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『鎌倉殿の13人』10話 『新選組!』のオウムを思い出す、ツグミが意味すること

 NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』10話。頼朝(大泉洋)の仮御所に続々と新たな人物が登場し、それぞれが怪しい動きを見せる「根拠なき自信」(副題)の回を、歴史とドラマに詳しいライター、近藤正高さんが振り返りながら解説します。

頼朝(大泉洋)の姿がショックで寝込む八重(新垣結衣)

 前回、平家との戦いを一時休止した源頼朝(大泉洋)は、まずは政権の地盤固めに力を注ぐことになる。第10回では、鎌倉の仮御所に続々と新たな人物が登場した。そのひとり牧宗親(山崎一)は、北条時政の妻・りく(宮沢りえ)の兄で、頼朝の妻・政子(小池栄子)に作法を教えるため招かれた(宗親はりくの父という説もある)。宗親の指導はなかなかに厳しく、さすがの政子もヘトヘトになる。

 宗親に続き、前回頼朝と涙の面会を果たした源義経(菅田将暉)、さらにやはり頼朝の弟である源範頼(迫田孝也)も遠江から駆けつけ、政子に挨拶する。そもそも彼らを政子に引き合わせた男も新顔で、彼女から問われてようやく足立遠元(大野泰広)と名乗った。彼は頼朝より御所の世話を取り仕切るよう命じられてやって来たという。

 新顔といえば八重(新垣結衣)も、御所で侍女として働き始めていた。もっとも、お姫様育ちだけに包丁を持つ手はさすがにぎこちない。そんな彼女に幼馴染の北条義時(小栗旬)はいまなお好意を抱き、草餅(ちなみにこの時代の草餅にはヨモギではなくハハコグサ――春の七草のひとつゴギョウが使われていたという)を差し入れして気を引こうとするが、かえって相手を困惑させてしまう。その様子を鋭い目で見つめる者がいた。頼朝の妾・亀(江口のりこ)である。

 亀はひと足先に御所に入り、まるで自分が侍女たちを取り仕切っているかのように振る舞っていた。さらには八重が頼朝の前妻だと知ると、彼女に頼朝の寝室へ食事を運ばせ、自分と一緒にいるところを見せつける。頼朝は頼朝で、まさか八重が御所にいるとはつゆ知らず、しかも妾の存在がバレて、あっけにとられるばかり。それ以上に八重のショックは大きく、しばらく寝込んでしまった。

 今回は義時や亀だけでなく、登場人物たちがやたらと怪しい動きを見せる回だった。前半では、鎌倉から遠く離れた西国に幽閉されたままの後白河法皇(西田敏行)が、久々に登場の怪僧・文覚(市川猿之助)を呼び寄せたかと思うと、「人を呪い殺すことはできるか」と訊ねていた。これに文覚も「誰に死んでもらいましょうかな」と前のめりになる。もちろん法皇が死んでもらいたい相手とは、平清盛(松平健)以外にない。ここで「ヘヘェ~」と不気味に笑う法皇が、松村邦洋がモノマネする西田敏行にしか見えなかった。

 かと思えば、三浦義村(山本耕史)は、自分の館で預かる八重を「力になる」などと言って口説くも、「そういうおつもりなら出ていきます」とぴしゃりとはねつけられてしまう。あげく、八重から渡された例の草餅を口にしたところ、腐っていて腹を壊す始末。そういえば、義村は前回も八重を伊東の館から救出する際に、さりげなく手を差し伸べたが、見事に無視されていた。日頃、義時相手に自分はモテるアピールをしている義村だが、じつはそれほどでもないのかもしれない。

義経(菅田将暉)は政子(小池栄子)に甘えたいだけなのか

 義時と義村が八重との距離を縮められない一方で、政子と義時の妹・実衣(宮澤エマ)は、いつのまにか頼朝のもうひとりの弟・阿野全成(新納慎也)と2人きりで会う関係になっていた。互いにもじもじしてはいるが、こちらはそのまま発展しそうな雰囲気である。

 義経は義経で、政子と対面するや、「私は母とは離れて育ち、姉妹もおりません。思い切り、甘えてもよろしいのでしょうか?」と訊くと、いきなり彼女の膝を枕に横になった。以来、義経はことあるごとに政子に膝枕してもらうようになるのだが、本当に甘えたいだけなのだろうか?

 たしかに義経は「母とは離れて育ち」と言ってはいたものの、それは同じ母(宮中に仕えていた常盤御前)を持つ兄の全成も同じである。そもそもこの時代には、いまのように母親が自分の子供を手ずから育てることのほうが珍しかった。そのことは頼朝に複数の乳母がいて、いまなお影響力を持っていることからもうかがえよう(乳母のひとり比企尼は流人時代の頼朝をずっと物心両面で支えていたし、第10回でも頼朝に敗れた山内首藤経俊が、母親が頼朝の乳母だったおかげで助命されていた)。また、政子と頼朝には大姫という娘がいるにもかかわらず、御所で親子一緒にすごすシーンが一向に出てこないのも、誰かが代わりに養育してくれているからだろう。

 現代人からすると、義経が政子に甘えたがるのは母性愛に飢えているから、というふうに考えてしまいがちだが、上述したような当時の常識からすれば疑ったほうがいいのかもしれない。年齢からいっても、治承4年(1180)の時点で義経は21歳と、義時より4つも上で、この時代からすればすでに立派な大人である。そう考えると、少しだけ年上の政子(当時23歳)に恋心を抱いていてもおかしくないはずだが……。

