兄がボケました~若年性認知症の家族との暮らし【第85回 悪夢の翌朝】
若年性認知症の症状が進んできた兄の「排泄」問題“コップにオシッコ”や“ベランダで小便小僧”など…は、妹のツガエマナミコさんを悩ませてきたが、ついに“ウンチ事件”が発生!深夜の浴室、洗面所で見つけた惨状にツガエさんは大ピンチ…!?
「明るく、時にシュールに」、でも前向きに認知症を考えます。
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「だけど涙が出ちゃう…」
認知症介護と排泄物処理は切っても切れない関係です。元気で朗らかで、普通の人のようで、しっかり歩けるからといってトイレで排泄ができるとは限らないのです。
兄が深夜に脱衣所で脱糞した、前回の続きです。
兄の足をシャワーで洗い、「おやすみなさ~い」と兄を自室に戻したあと、わたくしの仕事は本番です。脱衣所の片隅にポテリポテリと落ちているゆるウンチとともに兄が拭き散らかして広がった床の黄色い汚れを、洗剤を使って何度も拭き、さらに水拭きしたあと、現代の必需品、除菌スプレーをバンバンかけまくりました。
そして兄のブツ付き靴下を取り急ぎ下洗い、湯上がり足ふきにちょろっと付いた汚れも軽く手洗いし、しっかり汚れたスリッパを、漂白剤をとかしたバケツに突っ込んでベランダに出し、アレコレ触った痕跡のある洗面台のあちこちを拭き、除菌いたしました。
そして、こんもりとブツが載っていた浴室の排水溝を改めて洗いながら、わたくしは“1人アタックNo.1”でした。そう、『だけど涙が出ちゃう、女の子だもん』という台詞入り主題歌も有名な昭和の女子バレーボールスポコンアニメのことでございます。
そして深夜2時すぎ、鼻についた匂いに胃をむかつかせながら、藁をもすがる思いでPCを再び立ち上げ、YouTubeで笑わせてもらって、やっとベッドに入りました。
不幸中の幸いは、浴室と脱衣所という防水された場所以外に被害がなかったこと。ギリギリその判断ができた兄に感謝でございます。
翌日は、朝から洗濯。バケツに突っ込んだスリッパもベランダでゴシゴシ洗い、天日干し。ついでに小便小僧さまのお印も洗い流しました。そしてちょうどゴミの日だったので、兄の部屋のゴミ箱を集めると、前夜、兄が必死にブツを拭き取ったと思われる大量のペーパーが…。それもこれも一掃し、めちゃめちゃ充実した朝でした。
兄は何事もなかった顔でございます。暗くしょげられても嫌ですが、こうも厚顔だと腹が立ちます。でも怒ったところで嫌な感情が双方に残るだけですし、何度注意したところで治るものではございません。結局、兄の行動を止めることはできないので、わたくしが順応していくしか幸せの道がないのでございます。
対策は、夜間廊下(といっても3メートルぐらいしかない)の電気をつけっぱなしにすることのみ。しばらくはないと思いますが、近いうちに「トイレ」と張り紙をしようと思います。
月1、週1と、だんだん頻繁になることは「コップにオシッコ」でも学んでおります。衝撃だったコップにオシッコは、もうカワイイもの。兄のおシモ事情は加速度的に坂道を下っております。
ちなみにコップにオシッコも順調に回を重ねておりまして、ベランダの小僧さまはほぼ毎日ご降臨です。殿方は本能で立ちションしたいのでしょうね~。
「まだまだ」と思っておりましたが、また要介護認定の申請に心が揺れております。この家にいたのでは、何の刺激もないのでどんどん進んでしまう。不要不急の外出は控えて、と言われる世の中でも、兄を刺激ある場所へ送り込みたい。近所の地域包括支援センターに行けば、よい解決策がみつかるのでしょうか?
そしてわたくしは、寝不足もなんのその、午後から山に芝刈りに…じゃない、川に洗濯に…じゃなく、1人カラオケに、行きましたとさ。
文/ツガエマナミコ
職業ライター。女性57才。両親と独身の兄妹が、6年前にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現62才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。病院への付き添いは筆者。
イラスト/なとみみわ