自由で幸せな老後のために夫にしてほしい大切な5つのこと
亭主元気で、留守がいい――コロナ禍でこんな“小さな理想”が崩れたと嘆く妻は多い。しかし遅かれ早かれ、夫が家に帰ってくる「Xデー」はやってくる。夫の定年後、妻が自由で幸せに暮らすために、準備しておくべきことを専門家がアドバイス。
定年後に第二の人生を謳歌してもらうために
「どのように1日を過ごしていいかわからない」「自分の居場所がないと感じる」
これらは第一生命経済研究所が2018年に行った「定年退職前後の生活の変化に関する調査」に寄せられた当事者たちからの声だ。
せっかく家事を分担してもらえるようになっても、“居場所がないから”と夫が家にこもりきりではこちらも息がつまってしまう。趣味や居場所を見つけて第二の人生を謳歌してくれることを願うばかりだ。
定年後の夫婦関係に詳しい臨床心理士の西澤寿樹さんは、「定年後の居場所作りは時として家事を会得させるよりも難しい」と警鐘を鳴らす。
「家事ですらやり方の違いがトラブルになるのに『手順』が決まっていない人間関係はなおさらです。
しかも定年までは職場の人間関係があり、それを友達だと錯覚しがちです。会社に行かなくなってはじめて『あれは同僚であって友達ではなかった』と気づく人も多い。いかに早期から少しずつ外部との人間関係を築けるかが1つのポイントです」(西澤さん)
特に同じ会社に長く勤め続けた夫の場合、新しい人間関係を築く方法がわからず、定年とともにふさぎ込んだり家族に八つ当たりしたりするケースもあるという。
だからこそ、まずはいちばん長く時間を過ごす家族とのかかわり方から考えたい。
1.顔を合わせない時間を作る
『定年ちいぱっぱ 二人はツライよ』(毎日新聞出版)の著書でエッセイストの小川有里さんは、かかわらない時間こそが重要だと力説する。
「定年後の夫婦関係がうまくいくいちばんのコツは、顔を合わせない時間をいかに増やすかということ。
うちは“上様”と呼んでいるのですが、日中は夫に2階で過ごしてもらい、私は1階の元子供部屋で仕事をして過ごしています。
階数を分ければたまにすれ違う程度で、昼間はほぼ顔を合わさない。多くの夫は居間で過ごしたがりますが、それは避けましょう。
台所にいる妻に居間からあれこれ声をかけて、けんかに発展するという例はよく聞きます。マンションなどで2階がなくても、あえて別の部屋で過ごすようにするのは大切です」(小川さん)
どんなに夫婦仲がよくても、24時間ずっと顔を突き合わせていれば、もめごとが起きるのは当然のこと。適切な距離は取った方がいいようだ。
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2.ご近所付さんを覚えてもらう
家族の次はご近所。何かあったときのために顔を知っておいた方がいいのはもちろん、あいさつもしない無愛想な夫は、妻の評判も落としかねない。小川さんは一緒に散歩することから始めたと語る。
「夫は近所の人の顔をまったく知らなかった。だからまず散歩に誘ったんです。出かける前に『私があいさつした人には会釈をして』と言っておき、通り過ぎた後に、『あの人は、どこそこの○○さん』と説明しました。
こうすれば相手にも失礼がなく夫に教えることができます。裏の奥さんの顔も知らなかったので、『今度から会ったらあいさつしてね』と伝えました」
3.趣味の教室に最初だけ一緒に通う
西澤さんも、妻のネットワークに夫を巻き込む方法をすすめる。
「夫が自分でイチから人間関係を築くのは難しいため、まずは奥さんのコミュニティーに連れ出して顔を売るのがいいでしょう。そこで夫同士の交流が生まれる場合もある。
また、料理教室など同じ目的を持った集団に属するのもいい。目的がある方がコミュニケーションを取るきっかけを作りやすいのです」(西澤さん)
ベターホーム協会の塚田さんも声をそろえる。
「男性向けの教室には、『男性同士だと料理もほぼ同レベルで緊張しない』とか『基本的なことを質問すると恥ずかしいが、周りが同性なら聞きやすい』という声が多く届いています。教室をきっかけに友達ができてプライベートでも連絡を取り合っているという人も多い」