 その義経は、常陸国の佐竹氏攻めで初陣を飾った(もっとも『吾妻鏡』などの文献には、このとき義経が参戦したという記述はない)。ただし、総大将の頼朝は戦わずに済むならそれに勝るものはないと、相手をよく知る上総広常(佐藤浩市)を使いに出して交渉に持ち込もうとしていた。

 これに対し、血気盛んな義経はそんなまどろっこしいことはせず、いますぐに攻めようと言い立てる。だが、言っても彼は戦はこれが初めて。それを知った広常は「経験もないのに結構な自信じゃねえか」とあきれるが、「経験もないのに自信もなかったら何もできない」と本人はあくまで自信満々だ。しかし、続けて広常から「決められたことに従えねえなら、とっとと奥州へ帰れ!」と一喝され、すっかりしょげてしまう。

 その後、広常が対面した佐竹義政(平田広明)から「おまえ、老けたな」と言われたのにキレ、うっかり斬りつけたことから、合戦の火ぶたが切って落とされる。だが、佐竹軍の立て籠もった金砂山は、背後が崖になっている上、正面から攻めようとすれば佐竹方に丸見えで狙い撃ちにされてしまうという、まさに難攻不落の要塞だった。時間をかけて兵糧攻めしようにも、頼朝軍にも兵糧の蓄えはなく、かえって自分たちの首を絞めかねない。すっかり手をこまねき、戦いは膠着状態に陥る。

 義経は広常に一喝されてからというもの陣中の隅で黙り込んでいたが、あきらかに苛立っていた。そこへ義時や頼朝に促され、待ってましたとばかり、自身の考えた策を披露してみせる。それは、正面から攻めると見せかけて敵を引きつけた上、義経の郎党が背後の崖から回り込んで攻勢をかけるという作戦だった。これには頼朝も感心し、義経は一転して面目をほどこしたが、それもつかの間、佐竹氏との交渉が妥結し、戦いはあっけなく終わる。義経はしばし呆然としていたが、陣にひとりになった途端、悔しさを爆発させるのだった。

わかってる人来たー!

 ところで、佐竹氏を攻めあぐねているあいだ、和田義盛(横田栄司)がたわむれに陣の近くで小鳥を捕まえてきた。義盛はその鳥をヒヨドリと呼ぶのだが、どう見てもヒヨドリとは似ても似つかない。ヒヨドリは市街地でも見られるポピュラーな野鳥で、全体的に灰褐色で目元は茶色をしている。これに対し、義盛が捕まえてきた鳥は、頭と背中が茶色がかり、腹にはまだら模様があった。ひょっとして当時はこれをヒヨドリと呼んだのだろうか……モヤモヤを残しつつ、第10回は終盤に入っていく。

 佐竹攻めのあと、義時が八重を見舞いに訪れたところ、庭で頼朝がこっそり見ていた(結局バレたが)。そこで初めて義時が彼女に惚れていると知った頼朝は、なぜかあっさり引き下がり、仲介まで買って出る。このとき頼朝が「あれを八重に持っていってやれ」と指さしたのが、例の小鳥を入れた籠だった。義時はそう言われて「例のヒヨドリ」と返したが、だからそれはヒヨドリではなくて……と筆者がツッコみかけたところ、突然現れた僧侶が鳥籠を持ち上げて、こう言った。

「これはツグミでございますね」

 わかってる人来たー! って、この人は誰?

「源義朝が八男、乙若でございます。いまは義円と名乗っております」

 彼もまた頼朝の弟であった。これで行方のわかっている義朝の息子たちが全員そろったわけだが、挨拶された頼朝も、部屋の片隅にいた義経も何やら不審そうな表情を見せている。不穏な空気が流れるなか、次回へと続く。

 三谷幸喜の大河ドラマで鳥といえば、『新選組!』(2004年)のオウムを思い出す。新選組の局長だった芹沢鴨(演じていたのは『鎌倉殿』では上総広常役の佐藤浩市)が、たまたま入った見世物小屋でオウムから「オマエ、シヌデ」と告げられたのだ。オウムの“予言”どおり、芹沢はその直後、彼の乱暴狼藉にたまりかねたほかの隊士によって暗殺される。

 この先例を思えば、あのツグミもドラマの展開に何かしらかかわってくるのだろうか? 義円が説明していたとおり、さえずらないので「口をつぐむ」からその名がついたというのも、何やら意味深長である。そういえば、佐竹攻めの場面で出てきたヒヨドリと崖の組み合わせといえば、義経の有名なエピソードがあるが、あれはその伏線だったのか。

 なお、義円役の俳優・成河は、野村萬斎演出の舞台『子午線の祀り』(木下順二作)で義経を演じた経験を持つ。筆者も昨年の公演で観たが、劇中、彼の熱演もあいまって義経が物語をダイナミックに展開していくさまに引き込まれずにはいられなかった。それが今回は義経の兄役とあって、いやがうえにも期待が高まる。

文/近藤正高 (こんどう・ まさたか)

ライター。1976年生まれ。ドラマを見ながら物語の背景などを深読みするのが大好き。著書に『タモリと戦後ニッポン』『ビートたけしと北野武』(いずれも講談社現代新書)などがある。

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