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『鎌倉殿の13人』14話 頼朝に義仲追討の命!息子・義高(市川染五郎)はなぜ蝉の抜け殻を握り潰したのか

 NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』14話。頼朝(大泉洋)に義仲(青木崇高)追討の命が下された。人質として預かっている義仲の息子・義高(市川染五郎)は、頼朝の娘の大姫(落井実結子)の許嫁でもあるのに……。暗黒の気配が立ち込めてきた『都の義仲」(副題)の回を、歴史とドラマに詳しいライター、近藤正高さんが振り返りながら解説します。

三種の神器を知らなかった義仲(青木崇高)

『鎌倉殿の13人』第14回は、義時(小栗旬)が前回のラストでついに結ばれた八重(新垣結衣)に、「ご無理はなさらないで」「八重さんが待っていると思うと無理が無理でなくなるのです」などと仲睦まじく言葉を交わしながら、江間の館から鎌倉に出勤する場面で始まった。

 続いて、やはり前回、木曽義仲(青木崇高)から頼朝(大泉洋)へ人質に差し出された義仲の息子・義高(市川染五郎)が鎌倉に入る。頼朝が義高を表向きは娘の大姫の許嫁として迎え入れたことに、妻の政子(小池栄子)は当初反発し、「木曽の山猿」と呼ばれる義仲の息子ゆえ「どうせ猿面に決まってます」と決めつけた。だが、実際に義高と面会するとその美男子ぶりにすっかり魅了されてしまう。幼い大姫(落井実結子)も優しそうな彼に好意を抱いた様子であった。実際、義高は大姫をかわいがり、ときに義時も交えながら仲良く遊ぶ日々がしばらく続くことになる。

 ちょうどそのころ、北陸に勢力を伸ばしていた義仲は、自身を追討するため迫った平家軍に対し、決起ののろしを上げた。寿永2年(1183)5月のことである。義仲軍はたちまち平家軍を打ち破り、京に向かって進撃する。これに平家の一門は恐れをなして都を脱出し、西国へと逃げ落ちる。このとき、一門の棟梁である平宗盛(小泉孝太郎)は、三種の神器とともに幼い安徳天皇(相澤智咲)を連れ出した。

 三種の神器とは、ドラマのなかでも説明されていたとおり、歴代の天皇が受け継いできた八咫鏡・八尺瓊勾玉・草薙剣という3つの宝物のことである。三種の神器は皇位のしるしゆえ、平家は後ろ盾とした安徳天皇の正統性の根拠とすべくそれらを持ち出したのだ。

 しかし、平氏と入れ替わりで京に入り、叔父の行家(杉本哲太)とともに後白河法皇(西田敏行)に謁見した義仲は、三種の神器を知らなかった。このとき、法皇より扇を賜るや義仲がいきなりそれを開いてパタパタ仰ぎ出したことといい、彼の無教養で礼儀知らずな言動にその場に居合わせた公家たちはあきれ返る(この場面で公家のひとり九条兼実を演じていたのが、お笑いコンビ・ココリコの田中直樹だと知って驚いた)。

 ただ、扇パタパタはともかく、実際には、いくら田舎育ちとはいえ義仲だって三種の神器ぐらいは知っていたのではないだろうか。それというのも、ドラマでは描かれなかったものの義仲はこのとき、かつて平家に対し挙兵して敗れた以仁王の遺児・北陸宮(後白河法皇の孫にあたる)を擁し、法皇が新たな天皇を立てる際には強く推薦していたからだ(もちろん、田舎出身のポッと出の義仲がそんな進言をして聞き入れられるわけもなく、法皇は先帝の高倉天皇の第4皇子だった後鳥羽天皇を即位させる)。それだけに、皇位継承には欠かせない三種の神器を知らなかったわけはないと思うのだが……。

 ともあれ、義仲が公家たちから田舎者扱いされていたことは、『平家物語』でも伝えられる。ドラマのなかでは、義仲が法皇の御所へ牛車で参じた折、門前で車から飛び降りて、公家たちにあざ笑われるシーンがあった。なぜ笑われるのか、いまいちわかりにくかったが、これは牛車は後ろから乗り、前から降りるものと決まっているのに、義仲は後ろから降りたからである。『平家物語』には、義仲が雑色(法皇の御所などで雑務に従事した下級役人)から注意されながらもかまわず牛車を後ろから降りる話が出てくる。

 義仲をめぐっては、配下の武士たちが乱暴狼藉を繰り返して京の治安を大きく乱したがために、彼自身も粗野なイメージで語られがちである。だが、少なくとも『鎌倉殿』の義仲は、信濃にいた頃から実直な人柄に変わりはない。それでも置かれた環境が変われば、その性格が仇になることもある。後白河法皇が源氏一門に平家追討の恩賞を出すに際し、勲功第一を義仲ではなく頼朝としたとき、義仲が「恩賞など頼朝にくれてやるわ」などと言って気にしない態度をとったのも、彼の実直さの表れだが、おそらく公家たちに足もとを見られる一因になったことだろう。

抜かりない頼朝だが(大泉洋)

