《心拍数が少ないほど長生き?》専門医が教える「心臓を疲れさせない」血流管理術 長寿を目指す「ニコニコ歩き」と「かかと上げ」のやり方
心臓と肺。生命維持に欠かせない重要な臓器ゆえ、年齢に伴う機能低下が死に直結しかねない。しかし、どちらの臓器も「老化に抗う方法はある」と断言する専門医がいる。愛媛大学医学部附属病院抗加齢・予防医療センター長で循環器専門医の伊賀瀬道也医師が、今日からできる心臓を休ませるメソッドを解説する。
「心拍数」が少ないほど長生き!心臓を休ませて守る血流管理術
全身に血液を巡らすポンプの役割を果たす臓器が心臓だ。他の臓器と同じく、加齢など様々な要因でダメージが蓄積されるが、「心臓の老化を防ぐことは可能」と循環器専門医の伊賀瀬道也医師(愛媛大学医学部附属病院抗加齢・予防医療センター長)は指摘する。
「端的に言えば『心臓を疲れさせない』ことが最も重要です。心臓は1分間に約60~80回動くことで血液を全身に循環させており、その回数が極端に増えると心臓への負担が大きくなります。動物全般で考えると一生のうちに心臓が動く回数はある程度決まっており、人間でも個体差や生活習慣などの条件が全て同じなら、心拍数が少ない人のほうが“長生き”しやすいと言えます」(以下、「 」内は伊賀瀬医師)
高血圧や糖尿病などの生活習慣病を予防し、健康長寿のためには高齢者にも運動習慣が重要とされるが、その際、心臓を疲れさせないために「一定の目安以上に心拍数を上げない」ことが肝心だと伊賀瀬医師は言う。
「若い時なら運動で心拍数をある程度上げることで、心臓の収縮力を鍛えることができます。しかし、高齢者が激しい運動をすると、心臓への負荷が増えるデメリットのほうが大きいと言えます」
そこで伊賀瀬医師が推奨するのが、高齢者でも無理なく続けられる「ニコニコ歩き」、そして「第2の心臓」と言われる「ふくらはぎ」の運動だ。
「ニコニコ歩きは、少し息が弾むもののニコニコしながら会話ができる程度の強度で歩く運動です。あごを引き、姿勢よく広めの歩幅で歩くことを意識しましょう。
ウォーキングのように酸素を取り込みながら行なう有酸素運動は、心臓への負担を軽減しながら全身の血流を改善する効果が期待できます」
ふくらはぎに直接アプローチする「かかと上げ」は、椅子を使って行なう。
「椅子の背に両手を添えて、ゆっくりとかかとを上げ、つま先立ちをするイメージです」
ふくらはぎの腓腹筋やヒラメ筋を効率的に動かすことができる。これらの筋肉には心臓から一番遠い足まで送り出した血液を重力に逆らい心臓に送り返す重要な「ポンプ機能」がある。
「ニコニコ歩き」や「かかと上げ」でふくらはぎの筋肉を伸縮させることで、筋肉を通る血流が活発になり、心臓の負担軽減が期待できるという。
ただし、心臓の老化防止には動脈、静脈、毛細血管に大別される「血管」の状態が大きく関係することを忘れてはならない。
「心臓から血液を送る血管は大動脈であり、血管を休めることと心臓を休めることはほぼイコールと考えてください。血圧が高い状態では心臓への負担が大きく、心臓自体が疲れやすくなります」
特に注意したいのが、高血圧の影響で心臓の筋肉が厚くなる「心臓の腫れ」だ。
「こうした症状は『高血圧性心肥大』と診断されます。この場合は薬で血圧をきちんとコントロールすることが第一となり、肥大化を極力抑えることで心臓への負担が緩やかになります」
睡眠時に修復される
また「血管そのものの劣化」も心臓の負担増加に直結する。
「動脈硬化が進行したり、毛細血管がボロボロになったりして血流が悪い状態が続くと、心筋梗塞をはじめ脳卒中やがんなど様々な重大疾患を招くリスクが高まります」
動脈硬化の進行度を調べるために伊賀瀬医師が推奨するのが、「開眼片足立ちテスト」だ。
「耳の病気などで平衡感覚が落ちていない人が対象で、片足立ちができた秒数を測り、バランス力と太ももの筋肉量の指標とします。太ももの筋肉は全身の血流を左右する重要な箇所のため、それが衰えていれば血流が減って動脈硬化が進行している可能性がある。私たちの研究でも、太ももの筋肉量が多いほど動脈硬化の進行度が低いことを確認しています」
血管の劣化でさらに怖いのが、毛細血管の「ゴースト化」だ。
「血管全体の9割以上を占める毛細血管は、血管内皮細胞を壁細胞が取り囲むだけのシンプルな構造。そこから適度に血液成分が漏れることで、全身の細胞に酸素や栄養が届けられます。しかし、毛細血管は加齢に加えて運動不足や食生活の乱れなどの影響でボロボロになり、最終的に血流が途絶えて消滅してしまうことがあります。この状態を『ゴースト血管』といい、全身の血流が低下する要因になります」
毛細血管は20代を100とすると、70代ではその約40%が消滅してゴースト化するという。毛細血管のゴースト化を調べるには、手の指先を5秒つまんで離し、白くなった爪に赤みが戻るまでの時間を測る「指つまみテスト」を行なう。
「赤みが戻るのに3秒以上かかるようなら、爪の下の毛細血管がゴースト化している可能性があり、全身の毛細血管のゴースト化も疑われます」
だが、70代以降でも、日常生活の改善により、衰えた心臓や血管、血流の機能回復は可能だと伊賀瀬医師は指摘する。
「前述した適度な運動のほか、食事、入浴などで血流を良くすることは、動脈硬化で硬くなった血管が柔軟になったり、途絶えた毛細血管が伸びて血流が復活するなどの効果が期待できます。食生活では、塩分の摂りすぎは血液量を増やす要因となり、心臓の仕事量を増やす直接的な要因に繋がるため、薄めの味付けを意識しましょう」
睡眠も重要な要素だ。
「心臓の休息や修復は、夜間の睡眠時など心拍数が落ちている時に行なわれることがわかっています。しっかり睡眠をとることで、日常生活で蓄積されたストレスの緩和を意識することが、心臓を長持ちさせる秘訣と言えるでしょう」
日頃から心拍数を意識しケアを心がけたい。
◆教えてくれた人:愛媛大学医学部附属病院抗加齢・予防医療センター長・伊賀瀬道也医師
※週刊ポスト2026年9月25日・10月2日号
