認知症が進行する母に曜日を聞いてみたら「さん曜日」という謎の答えが返ってきた話
岩手・盛岡でひとり暮らしをする認知症の母を東京から通いで介護している作家でブロガーの工藤広伸さん。最近、認知症が進行して言葉を忘れてしまうことも多くなってきたという。今日は何曜日なのか、わからなくなってしまうことはよくあるが、お母さんの中では曜日の意味が失われているのかもしれない――。
認知症の母の曜日感覚が少しずつ失われていく
在宅介護において、曜日はとても大切です。なぜかというと、月曜日に訪問看護、金曜日にデイサービスなど、曜日ごとに受けられる介護保険サービスが決まり、日々の生活は曜日を軸にして動いているからです。
そんな大事な曜日を、母が忘れつつあると感じたエピソードをご紹介します。
曜日を理解していない母に必要な時計
母は今日が何日で、何曜日なのかを全く思い出せません。以前は新聞に書いてある曜日を参考にしていた時期もありましたが、前日の新聞を片づけ忘れて、翌日もまた読んでいることもあって、正しい曜日が把握できません。
そんな母のために購入したのが、デジタル電波時計です。決して時間も日付もずれない、この時計のおかげで、母は今日が何日で、何曜日かを理解できるようになったのです。
しかし、認知症が進行して、さらに視力も低下してきたために、電波時計の曜日の文字が小さすぎて読めなくなってしまいました。
そこで今度は曜日の文字が大きいデジタル電波時計を購入し、母は曜日を間違わないようになりました。しかし母の認知症は、わたしの想像以上に進行していたのです。
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母に今日の曜日を聞いてみた結果
ものわすれ外来へ向かう車の中で、母がわたしに何度も何度も曜日を質問してくる日がありました。
車が向かっている場所や移動の目的を理解していない母ですが、わたしとの会話のやりとりから、瞬間的にどこかの病院へ向かっていることだけは分かります。
眼科かもしれないし、歯医者かもしれない。行き先は分からないけど、病院で何かのテストがあるかもしれない。母の記憶の断片のどこかに、曜日を問う問題が残っていたのだと思います。
確かに、認知症テストの設問の中に曜日を問う問題はあります。なので、わたしから答えを聞いて、予習しておきたかったのだと思いますが、残念ながら答えを教えてもすぐに忘れてしまいます。
しかも、認知症のテストは年1回しかやりません。この日もテストはなく、母はとにかく答えられない不安を解消したかったのだと思います。
「ねぇ、今日は何曜日だっけ?」という母に、
「適当でいいから、何曜日か答えてみてよ」と、わたしはあえてクイズ形式にして質問してみました。
最近の母は、単語自体が出てこないことがよくあります。例えば、雪しか降らない気温なのに、「ねぇ、今雨降ってる?」を繰り返します。最初は意味が分からなかったのですが、試しに「庭に積もっている、あの白いもの何?」と聞くと、答えが出なかったのです。
今回の質問は、曜日。日常生活で何度も繰り返し使う単語なので、さすがに曜日は忘れないだろうと思っていたのですが…。
なんと母は、「さん曜日」と答えたのです。
「えっ? さん曜日って、なに?」
一瞬、何を言っているのか分からなかったので、改めて聞き返すとやはり「さん曜日」という回答でした。
あくまでわたしの推測ですが、おそらく3日と曜日を合わせて答えたのだと思います。しかしその日は18日だったので、3日でもありません。
「曜日はね、日月火水木金土でしょ?」と言うと、母は「そうそう、それそれ!」と言って、思い出したようでした。
完全に曜日を忘れたわけではないのでホッとしました。しかし、、別の日に曜日にまつわるショックな出来事が起きたのです。
曜日の読み方がわからない?
水曜日の「水」の文字を「みず」と読んで、「みず」がどうしたの? と言われて、驚きました。さらに、火曜日の「火」の文字を「ひ」と読むなど、曜日の文字の意味が分からなくなってきています。
曜日が理解できないと、デイサービスの送迎車を待たせてしまったり、ヘルパーさんに買い物に行ってもらうための財布の準備ができなかったりします。それでもかろうじて、ひとり暮らしができているのは、居間の壁に掛けてある紙のカレンダーのおかげです。
曜日の認識が怪しくなってきていますが、母は日付の数字だけはまだ理解できています。母は、デジタル電波時計に表示される日付の数字と、紙のカレンダーの数字を照らし合わせて、わたしが紙のカレンダーに書いた予定を把握しています。
新しく買い替えたばかりのデジタル電波時計も、最近では何のためのものか理解できていないようです。例えば、朝7時30分の表示を7月30日と読んで、すぐ横にある秒表示を見て、これは何なの?と質問されました。
曜日や時間の把握が難しくなってきていることで、遠距離で介護するにはギリギリの状態が続きますが、最期まで自分でできることは自分でやって欲しいと願っています。
今日もしれっと、しれっと。
工藤広伸(くどうひろのぶ)
介護作家・ブロガー/2012年から岩手にいる認知症で難病の母(78歳・要介護3)を、東京から通いで遠距離在宅介護中。途中、認知症の祖母(要介護3)や悪性リンパ腫の父(要介護5)も介護して看取る。介護の模様や工夫が、NHK「ニュース7」「おはよう日本」「あさイチ」などで取り上げられる。ブログ『40歳からの遠距離介護』https://40kaigo.net/、Voicyパーソナリティ『ちょっと気になる?介護のラジオ』https://voicy.jp/channel/1442。