 これに対して、頼朝が法皇にあらかじめ書状を送り、朝廷の指図のもと西国は平家、東国は源氏で治めるよう定めてはどうかと提案していたのは、まったく抜かりなかった。そもそも頼朝は、伊豆の流人時代より在京の三善康信(小林隆)から情報を仕入れ、鎌倉殿となってからは京より大江広元(栗原英雄)ら文官を招いてブレーンに据えるなどして、都の動向を絶えず把握していた。義仲とはその時点で大きく差がついていたといえる。

 もっとも、法皇が頼朝を源氏の棟梁扱いしたことに、行家が義仲をともなって強く抗議したため(義仲が牛車で御所に参じたのはこのとき)、頼朝の勲功第一は取り下げられる。それでも頼朝は、義仲が備中で平家と戦っている隙を突いて法皇に接近すると、莫大な引き出物を京に届け、文にて上洛が遅れていることを詫びた。法皇はこれに応え、頼朝の流罪を解き従五位下の位に復帰させる。さらには頼朝に東海道・東山道の軍事支配権を認める宣旨を出した。いわゆる「寿永二年十月宣旨」である。

 頼朝に権限が認められた東山道には、義仲の所領である信濃も含まれる。それだけに義仲はショックを受け、すぐさま異議申し立てのため京に戻って法皇の御所に赴く。しかし、止めに入った“鼓判官”こと平知康(矢柴俊博)にケガを負わせてしまった。すでに義仲には平家と和睦を結んだとの噂が立っていただけに、法皇は謀反と騒ぎ立てる。

 ここから頼朝に義仲追討の命が下った。だが、頼朝は頼朝で大きな問題を抱えていた。彼に対しては亀の前事件以来、岡崎義実(たかお鷹)や千葉常胤(岡本信人)ら少なからぬ御家人たちが不満を募らせており、とても上洛できる状況ではなかったのだ。反頼朝派の御家人は当然、義仲追討にも、源氏の争いになぜ自分たちが兵を出さねばならないのかと反対する。そのため苦肉の策ながら、鎌倉からはまず先陣として少数の兵を送り、本陣はあとから出すことになる。

 義仲を敵に回すことには、政子も義高と大姫の関係を案じて反対した。義時もまた戦を回避すべく、義高に対し、義仲には頼朝と戦う意思はないと頼朝宛てに文をしたためてくれないかと頼み入れる。これを聞いて義高は、父は義にもとることはけっして許さず、鎌倉殿(頼朝)に義がなければ絶対に受けて立つとして、「鎌倉殿に義はありますか?」と返した。頼朝にとって義仲との戦はまず何より、自分が源氏の棟梁だと世間に示すためであり、そこに義があるとはとてもいえない。義高の問いに義時は黙るしかなかった。

父に戦でかなうわけがありません

 こうして義を見出せないまま先陣の出発の日が訪れる。大将には頼朝自ら弟の義経(菅田将暉)を抜擢した。相手こそ平家でないものの待ちに待った戦とあって義経は喜び勇み、出陣に際し「兄上のために全身全霊を傾けて戦い抜きまする」と頼朝に誓う。これに頼朝も、黄瀬川での対面以来じっくり二人きりで話したことはなかったなと、「戦から戻ったら語り尽くそうぞ」と約束を交わした。だが、兄弟が再び語り明かす日など永遠に訪れないと薄々察せられるだけに、この場面にはどこか寂しさを感じずにはいられなかった。

 義経は出陣に際し、義高にも会ってあるものを渡していた。それは、彼が以前集めていると話していた蝉の抜け殻だ。しかし、義経の戦う相手がほかならぬ自分の父親とあって、義高の顔は浮かない。義経を見送ったあと、一緒にいた義時に「九郎殿(義経)が不憫でなりません」「父に戦でかなうわけがありません。もはや再びお会いすることもないでしょう」と言うと、手に持った抜け殻を握りつぶすのだった。

 以前登場した鳥のツグミと同様、今回の蝉の抜け殻にも何やら深い意味がありそうである。すぐに思い浮かぶのは、この世、あるいはこの世に生きている人間を指す「うつせみ」という言葉だ。この語は平安時代以降、「空蝉」という漢字を当てて、蝉の抜け殻という意味でも使われるようになった。これを踏まえて解釈するなら、義高が抜け殻を握りつぶしたのは、無意味な争いが絶えないこの世のむなしさ、それを起こす人間の愚かさを憂えてのことではなかったか。

 頼朝と義仲の関係に亀裂が入る一方で、鎌倉の御家人たちも2つに分裂しようとしていた。梶原景時(中村獅童)は反頼朝派の御家人の集まりに潜入した上で、彼らをまとめる力がある者が加われば、そのときは自分たち頼朝寄りの御家人に勝ち目はないと分析する。御家人のなかで「まとめる力がある者」といえば、上総広常(佐藤浩市)以外に考えられない。

 この時点で広常はどちらの側にも与していなかったが、直後に義時は大江広元の求めに応じ、広常に対して、もし反頼朝派から誘われたら乗ってほしいと依頼する。果たして広元(おそらく景時の入れ知恵も受けてのことだろう)はどういう意図で、広常を不満分子の側につけたのか。陰謀の匂いをプンプン漂わせながら、物語は暗黒面へと落ちていく……。

文/近藤正高 (こんどう・ まさたか)

ライター。1976年生まれ。ドラマを見ながら物語の背景などを深読みするのが大好き。著書に『タモリと戦後ニッポン』『ビートたけしと北野武』(いずれも講談社現代新書)などがある。

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