《“ミスター血糖値”直伝》薬に頼らず自力で数値を下げる「血糖値リセット法」 カロリー制限より「食べる順番」を変える極意
高血糖や糖尿病は症状改善が難しく、一度治療を開始すると生涯にわたり投薬が必要なイメージが強い。だが、近年の研究により、薬に頼らず自力で血糖値を下げることは十分可能であることが分かってきた。過度な節制は必要なく、長く無理なく続けられる決定版メソッドを糖尿病治療の権威が指南する。
「低すぎ」は危ない
厚労省の「国民健康・栄養調査」(2024年)によれば、糖尿病が強く疑われる人は推計約1100万人、予備軍を含めると約1800万人以上。5人に1人には糖尿病の疑いがあることになる。
健康診断で血糖値の項目にひっかかり、生活習慣の改善を求められた人も多いだろう。
だが、『糖尿病は1日15分で変わる!』(翔泳社)をはじめ数々のベストセラー著作を持ち、“ミスター血糖値”の異名を取る糖尿病専門医・矢野宏行医師(やのメディカルクリニック勝どき院長)はこう話す。
「血糖値と向き合ううえで注意すべきは、むしろ“低すぎ”です。血糖値が下がりすぎると脳がエネルギー不足に陥り、やる気や集中力の低下、だるさ、眠気、疲れやすさのほか、イライラやうつ症状が現われることも。糖尿病治療薬を使った結果、低血糖で意識を失う場合もあります。高血糖や糖尿病の改善には、低すぎる状態を避けることが重要になります」(矢野医師。以下「 」内同じ)
なぜ低すぎると問題なのか。その理由は食後血糖値の乱高下にある。
糖質を摂りすぎると血液中のぶどう糖(血糖値)が一気に上がり、それを細胞に取り込むためにすい臓からインスリンが多量に分泌される。すると今度はその反動で血糖値が下がりすぎ、体は生命の危機を感じてグルカゴンなどのホルモンや自律神経の働きで血糖値を再び上げようとする。
「こうして高血糖と低血糖が激しく乱高下するのが『血糖値スパイク』と呼ばれる現象で、繰り返すうちにインスリンが作用しにくいインスリン抵抗性の状態に陥る。これが高血糖や糖尿病につながるのです。健康的な人なら血糖値は下が70mg/dL、上が140mg/dLが目安となります」
こうした血糖値の本当の状態は、健康診断では見えにくい。空腹時血糖値が126mg/dL以上、ヘモグロビンA1cが6.5%以上のいずれかで糖尿病が疑われるが、矢野医師はこう言う。
「ヘモグロビンA1cは過去1~2か月の血糖値の平均値を反映する有効な指標ですが、血糖値スパイクを起こしているかどうか、1日のなかでの変動は分かりにくい」
血糖値を正しく下げるには、高血糖の正体を見極め、数値の乱高下を抑えることが重要になる。
年間3000人以上の糖尿病患者を診る矢野医師は、その経験を元に独自の「血糖値リセット法」を考案。難しいことはなく、日常生活の少しの工夫で、「薬に頼らずに血糖値は下げられる」と矢野医師は断言する。
“我慢大会”はやめる
血糖値が高いと病院では厳格な生活改善の指導が行なわれるが、長続きせず、改善しないケースも多い。
「人間の脳には常に快楽を求め、辛いことや嫌なことは先延ばしにするという機能があります。“我慢大会”では三日坊主になるのが当たり前。私の感覚では、90%以上の患者さんは病院での栄養指導を受けても症状がよくならないと実感しています。血糖値は食べ物だけでなく、ストレスでも上昇します。無理せずに血糖値を管理することが大切です」
食事で重要なのは、カロリー制限より「順番」を変えることだという。
「白米や麺類、パンなどの炭水化物は急激に血糖値を上げてしまうため、野菜やきのこ、海藻類など食物繊維の多いおかずや、肉・魚(たんぱく質・脂質)を先に食べ、後から入ってくる炭水化物の吸収を緩やかにする、『カーボラスト』という食べ方で、おかずを先に食べれば自ずとご飯の量も減らしやすくなります」
高血糖の人は天ぷらや揚げ物を避けるよう指導されているケースが少なくないが、どうしても食べたい場合はカーボラストを意識しよう。
「天丼ではなく天ぷら定食にして、おかずと主食を分けて食べられるようにすればいい。揚げ物や野菜を先に、ご飯を最後に食べるようにすれば血糖値の急上昇を抑えることができます」
さらに矢野医師は食事を摂る「時間」の重要性を説く。
「ひとつは『夕食を夜9時までに終わらせる』。夕食の時間が遅いと食後の血糖値が下がる前に寝ることになり、就寝中も血糖値が高い状態が続いて、翌朝の血糖値も高くなる。夕食は就寝3時間前までに済ませ、朝食まで最低10時間は空けるようにしましょう」
朝、昼、夜で食べる「量」も意識したい。
「食べる時間帯によって血糖値に差が出ます。夜はエネルギー消費が少なく代謝が落ちて血糖値が上がりやすい。朝と昼は主食をある程度食べ、夕食は主食を減らして野菜やたんぱく質のおかずを中心にしましょう」
夕食を食べすぎてしまう人は「おやつ」を活用するといいそうだ。
「ナッツやチーズ、スルメなどは血糖値を上げにくく、間食で摂れば空腹感を抑えられます」
早食いも血糖値の急上昇を招くため、よく噛んで最低でも15分かけることが大切だ。
健康的な印象の食べ物も、選び方で差がつく。「果物に含まれる果糖は血糖値を上昇させやすい。1日100g程度なら糖尿病を悪化させないとの報告がありますが、近年の果物は甘く糖度が高いものが多いので注意が必要です。バナナ、ぶどう、マンゴー、柿など糖質の高いものは避け、いちご、グレープフルーツ、梨など糖質の少ないものを選びましょう」
秋の味覚のさつまいもやかぼちゃ、栗も糖質が多いため「おかずだから」と重ねないようにする。
近年は玄米や全粒粉パン、蕎麦など、食後血糖値が上がりにくい「低GI(グリセミック・インデックス)食品」が注目されているが、専門家の間で意見が分かれているという。
「ある専門家グループの研究で、GI値が低くても高くても血糖値の上がり方に大きな差はないことが分かりました。意識づけの意味合いで白米や白いパンから替えることは推奨していますが、過信して食べすぎるのは禁物。特に蕎麦はヘルシー食のイメージが強いですが、糖質量はうどんやラーメンと大差ありません」
矢野医師が推奨する理想の食事メニューの一例は、焼き鮭、ほうれん草のおひたし、にんじんとインゲンのごま和え、雑穀米のご飯、豆腐とわかめやなめこの味噌汁の「焼き魚定食」。
「食事プレートの半分を野菜、4分の1を主菜、4分の1を主食にし、味噌汁を添えるのが理想の配分量です」
お酒も無理に断つ必要はない。
「ビールや日本酒、チューハイなどは糖質を含みますが、焼酎やウイスキー、ブランデーといった蒸留酒は糖質がほぼゼロ。適量なら大丈夫です」
野菜や果物のジュース、スポーツドリンクなどは糖質が多いので、お茶や水にする。「やめる」ではなく「切り替える」が継続のポイントだ。
◆教えてくれた人:やのメディカルクリニック勝どき院長・矢野宏行医師
※週刊ポスト2026年10月9日号
