「本当に危ない物忘れ」と「誰にでもあるド忘れ」どう違う?見分け方を解説
初期の認知症を一般的な物忘れと判別することは、本人にとっても周囲にとっても困難だ。なぜなら実際に目で見える行動はどちらもほとんど同じだからである。致命的な「認知症」と老化による単なる「物忘れ」を早期に見分けるポイントはどこなのか?
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「日記に書いたことを忘れる 」と 「日記を書いたことを忘れる 」は大違い
まず、判別のための基本的な知識として、人間の記憶は2種類に大別される。ひとつは人名や地名などの固有名詞を覚える「意味記憶」。もうひとつが、“いつどこで誰と何をした”という体験を脳に刻みこむ「エピソード記憶」だ。
おくむらメモリークリニック院長の奥村歩医師がこう解説する。
「認知症患者に多く見られるのがエピソード記憶の低下です。例えば“テレビで見たアイドルの名前を思い出せない”なら単なる物忘れの可能性が高いが、自分の体験したエピソードそのものを忘れている場合は要注意。初期段階の認知症のサインかもしれない」
判別が付きにくいケースを具体的に挙げていく。
【物忘れ】人の名前を忘れたが、周りからヒントをもらえれば思い出せる
【認知症】周りからヒントをもらっても思い出せない
日常生活で最も忘れやすいのが「人の名前」など意味記憶に属する固有名詞だ。見分けるポイントは「ヒントを活用できるかどうか」だと奥村医師が指摘する。
「周りから苗字などのヒントを与えられてフルネームを思い出すことができれば、加齢による物忘れでしょう。しかし、苗字を教えられても名前が思い出せない、それどころか会った記憶まであやふやな場合は認知症の典型的な症状です」
【物忘れ】日記に書いたことを忘れている
【認知症】日記を書いたことを忘れている
たった一文字違いでも、決定的に異なる。 「日記に書いた内容の一部を忘れるのは加齢に伴う物忘れ。そもそも忘れても大丈夫なように日記をつけるのですから、内容を覚えていなくてもおかしいことではないのです。
一方で“日記を書いた”というエピソード記憶自体が抜け落ちていれば認知症の疑いが強い」(前出・眞鍋医師)
【物忘れ】3軒隣の住人の名前を思い出せない
【認知症】愛犬の名前を思い出せない
時折、自宅近くで顔を合わせるのに、3軒隣に住んでいる住人の名前が思い出せない―─たとえ隣人でも、関係性が薄い場合には単なる物忘れの可能性がある。
一方で、固有名詞でも忘れると危ない名前がある。「同じ場所で生活し、家族同様愛情を注ぐペットの名前は“エピソード記憶”ともいえます。そのためペットの名前を間違えたり忘れたりした場合、認知症の疑いが強い」(同前)
【物忘れ】テレビのリモコンの操作が覚えられない
【認知症】テレビのリモコンの操作を忘れてしまった
最近の家電は機能が多く、操作も複雑だから覚えにくい──その程度なら問題ないが、一度覚えたはずのテレビのリモコン操作などができなくなった場合は要注意だ。
「テレビのリモコン操作や自転車の乗り方など“体で覚える記憶”のことを『手続き記憶』といいます。これに障害が起きるケースでは、知識としての記憶とは異なり、『頭頂葉』に障害が生じている。比較的症状が進行した認知症といえます。
一方で、最新家電のリモコン操作が覚えられないというのは、海馬が新しい情報を取り込めない老化現象なので過度に心配する必要はありません」(前出・榎本医師)