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『日本沈没』に似ている?大人になってこそ奥深さがわかる『ウルトラQ』再考

「過去の名作ドラマ」は世代を超えたコミュニケーションツール。懐かしさに駆られて観直すと、意外な発見することがあります。今月は、ドラマと昭和史に詳しいライター・近藤正高さんが『ウルトラQ』(バンダイチャンネルなどで配信中)を振り返り、大ヒット『ウルトラマン』シリーズへとつながっていった背景にも迫ります。

『日本沈没―希望のひと―』を思い出すが

 あるドラマの冒頭、日本近海で海底火山が噴火した。これを受けて、近くの島に住む博士が、地元の漁師に調査船を出してほしいと頼み込む。この博士は海洋地質学者で、もうすぐ日本が海中に沈むという論文を書いて学界を追われていた。調査船を出してもらおうとしたのも、海底火山の噴火は島が沈没する兆しではないかと予感したからだった。

 調査船は出してもらえなかったが、別の漁師から海で網に引っかかったという謎の物体を預かる。博士はそれを分析して、すでに地殻変動が始まっており、自分の予想したよりこの島の沈没は早いかもしれないと予測。その心配は的中し、やがて地震が起き、住民が避難したあと島は沈んでいく。こうしてドラマは「いつの日にか、博士の予言どおりに日本も海のなかへ沈む日が来るかもしれないのです」というナレーションとともに締めくくられる。

 何だか、先日終わったばかりの小松左京原作のドラマ『日本沈没―希望のひと―』を思い出させるが(同作でも日本沈没の前に伊豆沖の無人島が海に沈んでいた)、これはいまから55年前の1966年に放送された特撮ドラマ『ウルトラQ』の「海底原人ラゴン」と題するエピソードのあらすじだ。例の謎の物体は、5000メートルの深海に住む海底原人の卵だった。劇中では、海底原人が卵を取り返そうと島に現れ、住民はパニックに陥る。

 ちなみに、小松左京の小説『日本沈没』が発表されたのは1973年、『ウルトラQ』の放送の7年後である。とすれば、小松はこれを放送時に見ていたのだろうか。いや、彼は『日本沈没』を完成させるのに9年をかけているので、日本が海に沈没するというアイデア自体は『ウルトラQ』よりも先だったことになる。では、偶然の一致なのか。それにしては、急激な地殻変動で島が沈むという設定は『日本沈没』とあまりに似ているが……。

 これについてライターの白石雅彦は著書『「ウルトラQ」の誕生』(双葉社)で、一つの仮説として、このエピソードの脚本を担当した1人である作家の大伴昌司が、所属する日本SF作家クラブで一緒だった小松から『日本沈没』の構想やアイデアを聞いていたのではないかと推測している。確証はないが、ありえない話ではないと思う。

『ウルトラマン』シリーズへとつながった事情

『ウルトラQ』はよく知られるように、円谷プロダクションとTBSが制作するウルトラシリーズの第1作である。当初は『UNBALANCE(アンバランス)』というタイトルで、日本SF作家クラブが企画に参加し、脚本がつくられた。その準備中の1964年には東京五輪が開催され、体操の用語である「ウルトラC」が流行語となる。これを受けて、新番組のタイトルもQUESTIONの「Q」を組み合わせた『ウルトラQ』に変更された。

 東京五輪が開催された10月にはすでにいくつかのエピソードが撮影に入っており、翌月にはTBSで試写が行われた。しかし、これを見た栫井巍(かこいたかし)という局側のプロデューサーが、それぞれの話の色合いがあまりに異なり、テレビシリーズとして一貫性がないと指摘し、「怪獣路線」に絞る方針を打ち出す。この方針転換のおかげで、『ウルトラQ』は子供たちに好評をもって受け入れられ、『ウルトラマン』シリーズへとつながっていったのだから、結果的に栫井の判断は間違っていなかったといえる。

 もっとも、一口に怪獣路線といっても、各話の切り口はじつにさまざまだ。先にあげた「海底原人ラゴン」では、怪獣路線にほどよく企画段階からのSF的志向が組み合わされている。あるいは「五郎とゴロー」というエピソードでは、巨大化した猿と過去の戦争が思いがけない形で結びつく。また、『ウルトラQ』で一番有名な怪獣であろうカネゴンが登場する「カネゴンの繭」では、少年たちの姿を通して現代の拝金主義的な風潮が戯画的に描かれた。

