補聴器で孫の声が聞きやすい!86才男性の補聴器作りに密着
「家族にテレビの音が大きい」と指摘され、86才にして初めての補聴器作りに挑戦することにした藤堂和雄さん。難聴を放置すると認知症も心配と聞き重い腰を上げ、耳鼻科へ…。初めての補聴器作りに密着した。
補聴器作りの第一歩「聴力検査」
藤堂さんが訪ねたのは、東京・銀座の『慶友銀座クリニック』。同クリニックの大場俊彦医師に、耳用顕微鏡で耳内部を診てもらったところ、藤堂さんの耳垢は少なく、特に異常はないようだ。その場合、機械による「標準純音聴力検査」を行う。
患者は聴力検査ボックスの中でヘッドホンを装着し、強弱をつけた音を聞く。流される音は、125・250・500・1000・2000・4000・8000ヘルツという7つの周波数に分かれている。この検査で現在の聞こえの状態を測定し、音の高さに応じて聞こえる最も小さな音を調べる。
次に、言葉を聞き取る力を測る「語音聴力検査」を行う。聴覚は、音を聞くだけではなく、会話をし、コミュニケーションを取るためのもの。
そこで、言葉がどの程度聞き取れているかを測定するのだ。さらに、鼓膜の動きを確認する検査も実施された。
結果は加齢性難聴、補聴器のお試しを決心
検査結果を見た大場さんが診断を告げる。
「鼓膜は正常。聞こえは86才という年齢相応。病気ではなく、加齢性の難聴(感音難聴)ですね。10人いれば真ん中からちょっと上かもしれません。でも、いまは高齢化社会で、80代でも社会参加は必要です。
ご自宅で生活していくなか、ご家族やご近所のかたとのコミュニケーションを続けていく必要があります。それを考えると補聴器は助けになる。トレーニングを経て使いこなせるようになると、より快適な生活を送れると思います」
藤堂さんは「いきなり両耳に補聴器を装着するのはうっとうしく感じる」と答えた。
「本来は両耳装用が理想ですが、まずは片方だけつけてみて、慣れてきたらもう1つ追加するかたも多いですよ。
ちゃんと毎日装着できるか、補聴器の聞こえになじめるか、メンテナンスが面倒ではないかを確認するためにお試し期間を設けています。予算の問題もあるので、必ずしも最初から両耳につける必要はありません」(大場さん)
懸念事項を払拭できてホッとした表情の藤堂さん。補聴器を試してみることした。
補聴器技能者と相談し左の片耳装用へ
補聴器技能者によるフィッティングによって、個々人の聞こえ具合に合わせた補聴器ができあがる。 『慶友銀座クリニック』では週2回補聴器外来を行っており、補聴器選びに関する相談は「認定補聴器技能者」の栗原一民さんが請け負う。
先の「標準純音聴力検査」と「語音聴力検査」の結果を見た栗原さんが言う。
「藤堂さんは平均聴力レベルが50デシベル程度で、中等度難聴にあたります。日常会話が聞き取りにくいでしょう」
また、言葉を聞き分ける力を調べる語音聴力検査では、藤堂さんの正解率は約70%だった。しかし、左右差があり、左耳の方が聞こえがいい状態だった。
「片耳装用ならば、言葉をより聞き分けている耳(藤堂さんの場合は左耳)に補聴器を装着すれば、より聞き間違いが少なくなります」(栗原さん)
補聴器のデモ器で聞こえを調整
最初にお試し用のデモ器を装着する。耳かけ型のフックタイプを藤堂さんの“耳力”に合わせて調整していく。
「補聴器とパソコンをつないでフィッティングソフトに情報を打ち込みます。すると自動プログラムが起動し、デジタル処理によって機械が調整を行います。そこからさらに患者さんの要望や感覚、嗜好に合わせて、新たにデータを追加していきます」(栗原さん)
この認定補聴器技能者による調整は、「この領域の周波数が聞こえにくいから感度を上げる」という単純なものではない。
日本補聴器工業会事務局長の八嶋隆さんが解説する。
