「車いすユーザーの僕が福祉車両を自分で運転するための2つの壁」寺田ユースケさん
車いすホストや車いすヒッチハイクなど、車いすを使ったさまざまなチャレンジを続けている人気YouTuberの寺田ユースケさん。昨年、東京から長野に移住し、新たな移動手段として“車”が加わった。障がいを持つユースケさんが、車を運転するためには何が必要なのだろうか? 福祉車両に詳しい専門家にも話を聞いた。
地方暮らしに必要な車、福祉車両のこと
2021年6月、東京から活動の拠点を長野に移した寺田ユースケさん。妻の真弓さんのご両親のそばに暮らし、のどかな長野県の生活が始まった――と思いきや、東京では考えられなかった不便を感じることもあったという。
「冬の大雪には苦労していますね。大雪が降ると車いすではとても出かけられない。初めての冬は、ほとんど引きこもり状態でした。
歩行訓練をするための機材が置いてある事務所にも通いたいので、人生で初めて車を買うことにしたんです」(ユースケさん)
20才のころから車いすを必要とする生活を送ってきたユースケさんにとって、車選びのポイントは、“車いすの乗せやすさ”。2才になる息子の深旅(みたび)くんのベビーカーも積む必要がある。
そんな寺田家が選んだ愛車は、ミニバン『フリード』(HONDA)。
「2010年モデルの中古車でカーナビ、ドラレコつきで、なんと90万円、お得でした(笑い)。車選びのときに1番重要視したのは広さですね。『フリード』は、3列目シートを収納すれば、後ろに広々としたスペースができて、車いすとベビーカーがラクラク入ります。車高が低いので足が悪い僕でも乗り込みやすいところも気に入っています」(ユースケさん)
YouTube「寺田家TV』『【車購入】障害者の夫を乗せて妻がドライブに挑戦【初心者】」より。
https://www.youtube.com/watch?v=DRV5Gp-NBmw&t=286s
「今使っている車いすは、折りたたみ式ではないので、荷室が狭い場合は、タイヤを外してから収納しなくてはならず、これって結構手間なんですよ。その点、『フリード』は車いすをそのまま載せられるから、ひと手間なくなるんです」(ユースケさん)
YouTubeの動画でも車いすやベビーカーを積み込む様子を紹介している。真弓さんの運転でドライブに出かけ、家族で長野の大自然を満喫する微笑ましい姿も。
障がいを持つ僕が車を運転するときの“壁”
「僕は免許は持っているんですけど、今は、運転は妻がしてくれています。
僕が運転していない理由は安全上の都合です。足の筋肉が弱っている実感があるので、足での運転は危ないと思っていて。いずれは運転にチャレンジしたいなって思っているんです。手だけで運転できる僕専用の2台目にも興味がある。今乗っている車と同じHONDAの『N-BOX』に乗ってみたいと思っています」(ユースケさん)
寺田家が現在乗っているのは、福祉車両ではなく一般車両のため、「改造も必要だし、講習にも行かなければならないんですよね」と、もうひとつの壁にぶつかっている。
・福祉車両を自分で運転するには専用の装置が必要
福祉車輌取扱士スペシャリストの資格を持つモータージャーナリストの竹岡圭さんに話を聞いた。
「福祉車両には、車いすを引っ張り上げるアシスト機能など介護をしやすくする装備がある『介護車』(車いす仕様車)と、体が思うように動かせない人や障がいを持つ人が自分で運転する『自操車』があります。
『自操車』は、運転補助装置をつけることで、通常は足で踏むアクセルやブレーキを、手動で操作できるようになり、足で操作する機能もそのまま使うことができます。
現在乗っている車に取り付けることも可能ですし、車種によっては補助装置があらかじめついている新車もあります。中古車もありますが、流通量が少ないですね。
運転補助装置は商品にもよりますが、おおよそ30万円前後、それに工賃がかかるのが一般的。国や自治体によって助成金が出るので、確認しておくといいでしょう」(竹岡さん)
・運転免許にまつわる課題も
「健常者も障がいのある人も同じ普通自動車免許で運転はできるのですが、障がいを持つ人が自操車を運転する場合は、免許センターなどで適正検査を受け、講習や教習を経て『アクセル、ブレーキは手動式に限る』などの限定が付加されます。
ただし、教習時には自分の車を持ち込むか、運転補助装置を取り付けられる車で教習を受ける必要があり、対応している教習所は限られています。まずは、住んでいる地域の運転免許センターに相談してくださいね。
初めて運転免許を取る人にとっては、先に車を用意しなければならないというのは、ハードルが高い。この制度は見直すべきだと私は考えています」(竹岡さん)
なお、『N-BOX』には、車いす仕様車しか設定がないため、自分で運転するとなると、運転補助装置を取り付ける必要がある。新車で自操式の福祉車両を購入する場合、HONDAでメーカー純正の自操車を選べるのは『フィット』のみ。TOYOTAなら『プリウス』や『アクア』が運転補助装置を取り付けることができる標準車となっている。
「福祉車両の中でも自操車は選択肢がまだ多くないのが現状です」(竹岡さん)
自操車の運転にチャレンジしたい!
「僕の80代のじいちゃんは運転ができるけど、ばあちゃんは運転できないんです。ばあちゃんが、『リハビリに行くにもじいちゃんと予定を合わせないといけない、どこにも連れていってくれない』って、よく言っていたんです。
今は僕も妻に運転を頼まないと行きたい場所に行けないという状況なので、今改めてばあちゃんの気持ちがわかりました」(ユースケさん)
「私が運転するのはいいんですが、車いすで5分もかからない場所でも、車に乗せていって~って言うこともあって、そこは車いすで行ったほうが早いんじゃないかっていうときもあるんですよ(笑い)。
車いすを利用する人が、環境によって思うように移動ができないのは辛いことだと思うので、ユースケには早く自分で運転できるようになって欲しいと思います」(真弓さん)
介護が必要な人たちやユースケさんのように車いすが生活に欠かせない人にとって、車という移動手段は行動範囲をグンと広げてくれる。近々、寺田家TVでユースケさんが運転に挑戦する姿が見られるかもしれない。
お話を聞いた人
寺田ユースケさん
愛知県生まれの31才。長野県に暮らす一児のパパ。生まれつきの脳性麻痺で足が不自由ながらも20才で出会った車いすで人生が一変。「車いす芸人」「車いすホスト」「車いすヒッチハイカー」など、異色の経歴を持つ。チャンネル登録者数10万人を超える『寺田家TV – サイボーグパパ』で情報を発信するほか、クラウドファンディングを展開する企業『CAMPFIRE』にも勤務。著書『車イスホスト』(双葉社)。
竹岡圭さん
福祉車輌取扱士スペシャリストの資格を持つモータージャーナリスト。『おぎやはぎの愛車遍歴』(BS日テレ)ほか多くのメディアで活躍する。https://ameblo.jp/takeoka-kei330/
取材・文/氏家裕子