再放送時にようやく日の目をみた「あけてくれ!」

 とはいえ、当初の路線のなごりで、怪獣の出てこないエピソードも結構あったりする。たとえば、「1/8計画」というエピソードでは、地球規模での人口増加の問題を解決するため、人間や建物を1/8に縮小する政府の計画が描かれた。自ら希望して体を小さくしてもらった人たちがいかにも幸福そうなのが、かえって計画の恐ろしさを引き立てている。

 この手のエピソードの極めつけは、最終話にあたる「あけてくれ!」だろう。生活に疲れたサラリーマンが、気づくと夜空を走る電車に乗っていて、異次元に向かおうとする。現代人の現実逃避願望をモチーフにしたこのエピソードは、先の方針転換前に撮られた1本だった。しかし、あまりに内容がハイレベルすぎると栫井プロデューサーが難色を示し、本放送ではラインナップから外される。これに監督の円谷一(円谷プロの創設者・円谷英二の長男、当時TBSに在籍)が強く反発、栫井と激しく議論した結果、再放送時にようやく日の目を見たのだった。ちなみにこのエピソードの脚本を担当したのは、のちに『3年B組金八先生』などのヒット作を生む小山内美江子である。

『ウルトラQ』では全編を通して、航空会社の小型機パイロットの万城目淳(佐原健二)とその後輩の戸川一平(西條康彦)、新聞記者の江戸川由利子(桜井浩子)の3人組が登場する。各話ではたいてい、事件が起きると3人が現場に駆けつける、あるいは出かけた先で事件に巻き込まれるのがお決まりであった。

江戸川由利子(桜井浩子)の魅力

 主人公は万城目だが、物語をリードするのはどちらかというと、好奇心旺盛な由利子のことが多い。その行動力といい、ショートカットでボーイッシュなルックス、口角を上げた笑顔といい、由利子はいま見ても魅力的である。放送された60年代には、むしろこうしたキャラクターは先進的すぎたかもしれない。放送当時まだ生まれていなかった筆者が、今年NHKのBSプレミアムで再放送されたこのドラマにハマったのも、物語の面白さに加え、彼女に惹かれたからだった。

『ウルトラマン』以降のウルトラシリーズでは、一部の例外を除いて怪獣を必ずウルトラマンが倒すが、『ウルトラQ』には、怪獣が倒されず、街が燃えたり破壊されたまま、視聴者を突き放すように終わる話も目立つ。見たあとでモヤモヤした感じが残る点は、後年の『世にも奇妙な物語』とどこか似ている。それもそのはずで、『ウルトラQ』も『世にも奇妙な物語』も、アメリカの1話完結のSFドラマ『トワイライト・ゾーン』をお手本の1つにしているからだ。『ウルトラQ』の冒頭では「これから30分、あなたの目はあなたの体を離れて、この不思議な時間のなかに入っていくのです」という石坂浩二によるナレーションがおなじみだが、これも『トワイライト・ゾーン』を多分に意識していたことは間違いない。

『ウルトラQ』のスタッフや出演者にはその後もウルトラシリーズにかかわった者も少なくない。由利子を演じた桜井浩子は、次作『ウルトラマン』ではフジ隊員役に抜擢された。今年10月に亡くなった飯島敏宏は、TBSの社員として『ウルトラQ』以来、ウルトラシリーズで演出や脚本(筆名は千束北男)を担当し、その後、木下惠介プロダクションに出向して、脚本家の山田太一の初期作品をプロデュースしたり、さらにTBSに戻って80年代には『金曜日の妻たちへ』『毎度おさわがせします』などのヒットドラマを生んだ。

質は落とさず大人にもバカにされないドラマに

『ウルトラQ』が放送された当時、子供向け番組は「ジャリ番組」と呼ばれ、軽く見られていた。飯島はそれ以前に、『月曜日の男』というゴールデンタイムのドラマでヒットをとっていたため、会社内で「ゴールデンを撮っていたのに、なぜジャリ番組をやるの」と言われたという。彼はそんな声に対し、「子供向けには作るけど、質は落とさず大人にもバカにされないドラマにしよう」という意気込みがあったと、晩年のインタビューで語っている(『望星』2018年6月号)。

 その言葉どおり、『ウルトラQ』はいま大人が観ても楽しめるし、むしろ大人になってこそ奥深さがわかる部分も多い。一体、リアルタイムでこれを見た子供たちが、どんなふうに受けとめたのか、想像するのも面白いかもしれない。

文/近藤正高 (こんどう・ まさたか)

ライター。1976年生まれ。ドラマを見ながら物語の背景などを深読みするのが大好き。著書に『タモリと戦後ニッポン』『ビートたけしと北野武』(いずれも講談社現代新書)などがある。

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