「加齢性難聴の1つである感音難聴は、単純に補聴器の音量を一様に上げるだけではよく聞こえなかったり、逆にうるさすぎたりする場合があります。難聴者の聞こえは個人個人で異なりますから、専門家である補聴器技能者がそれぞれの聴力や感覚に合わせて、音の大きさを細かく調整していくのです」
紙をめくる、食器を洗う、エアコンの風…気になる音は人それぞれ。そのような不快音・騒音・ハウリングの抑制、会話を聞き取りやすくするといった快適な聞こえへの精度を上げる補正を行う。
そうやって、使用者に合わせて、聞き取りやすいベストな音に仕上げていくのだ。
初めて補聴器から音を聞いてみたら…
デモ器を装着。「聞こえはよくなりましたか?」という栗原さんの問いに、藤堂さんは「なんとなく」と答える。
「では、もう少し性能のいいタイプを聞いてもらいます。どちらが聞きやすいか判断してください」
登場したのはデモ器よりひと回り小さい上位機種だ。
「つけると聞こえが大きくなる感じがありますか?」
「さっきよりよく聞こえます」と藤堂さんが微笑んだ。
「藤堂さんの場合は、ご家族がちょっと大きな声を出せば困らない程度なので、絶対に補聴器が必要とまでは言いません。
しかし、使用すれば家族の声が聞き取りやすくなり、テレビの音が小さくてすむなど、生活はよりスムーズになると思います。
また、これまでは相手のお話を聞くときに、聞き間違えがないよう無意識に力が入っていたはずです。補聴器を装着すれば、その緊張が解けるので疲れが軽減すると思います」(栗原さん)
フック型の補聴器でトレーニングへ
お試し器はフックタイプを選択したが、購入する補聴器はこれで決定なのだろうか。
「最初は耳かけ型の『フックタイプ』で聞いていただき、ご自身の声が響く、こもる感じがあるなら、こもり感の少ない『RICタイプ』に変更するケースもあります。
ただし、聞こえ具合の確認を優先するため、通常は扱いやすいフックタイプを選びます」(栗原さん)
お試し期間は、補聴器が日常生活の中で役立つかどうかの確認作業。形状を選ぶのは次の段階となる。耳かけ型で試した後に、より目立ちにくい『耳あな型』をチョイスするのも可能だ。
トレーニング期間は平均して3か月~半年を要する。最初は1日2~3時間の装着からスタートし、次の4つの段階を踏んでいくといいという。
補聴器のトレーニングステップ
【1】数時間でも毎日装着し、補聴器の音に慣れる。疲れを感じたら休む。
【2】静かな部屋で1対1の会話をする。
【3】テレビやラジオの音量を家族の会話と同じくらいに合わせ、音に慣れていく。
【4】数人で会話をする。
30日でお試しを終え補聴器の購入を決定
「ライフスタイルも感覚も千差万別です。生活を送る中で“これが聞きたい”“この音は嫌い”といった要望は当然出てきます。それを技能者に伝え、調整をして、最適な補聴器を作り上げていく。綿密なやりとりを重ねることで、そのかたに合った、たった1つの補聴器が完成するのです」(八嶋さん)
デモ器をお試し始めた藤堂さんは、8日目にはテレビの音量が下がっているのを妻に指摘されるまでに。14日目には遊びに来た孫の声が聞き取りやすく会話がしやすいと笑顔。その後、藤堂さんは30日目にトレーニングを終え、デモ器から卒業。目立ちにくいRICタイプの購入を決めた。
なお、藤堂さんが選んだRICタイプほか、最新補聴器については追ってお届けする。
教えてくれた人
大場俊彦さん/東京・銀座『慶友銀座クリニック』医師
栗原一民さん/認定補聴器技能者、八嶋隆さん/日本補聴器工業会事務局長
※女性セブン2020年3月19日号
https://josei7.com/
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