認知症の高齢者が笑顔に!プロデューサーも驚く歌番組の“効果”
日本の古き良き名曲をじっくり聴きたい、という人が増えている。テレビでは、BS局を中心に歌番組が人気を博している。番組を見ている認知症の高齢者が笑顔を見せるなど、思わぬ“効果”ももたらしている。
『BS日本・こころの歌』は、2003年からスタート。音楽大学声楽科出身のコーラスグループが懐かしの歌を中心に歌う。3月6日放送回では、『大きな古時計』『さくら』などを選曲した。新井久子プロデューサーは言う。
「過度な演出は行わず、歌本来の楽しさと美しさをお届けすることを心がけています。番組開始当初は、日本の叙情歌が中心でしたが、今は地方に根づいた郷土の民謡なども選曲しています。60~70代がメーン視聴者ですが、若いかたたちにも見ていただいています」
3月7日には、隔週発売のCDつきマガジン『隔週刊CDつきマガジン「こころに響く日本の歌」』が小学館から創刊された。明治、大正、昭和と歌い継がれてきた叙情歌の数々を収録している。
そもそも叙情歌とはどういうものなのか。音楽評論家の富澤一誠さんが説明する。
「童謡や唱歌などを指します。みなさんも、子供時代によく歌っていた思い出があるでしょう。作詞家の主観的な感情を載せた詞が特徴です。抒情性にあふれて、郷愁や懐かしさをそそります」
いつの時代も、人は、懐かしい感情に触れると、安らかな気持ちになれる。その傾向は、東日本大震災をきっかけに顕著になったと富澤さんは話す。
「日本人が故郷に対して強い思い入れを持つようになっているんです。3.11で故郷がなくなった人が大勢いました。それまでは故郷を考えたことがない人も、あれを見て、体験して、自分の故郷を思い出すようになりました。
叙情歌は故郷を歌っている歌が多いので、全体的に叙情歌が必要とされている、聴く人が多くなったということです」
認知症の母が、笑顔になる――視聴者の声が続々と届く
『BS日本・こころの歌』の番組ホームページには視聴者からさまざまな声が届く。新井さんが言う。
「“毎回欠かさず見ています”“思い出のある曲をリクエストしたい”“昨日は、放送されたあの曲を聴いて涙しました”“週に一度、この番組を見るのが本当に楽しみです”“認知症にかかってしまった母親が、この時間だけは笑顔になる”――そういったご意見をいただきます。弊社の番組でいちばん多いのではないかと思います。
そうすると、この番組は、意義というか、使命みたいなものを背負っている部分があるのかなと思えるんです」
歌で思い出す日本の心を、私たちは今だからこそ、必要としているのかもしれない。
※女性セブン2017年3月23日号