地震時、増築した家は倒壊のリスク大 火災や停電では2階が要注意と専門家
阪神・淡路大震災発生時の「神戸市内における検死統計」によると、死亡者の8割が建物倒壊などによるものだった。地震の際、倒壊の危険があるのはどんな建物なのか。寝室は1階より2階の方が安全?地震では、倒壊以外にも、火災や停電が起き恐れがあり、その場合、2階は危険と専門家は警鐘を鳴らす。
最新版「全国地震動予測地図」によると危険な地域は…
3月26日、政府の地震調査委員会は今後30年以内に震度6弱以上の激しい揺れに襲われる確率などを示した「全国地震動予測地図」の最新版を公表した。それによると、根室市で80%、釧路市(ともに北海道)で71%、水戸市(茨城)で81%、静岡市で70%、徳島市と高知市で75%など、太平洋沿岸地域を中心に数値が高かった。
しかし、この数値は、それ以外の地域が安全ということを示しているわけでは決してない。地震学者である武蔵野学院大学特任教授の島村英紀さんは、
「日本に住んでいる限り、どの地域も地震による危険に備える必要がある」と指摘する。
兵庫県監察医務室が発表した阪神・淡路大震災(1995年)発生時の「神戸市内における検死統計」(1995年、兵庫県監察医)によると、83.3%が建物倒壊などによる死亡だった。
さらに、2016年の熊本地震でも、建物全壊は8667棟にも上った。南阿蘇村にある東海大学阿蘇キャンパス近くのアパートでは、建物の1階が潰れて10人以上が生き埋めとなり、3人が死亡する痛ましい事故もあった。
1981年以前の住居は大きな地震に耐えられないかも
「1981年の建築基準法の改正以前に建てられた住居は耐震基準がとてもゆるく、大きな地震に耐えられない可能性が高い。
また、1階が店舗で、2階に居住スペースがあるという家も要注意です。店舗部分の1階はスペースを広く確保するために柱を少なくしていることがある。2階の方が重く、それを支える柱がないため、簡単に潰れやすい。
東京でも昔ながらの商店には、このような建物が目立ちます。1977年に起こったルーマニアの地震では、1階部分をショールームに改装した建物のほとんどが倒壊しました」(島村さん)
2階に寝室がある住居、なぜ危険? 3つの理由
【1】2階を増築した住居は倒壊するリスクが高い
古い家、耐震補強をしていない家の場合は、1階で寝ると家屋が倒壊したときに潰される危険があるため、2階に寝室を置いた方が安全かもしれない。ただし、2階を増築工事したことのある家は注意が必要だ。
「2階部分を増築した家は、柱が地面から通っておらず、強度が低い恐れがある。倒壊リスクが高いので、2階を寝室にしてはいけません」 (島村さん・以下同)
【2】1階で火事が起きると階段を伝って2階に煙が充満する
2011年の東日本大震災では、津波によって多くの命が犠牲となった。津波の場合は高所へと避難することが求められるが、水害リスクの少ない地域や住宅密集地で最も危険とされるのが「火事」だ。火災では、2階の寝室が大きな危険となる。
「炎は下から上へ向かう性質があるので、2階は火の手が回りやすいといえます。さらに、一戸建ての場合、非常脱出口を準備している家庭は少なく2階の出入り口は階段だけです。
1階で火災が起こった場合、1階と2階をつなぐ階段は煙突のような役割を担ってしまうので、煙が充満して下りられなくなる恐れもある。2階で寝ていると逃げ遅れる可能性が高いのです」
【3】停電になった場合は階段を踏み外す可能性も
阪神・淡路大震災での出火件数は300件近く。火災による死者は500人を超えた。倒壊も火災も起きなかったとしても、安心ではない。東日本大震災の発生当時、東京電力管内では約405万世帯、東北電力管内で約440万世帯が停電となった。
「普段、夜中に家中の電気を消しても家の中はほのかに明るい。それは、街灯や近隣の家の明かりが窓から入ってくるおかげです。しかし、大規模な停電では、一切の光が消えた真っ暗闇となります。普段は見えているから大丈夫と思っていると、大変な事故を起こします」
緊急事態では、気が動転して冷静に行動できなくなる。せっかく地震の揺れや火災リスクから逃れたのに、階段を踏み外して骨折しては元も子もない。
「階段に物を置いている家庭もありますが、暗闇では障害物となって非常に危険です。すぐに撤去してください」
では、鉄筋のマンションならば安全なのか?
鉄筋コンクリートのマンションならば、階段を利用することはほとんどなく、耐震強度もしっかりしている。だが、それが「安心」につながるわけではない。
「東日本大震災のとき、都内のマンションでは高層階ほど物が落ちました。耐震構造上、上の階ほど大きく振れて地震のダメージを防ぐよう設計されているのです。何十階という超高層マンションで震度6強の揺れが生じた場合、上層階では揺れ幅が5mにもなるといわれています。しっかり固定していなければ、冷蔵庫など、大型の家電や家具が滑ってきて挟まれる危険があるのです」
高層マンションの脆弱(ぜいじゃく)さは、台風や大雨でも証明された。2019年に発生した台風19号では、多摩川の堤防近くの高層マンションが地下の配電設備の浸水によって停電し、断水被害まで起こった。
「エレベーターが使えなくなれば、階段で移動するしかありません。自分の足で上り下りできるのか、そうしたことも考えておいた方がいいでしょう」
終の住みかに必要なのは、人に自慢できる大きな家でも、都会を一望できる絶景でもない。安心してぐっすり眠れる寝室でなければ、健康に長生きする夢はかなえられない。
教えてくれた人
島村英紀さん/武蔵野学院大学・特任教授
※女性セブン2021年4月29日号