毒蝮三太夫「親の介護にきょうだいが一切関わってくれない」と嘆く女性に打開策を提言する
「きょうだい仲良く助け合って親を介護する」のは、理想ではあるが実際は容易ではない。両親をひとりで介護している女性。姉と弟に助けを求めても、まったく取り合ってくれないという。精神的にも肉体的にも追い詰められていく一方だが、さてどうすればいいのか。マムシさんが、八方ふさがりな現状を打開する“一手”を提案する。(聞き手・石原壮一郎)
今回のお悩み:「姉と弟が両親の介護に関わってくれない」
お悩み相談に答えるのは久しぶりだな。前回と前々回は「スペシャル対談」ってことで、長い付き合いの木久ちゃん、じゃなくて林家木久扇師匠と久しぶりにゆっくり話した。元気そうでよかったよ。あいかわらずバカを貫いているのもたいしたもんだよね。
今回は48歳の女性からの相談だ。職業は「知的障害支援者」とある。たいへんな仕事だ。仕事もだけど、日々の介護ときょうだいとの関係もたいへんみたいだな。
「認知症の父親と脳梗塞の後遺症がある母がいて、ひとりで介護しています。3人きょうだいですが姉と弟は、両親の介護にまったく関わってくれません。メールなどで介護の疲れを訴えて『週に1回でもいい、2時間でもいいから代わって欲しい』と頼んでも、まったく助けてくれませんでした。このままでは私が倒れてしまいますが、倒れたら両親を見る人がいなくなってしまいます。どうしたらよいでしょうか。お知恵を貸してください」
回答:「最後のチャンスを与えて、それでも埒が明かないなら内容証明郵便を送る方法もある」
お父さんが認知症で、お母さんにも脳梗塞の後遺症があるわけか。そのふたりの面倒を見るのは、並大抵のことじゃない。しかも、苦労の多い仕事もやってる。頭が下がるよ。きっと、がんばり屋さんなんだろうし、やさしい性格でこれまでもいろんなことを自分で引き受けてきたんだろう。
ただ、それをいいことに、姉も弟も完全にあなたに甘えてるようだ。知らん顔していればやってくれるとタカをくくってる。気の毒というか、他人ごとながら腹立たしいよ。だって姉にしても弟にしても、自分の親のことだろ。仮に何らかの事情があったとしても、まったく手伝えないなんてことはないはずだ。
昔から「きょうだいは他人の始まり」って言葉がある。きょうだい仲良く助け合って親の介護ができたら、それは素晴らしいことだ。だけど、なかなかそうはいかない。しっかりしている側に対して甘えが出たり、身内だからこそわがままになったりもする。押しつけられたほうも、当然だけど「きょうだいなのにどうして助けてくれないの」と思ってしまう。
自分がどれだけ困っているか、いかにギリギリの状態か、それをふたりに思い知らせようじゃないか。言葉やメールだと「また言ってる」と思うだけだ。こんな手紙を出してみたらどうかな。「父親と母親の介護をひとりでやってきて、私はもう限界です。このままだと自ら命を絶ってしまうかもしれません。ご窮状をお察しの上、ご協力いただきたい。お返事をお待ちしております」って。
それで、もう一度しっかり話し合う機会を持つ。チャンスを与えるわけだ。「子はかすがい」という言葉があるけど、「親はかすがい」となって、きょうだいが結束してひとつになるかもしれない。それでも埒が明かないなら、内容証明郵便で窮状を訴える手紙をふたりに送りつけよう。これまでの恨みつらみも伝えたいところだけど、それよりも今どれだけたいへんか、どうして欲しいかを具体的に伝えたほうがいいだろうな。
受け取ったほうは「これは本気だな」とギクッとするし、そうなるとどうにかしないわけにはいかない。内容証明郵便を送ったのに相手が何もしなかったら、それは要望を無視したという物的証拠にもなる。「きょうだいに対して、そこまでしなくても」と思うかもしれないけど、逆なんだよ。きょうだいだからそこまでしないと伝わらないんだ。向こうが「こんなの送るなんてひどいじゃない」と言ってきたら、「ひどいのはどっちだ」と言ってやれ。
それと、世の中のこうした実例を見ていると、介護から逃げ回っていたきょうだいに限って、遺産相続になると「絶対に均等に分けろ」と言い出す。もしもある程度の遺産があるなら、「介護に協力する気がない場合は、遺産分割にも影響するとご承知おきください」と伝えてみるのもいいな。いろいろ言ってきたとしても、気にすることはない。
もはや「きょうだい仲良く」は難しいかもしれないけど、「助け合って」は、どうにか間に合う。大切なのは、あなたが介護疲れで押しつぶされて、人生を台無しにしないことだ。自分を守ることが、大切なお父さんとお母さんを守ることにもなる。毎日ヘトヘトだろうけど、力を振り絞って状況を変えるきっかけを作ってほしい。
手紙は手紙で送るとして、役所なり何なりの窓口にも相談してみよう。きょうだいに「どうにかしろ」と詰め寄るにせよ、公的な支援に頼るにせよ、後ろめたく思う必要はまったくない。こうやって俺に相談を送るという一歩を踏み出したわけだ。それは勇気ある一歩だよ。さらに次の一歩を踏み出して、また踏み出して、どんどん前に進もうじゃないか。
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毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう)
1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からパーソナリティを務めているTBSラジオの「ミュージックプレゼント」は、現在『土曜ワイドラジオTOKYO ナイツのちゃきちゃき大放送』内で毎月最終土曜日の10時台に放送中。86歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など精力的に活躍中。2021年暮れには、自らが創作してラジオでも語り続けている童話『こなくてよかったサンタクロース』が、絵本になって発売された(絵・塚本やすし、ニコモ刊)。4月9日からポッドキャストで大沢悠里さんとの80代コンビによる新番組「大沢悠里と毒蝮三太夫のGG放談」がスタート。ストリーミングサービス「スポティファイ」で視聴できる。
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取材・文/石原壮一郎(いしはら・そういちろう)
いしはら・そういちろう 1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。最新刊は「【超実用】好感度UPの言い方・伝え方」。この連載では蝮さんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。