)(太ももの前側の筋肉)は、ひざを衝撃から守ってくれる重要な筋肉ですが、大きな筋肉のため、衰えも顕著です。大きな筋肉は20代以降、年間1%ずつ衰えていくといわれるので、何もしなければ、25才時の筋肉は75才で半分になってしまいます。
変形性膝関節症の進行を止めるためにも筋トレは必要。病院では、痛いかたには水を抜く、薬や注射という処置をしますが、それで進行が止まるわけではありません。元気なひざを取り戻すには、ひざ皿まわりを柔らかくし、太ももの筋肉を鍛えるケアを日頃から行うことです」と、医師の渡辺淳也さん。
ひざ皿を柔軟にするケアは後で紹介するが、変形性膝関節症以外の可能性はあるのだろうか?
「半月板損傷や軟骨損傷も、広い意味で変形性膝関節症に含めます。それ以外では、発症頻度は低いですが、関節リウマチ、特発性骨壊死が考えられます。前者は自己免疫疾患で、高齢で発症する患者さんが増えています。初期は、変形性膝関節症と同様、滑膜炎によるひざの腫れや痛みがあるため判断しづらいのですが、リウマチを適切に診断し治療しないと、関節の変形が進行してしまうため、内服による早期治療が必要です。後者は、別名“軟骨下脆弱性骨折”と呼ばれ、骨粗しょう症で骨がもろくなっているかたがけがをきっかけに発症することが多いのです。早期にMRIで発見できれば、免荷(体重をかけない処置)といった早期治療で後遺症なく治癒することが多いのですが、変形性膝関節症と誤って処置を続けてしまうと骨折部が陥没し、ひざの変形が進行し、人工関節などの手術が必要となる場合もあります」
ともに早期発見が必要。気になる人は整形外科に相談を。
ひざ痛予防&痛みも消える“ひざ皿ストレッチ”
歩くのが大変な人・運動ができない人でも大丈夫。ここからは、渡辺さんが患者に指導するストレッチをご紹介。注意事項は、ひざ皿に圧を直接かけないこと。けがのもととなるので、ひざ皿まわりを押さえながらやさしく動かそう。1日2セットを目標に。ひざ痛のある人は痛い方のひざを(両ひざでもOK)、痛くない人も両ひざをほぐしておいて損はありません。ウオーキングの前後にも最適です。
■足ぶらぶら15秒
・椅子に座り、ひざを少し持ち上げ、ひざから下をぶらぶらと約15秒ゆらす(痛い人は痛い方のみでOK・以下同)。
・15秒経ったら、ゆっくり立ち上がり、少し歩いてみて、まだひざが痛ければ、もう少しゆらしてみよう。
《Point》
「変形性膝関節症の特徴の1つが、動き出しの痛み。これを解消するには、関節液の循環をよくし、膝蓋下脂肪体を和らげてひざ皿の滑りをなめらかにする『足ぶらぶら』からスタート。15秒ゆらしてもひざの痛みが続く場合は、もう少し長めに行いましょう」(渡辺さん・以下同)。いずれも、痛みが強いときは行わないこと!
■「ひざ皿ゆらし」上下・左右各10回×10回
【1】椅子に座り、ひざをまっすぐに伸ばし、ひざ皿の側面を両手の親指・人差し指でつまむ。上から押さえると軟骨を傷つけるので、側面を軽く押さえるように(イラスト【3】)。背筋を伸ばし、ひざはできるだけまっすぐに。
【1】の状態で、【2】のようにひざ皿を上下に10回、その後、左右に10回(【3】)、30秒くらいかけてゆっくりとスライドさせる。これを10回繰り返す。
《Point》
「膝蓋下脂肪体が硬くなると、ひざ皿まわりの筋肉や靱帯と癒着し、よりガチガチに。膝蓋下脂肪体をほぐし、癒着を取るのに効果的なのがこのストレッチ。その場で痛みが和らぎ、ひざの曲げ伸ばしがしやすくなることが実感できます」
■「ひざ伸ばし」 1セット30秒×10回
・椅子に浅く腰掛け、ひざをまっすぐに伸ばし、つま先を上に向ける。
・伸ばした方の足に、太ももからひざ皿のまわりを包み込むように両手を置き、軽く押しながら30秒キープする。このとき、両手はひざ皿の上に直接置かず、強く押しすぎないように注意する。
《Point》
「ひざ皿まわりやひざ裏の筋肉が硬くなると、ひざがしっかりと伸びず、ひざの左右にある靱帯のバランスが崩れて不安定に。ひざの安定性が崩れると関節軟骨がすり減りやすくなるのです。そんなときは、裏側から伸ばす運動が必要です。できる範囲で無理なく行いましょう」
■「ひざ曲げ」 1セット30秒×10回
・背筋を伸ばして椅子に深く腰掛ける。
・すねを両手で抱え、姿勢をキープしたまま、ひざを胸に引き寄せる。椅子の背にもたれないよう姿勢を維持し、30秒キープ。
《Point》
「膝蓋下脂肪体が硬くなり、ひざまわりの組織との癒着が進むと、太ももの筋肉や靱帯も硬くなって縮んでいき、ますます痛みを感じやすくなります。曲げ伸ばしによって、膝蓋下脂肪体のクッション機能を取り戻す運動です」
■「前もも(大腿四頭筋)伸ばし【1】」1セット30秒×10回
・うつ伏せになって両足を伸ばし、両手をあごの下で組む。肩の力を抜き、全身リラックスすること。
・ひざを曲げ、かかとをお尻に軽く近づける。曲げた足の甲を同じ方の手で持ち、お尻の方に引き寄せ、大腿四頭筋が伸びていることを感じながら30秒キープする。
《Point》
「ひざ皿を滑らかに動かすためには、ひざのみならず、周囲の筋肉を含めて鍛えた方が効果的です。なぜなら、筋肉がひざを守ってくれるからです。特に太ももの前側に伸びる大腿四頭筋は、歩くときのひざのぐらつきを抑制してくれるほか、ひざを曲げ伸ばしするときにもしっかりと支えてくれ、軟骨の変形を防ぐ重要な筋肉です。大腿四頭筋はひざ皿と直結しているため、硬くなりやすい筋肉でもあるので、念入りにストレッチをすれば、もっと足が動きやすくなるでしょう」
■「前もも伸ばし【2】」1セット30秒×10回
・仰向けに寝て、両手は体の横に伸ばし、手のひらを下に向ける。両ひざを立て、足はできるだけひざの真下に置く。力を抜いてリラックスすること。
・両手を床に置いたままお尻を持ち上げ、体の前面を伸ばした状態で30秒キープ。肩に力を入れず、大腿四頭筋に意識を集中させる!
《Point》
「変形性膝関節症で痛みがある人が大腿四頭筋のストレッチを行う場合、立って行うとひざに負担がかかるので、寝た姿勢ですることがおすすめです。ひざを立てたときの足の位置は、できるだけひざの真下に置いた方がストレッチ効果は高いですが、ひざが痛いかたは無理をせず、足の位置をひざから離して行ってください。ひざの調子を見ながら、30秒キープ×10回にチャレンジしてみましょう」
教えてくれた人
■整形外科医 渡辺淳也さん/千葉大学整形外科学講座客員教授、医療法人社団淳朋会変形性関節症センター長。著書に『ひざの激痛が30秒~でよくなる ひざ皿ストレッチ』(文響社)。
取材・文/佐藤有栄 イラスト/勝山英幸、かたおか朋子
※女性セブン2022年6月23日号
https://josei7.com/
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