兄がボケました~若年性認知症の家族との暮らし【第98回 ワンコのいる施設を見学】
若年性認知症の兄と暮らすライターのツガエマナミコさんは、包括支援センターに隣接するデイケアセンターを見学。このまま決めてしまおうかと思った矢先に、新たな施設の情報が届いた。セラピー犬がいるというその施設は、今は亡き母上のケアマネジャーがいるところだった。早速、兄を伴いその施設に向かったのだが…
「明るく、時にシュールに」、でも前向きに認知症を考えます。
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セラピー犬はどこに?
良く晴れた日の午前10時30分、わたくしと兄は家から歩いて3分の「通所リハビリーション」の前におりました。この「兄ボケ」担当の編集者さまが「ワンチャンがいるみたいですよ」と教えてくださったデイサービス施設でございます。
すでに決まりかけていた別のデイサービス施設への後ろめたさに「今日は見学だけだし~、気に入らないかもだし~」と言い訳をしながら現場に向かったのでした。
案内をしてくださったのは、施設の主任さま。30代後半とおぼしき若さハツラツの女性でございます。さっそく小部屋に通されて施設での1日の流れや趣旨や特徴の説明があり、館内を見学いたしました。靴を脱がなかった前のデイ施設とは違い、ここでは上履きに履き替えるのがまず大きな違いでした。隣接する内科医院が経営に関わっているので、総じて衛生的で医療施設的な印象を受けました。
一番の特徴は、通所リハビリーションだということでございます。理学療法士によるマッサージやストレッチ運動、歩行訓練などができる部屋があり、利用者の方々が順番に施術を受けている様子を拝見いたしました。
もちろん個人に合わせて筋トレや脳トレもあるとのこと。メインロビーは横長テーブルがいくつも並び、1テーブルにつき1人の割合で利用者さまがいて、ある人は新聞を、ある人はクロスワードを、ちぎり絵のようなことをしているご婦人もいらっしゃいました。総じて1人ぽっちなのは、コロナの感染対策なのでしょう。リハビリ室を含めても15人ぐらいいらっしゃいましたが、ほとんど誰もしゃべっていないところが寂しいと感じました。
一番気になったのはワンコでございます。どこにもいないではありませんか。
「セラピー犬とやらはいつもうろうろしているんですか?」と訊いてみると、「今日はまだ出勤していないみたいです。でもいつもはあっちの部屋にいるんですよ」とおっしゃり、小走りにどこかへ消えてゆき、「?」と思っていたら、代わりにケアマネジャーさまが犬を抱えてやってまいりました。
ケアマネさまは、ご自身の愛犬であるトイプードルと毎日ご出勤とのこと。施設スタッフとしてのセラピードッグは大型犬がいるようですが、結局この日は会えずじまいでした。
トイプーさまはご老犬でおとなしく、兄が顔を覗き込んでも吠えたりしません。ドッグカフェのように時間いっぱい犬と遊べるというわけではなさそうですが、犬を見る兄を見ていると「やっぱりこっちがいいな」と思ってしまったツガエでございます。
本当は2年前、兄が仕事を辞めたときに、家で犬を飼おうと思ったのですが、一時預かりしたときのドタバタで、わたくしが犬と兄のダブル面倒はキツイと感じてしまったのです。(第24回ご参照)
ひと通り見学を終えて小部屋に戻ると、料金のお話しになり、圧倒的に高いことを知りました。比較できる材料が一か所しかないので何とも言えませんが、週1回だとして昼食込みで、一方は1か月約6000円なのに対して、こちらは約12000円と、ほぼ倍。最初の半年間は「集中個別リハビリ料金」とやらがあり、高い設定だとはいえ、これが週2回、週3回となったら……と思うと若干腰が引けました。
ざっくり言うと、一方は料金的にも雰囲気的にも庶民的でアットホーム。親身で熱心なスタッフが「自由に気楽に過ごしてください」という方針。一方は山の手風で料金と共にスタッフの気位も高そうな印象。その代わり理学療法士という専門家が脳や身体の維持改善に努めてくれる+セラピー犬。
兄に「どっちがいい?」と訊いてみると、いつもなら「どっちでもいい」「任せるよ」と言う兄が「ワンコがいる方がいい」と言ったので、これはもう決まりです。
さっそくケアマネさまも同席で、「では、いつからにしますか?」といった話しになり、「何曜日がいいですか?」「入浴は必要ですよね」「送迎はどうします?」などと、目の前にポンポンと浮き輪を差し出されて、それを一つ一つ掴んでいたら、ゆらゆらと沖に流されるようでした。不安な一方、このくらい強引に運んでもらわないと前に進めないことも感じました。気が付くと「では来週、一度家に行かせていただいて契約という段取りでよろしいですか?」となり、1週間が経過した今日これから、正式契約の段取りとなりました!
先日、包括支援センターの方に「あちらにすることにしました」と伝えに行きました。とても心苦しい気持ち。でも明日には、兄のデイケアデビューでございます!
文/ツガエマナミコ
職業ライター。女性58才。両親と独身の兄妹が、7年前にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現62才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。病院への付き添いは筆者。
イラスト/なとみみわ