妻の中には「家にずっといられるのも困るから」と、こういった教室やカルチャースクールなどに行くようにチラシを渡したりホームページで調べたりして促す人もいるようだが、佐光さんはそれだけでは不充分だと言う。
「特にもともと趣味の少ない人の場合は、これらの教室の楽しさや魅力を知らないため、妻がいろいろ提案したとしてもなかなか動かない。
だから、妻のあなたが最初だけでも一緒に行ってみようと誘ったり、ついて行ったりする努力も必要です。
何より、会社以外のコミュニティーを構築することの大事さや、定年後の生活を心配しているということを夫に話した方がいいでしょう。一緒に楽しもうという姿勢があった方がいいのです」
無理やり家から連れ出そうとしなくても、妻がとっかかりさえ作ってあげれば、あとは本人が没頭していく例が多いようだ。
西澤さんも「動機づけが大切」とアドバイスを送る。
「きっかけを提供して手伝うことは大事ですがもっと大切なのは本人が自ら友達を作りたいと思うモチベーションです。友達づきあいの楽しさをやんわりと教えましょう」(西澤さん)
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4.市民農園や家庭菜園はおすすめ
のちの自由時間への投資だと腹をくくり、最初だけは徹底的に夫の居場所探しにつきあおう。そのほか、「成功例が多い」と小川さんが挙げるのは土いじりだ。
「私は“定年後作男”と呼んでいるのですが、近所では市民農園を借りて野菜を育てることに熱中する高齢男性が多い。無理に人づきあいをしなくても、楽しめることがあればいいのです」
実際、2019年にアメリカの学術誌に掲載された論文によれば、土壌に生息する細菌には、抗炎症や免疫調節、ストレス耐性などの性質があるという。つまり健康効果も充分というわけ。
家事研究家の佐光紀子さんも、人づきあいの面から市民農園や家庭菜園を推奨する。
「自治体が区画を貸し出すところもありますし、自宅に庭があればそこで始めることもできる。自治体によっては基本的なことを教えてくれる講習会もあるので、公共のものを中心にどんどん利用してみましょう。
いざ始めてみると男性は凝り性の人が多いため『あれも植えてみよう』とか『この作物を作るにはどうすればいいだろう』と、いろいろと研究したり調べたりし始めるようです。
隣の区画の人と仲よくなって顔見知りができたり、大量に収穫できたらご近所にもおすそ分けしたり。さらに輪が広がるきっかけにもなるはず」
自分で作った野菜が食卓に並ぶのは、喜びもひとしおだ。
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5.シルバー人材センターに登録
なかなか趣味が見つからない場合、登録するだけで居場所が見つかる「奥の手」が。
「シルバー人材センターに登録するという方法です。
うちの夫は定年後すぐに登録したのですが、やはり働いてお金を稼ぐことは生きがいになるし、世の中の役に立っているという実感も得られます」(小川さん)
実際に定年後も働く人の方が、認知症や脳梗塞になりづらく生存率も高いという調査もある。定年後も働く夫の方が長生きで健康というデータも。定年後に仕事があると死亡リスクが下がるだけでなく、病気にもかかりづらい。(※最長15年までの死亡率および病気発生率。2019年の健康長寿医療センター研究所の調査による)
「ただし、これも夫がやりたいと思うように工夫すること。うちは『働いている男性はかっこいい』『仕事していたお父さんってやっぱりイキイキしてたよね』などと吹き込んで、夫が登録したくなるように気持ちを持っていきました。
シルバー人材センターは『身体を動かすことが好き』とか『事務が好き』とか、特性に合わせて希望する仕事を紹介してくれます。週に2~3日程度でもでき、夫は公共施設の窓口などで楽しそうに働いていました」(小川さん)
教えてくれた人
エッセイスト・小川有里さん、臨床心理士・西澤寿樹さん、家事研究家・佐光紀子さん
※女性セブン2021年2月18・25日号
https://josei7.com/
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