連載

認知症の母が毎日飲む”牛乳”にまつわる困った問題に息子が試した2つの対策

 岩手・盛岡にひとり暮らしをする認知症の母を東京から通いで介護している作家でブロガーのくどひろさん、こと工藤広伸さん。認知症の症状がじわじわと進行し、日常生活にも異変を感じることが増えてきた。母の牛乳の飲み方がおかしい――不安を感じた息子がとった対策とは?

岩手産の牛乳とおいしい牛乳を購入する理由

 わたしが実家のある岩手県へ帰ったときは、できるだけ岩手県産のものを選んで買うようにしています。例えば、スーパーの野菜売り場に群馬県産と岩手県産のホウレンソウが並んでいたとしたら、値段が少し高くても岩手県産を選びます。

 地元を応援するためで、牛乳も同じように岩手県産を購入します。野菜は岩手県産がない日もありますが、牛乳は必ず置いてあるので、これまでは岩手の牛乳を飲んでいました。

 しかし、ある出来事がきっかけで、わたしは明治から発売されている、全国区の『おいしい牛乳』を飲むようになったのです。

母の牛乳の飲み方に異変!?

 正確に言うと、母はこれまで通り岩手の牛乳を飲み、わたしだけが『おいしい牛乳』を飲んでいます。岩手の応援を止めたわけでも、牛乳の好みが変わったわけでもなく、母の牛乳の飲み方に変化があったからです。

 実家の台所には見守りカメラが設置してあって、離れて暮らす母の様子を毎日、スマートフォンで確認しています。いつものように台所の映像を確認していると、母が冷蔵庫の前で不思議な行動を始めたのです。

 冷蔵庫から1リットルの牛乳パックを取り出した母は、コップを使わずに、直接口をつけて、その場でゴクリと飲んだのです。「ちょっとー!」と思わず叫んでしまったのですが、東京のわたしの声は岩手の母には届きません。

 母はコップのある場所をたまたま忘れてしまったのかもしれないと思い、その後も冷蔵庫の様子を何度も確認したのですが、たまたまではなく日常になっていました。ということは、わたしが帰省したときに飲んでいた牛乳も、母が直接口をつけていたことになります。

 母がひとりで過ごしているときは、牛乳を紙パックから直接飲もうが、好きな飲み方をすればいいと思っています。しかし、今はコロナ禍なので、わたしが帰省したときには、こうした牛乳を共有しないほうがいいと思いますし、いくら家族であっても、あまり気持ちのいいものではありません。そこで、ある対策を練ることにしました。

対策1:同じ種類の牛乳を2パック買う

 最初は、岩手県産の牛乳を2パック買い、もし母がパックのまま牛乳を飲んでいた場合は、わたしが未開封の新しい牛乳を飲むようにしました。しかし、母は飲みかけの牛乳がまだ残っているのに、新しい牛乳を開けてコップを使わずに飲んでしまいます。

 牛乳パックに名前を書こうかとも思ったのですが、反射的に目に入った牛乳を飲んでしまう母には効果がないと思い、早々に断念しました。

対策2:牛乳の置き場所を変える

 次に、帰省しているときには、わたしだけが飲む牛乳を購入し、母の牛乳と分けてみました。

 これまで牛乳は、冷蔵庫のドリンクホルダーに置いていたのですが、わたしの牛乳は野菜室の奥に隠しました。

 野菜室の奥に牛乳を隠すためには、横向きに倒さないと入りません。従来の紙パックの牛乳では、横向きにすると牛乳が漏れてしまうので、キャップつきの牛乳が必要になりました。

 そんなわけで、わたし専用としてキャップのついた『おいしい牛乳』を購入するようになったのです。

 この対策を試してみたところ、母は野菜室にある『おいしい牛乳』の存在には気づかず、わたしは安心して牛乳を飲めるようになりました。

 母はコップの場所は把握できているのですが、コップを取りに行ったり、コップに牛乳を注いだりする行為が面倒だったようです。基本ひとり暮らしで、同居する家族がいないから、牛乳を直接飲んでも、誰にも迷惑はかけないと思っているのかもしれません。

 これでひと安心と思っていたところ、牛乳に関する別の事件が起きたのです。

牛乳がほとんど残っていない!

 実家の近くのスーパーで買い物を終え、帰ってきたわたしに母が、

「ねぇ、あんたも飲む?」

 と言って、1リットルの牛乳パックを差し出してきました。母の周りにはコップがなかったので、また直接牛乳を飲んだなと思いながら、渡された牛乳を冷蔵庫に戻そうとしたところ、ほとんど残っていませんでした。
 
 買い物に行く前に牛乳の量を確認したときは、900mlは入ってました。だから牛乳は購入しなかったのですが、どうやら買い物に行った1時間のうちに、母は牛乳を飲み切ってしまったようでした。

 78才の高齢の母が、牛乳を一気飲みして大丈夫なのか? と思ったのですが、特に変わった様子はなく、認知症の症状である過食かもしれないと思いながら、翌朝を迎えました。

「ちょっと、早く来てー」

 お風呂場にいた母が、わたしを呼んでいます。何事かと思って、お風呂場の扉を開けると、鼻を刺すニオイが充満していました。トイレに間にあわなかった母が、お風呂場で大量の下痢をして、自分で処理できずに助けを求めてきたのです。

 この状況を見て、すぐに昨日の牛乳の一気飲みを思い出しました。母はそのことを覚えていませんでしたが、今後は牛乳の置き場所だけでなく、飲む量にも注意する必要がありそうです。

 母が元気に食べたり飲んだりできるだけでもありがたいことですが、これからは“牛乳の飲みすぎ”にも注意していこうと思っています。

 今日もしれっと、しれっと。

工藤広伸(くどうひろのぶ)

介護作家・ブロガー/2012年から岩手にいる認知症で難病の母(78歳・要介護3)を、東京から通いで遠距離在宅介護中。途中、認知症の祖母(要介護3)や悪性リンパ腫の父(要介護5)も介護して看取る。介護の模様や工夫が、NHK「ニュース7」「おはよう日本」「あさイチ」などで取り上げられる。ブログ『40歳からの遠距離介護』https://40kaigo.net/、Voicyパーソナリティ『ちょっと気になる?介護のラジオ』https://voicy.jp/channel/1442

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