【介護ポストセブン10周年特別企画】毒蝮三太夫(90歳)が語る「私のこれからの10年。100歳に向けての意気込み」
90歳の卒寿を迎えて、ますます大活躍の毒蝮三太夫さん。「介護ポストセブン」では、2019年10月に「ジジイやババアとちゃんと話す技術」の連載が始まった。発展的にリニューアルした「マムちゃんの毒入り相談室」は、毎回読者の心を強く揺さぶり、今月で86回を数えている。いつも日本中に元気と勇気と希望を与える「歩くパワースポット」の毒蝮さんに、「これからの10年。100歳に向けての意気込み」を聞いた。(聞き手・石原壮一郎)
→「マムちゃんの毒入り相談室」第86回「気が進まない誘いを上手く断ることができない」60代女性の悩みに毒蝮三太夫が誘いに対するの心の持ちようを伝授
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「最近は集中と弛緩の日々だ。ほとんど弛緩だけどね」
「介護ポストセブン」が10周年か。おめでとう。最初は「介護されてる年寄りはネットの記事なんて読めねえだろ」と思ったけど、そうじゃないんだね。身内を介護している人や、やがて介護したりされたりする人が、ここを通じていろんな体験談や情報を知るわけだ。知ることは大事だよ。救われている人は多いんじゃないかな。これからもがんばってくれ。
で、何だって。「これからの10年。100歳に向けての意気込み」と来たか。そっか、10年たったらオレは100歳か。ま、生きてればの話だけどな。100歳を目指してるわけじゃないし、特別な意気込みがあるわけじゃない。一年一年、一日一日の積み重ねだよ。
健康維持には、昔からそれなりに気をつかっているつもりだ。今もスポーツジムに週3~4回通って、水中ウォーキングを30分やってる。大腿筋を鍛えないと、歩くのがイヤになっちゃうからね。食事も野菜が中心だ。たとえば朝ごはんは、玉ねぎと豆とトマトとほうれん草のサラダに、サンドイッチがひと切れ。モズク酢とカップスープも付くな。
歳を取ると早寝早起きになるって言うけど、オレはぜんぜんそんなことはない。夜中の3時頃まで昔の映画を見たり写経をしたりして、昼過ぎに起きる。いわば「規則正しい不摂生」だ。仕事も用事も、全部午後から。今さら生活リズムを変えたら、身体に悪いよ。毎日をストレスなく過ごすことのほうが大事だからね。
たしかに体力の衰えは感じるから、慎重に行動してる。道を歩くときもクルマに乗り降りするときも、しっかり集中して体を動かす。転んだらたいへんだからね。そうやって集中しているとき以外は、のんびり弛緩している。クヨクヨ悩んだりはしない。日々、集中と弛緩だ。ま、ほとんどの時間は弛緩だけどね。「おかみさん、弛緩ですよー」だな。
夜に飲みに行くこともほぼなくなった。集まるとしても昼間だ。昔は週に何度も夜中まで飲み歩いて、二日酔いでラジオの生中継に行くなんてことをやってた。だからって、つまらないとも思わない。年代や体力に合った楽しみ方があるからね。出歩かないから、家でカミさんとゆっくり過ごせる。いっしょに落語のDVDを見たり、大谷翔平を応援したり。今のオレには、それがいちばん楽しくて大事な時間なんだ。
「人と人が直接会って話す大事さや面白さを伝えたい」
オレがこの年まで仕事を続けてこられたのは、運がよかったからだと思ってる。ま、並外れた知性と容貌に恵まれたってことはさておきとしてね。ハハハ。
つくづく人や番組との出会いに恵まれてきたと思う。小林桂樹さんや立川談志、永六輔さん、名前を上げるとキリがない。「ウルトラマン」や「ウルトラセブン」で顔を知ってもらって、座布団運びをやった「笑点」で本名の石井伊吉から毒蝮三太夫になった。ラジオの「ミュージックプレゼント」は50年以上も続いている。すべてがつながってるんだ。
恩人のひとりでもある日野原重明先生は、100歳を超えてからサッカーや俳句に挑戦なさっていた。すごいことだし、人間は何歳になっても新しいことを始められる証明でもある。ただ、オレは今のところ「100歳に向けてこれを始めたい」ってことはないなあ。
できるだけ長く続けたいことはある。写経やジム通いもだけど、戦争体験を若い人に伝えていくのも、生き残りがどんどん減っていく中で、大事な役割だと思ってる。戦後の芸能界の歴史も、話せる人が少なくなった。日本映画の全盛期も、テレビが誕生して成長していった頃の様子も知ってる。俳優とも落語家とも幅広く付き合ってきた。
近ごろ強く感じてるのが、人と人とが直接会って話す大事さや面白さを伝えなきゃなってこと。若者の中には、何でもAIに聞けばいいと思っている人も多い。たしかに便利なんだろうけど、AIに振り回されているようにも見える。弊害も出てきてるみたいだ。
いつのまにか「昭和」って言葉は、すっかり古臭いイメージになった。よくない部分もあったかもしれないけど、人との関係にせよ仕事のやり方にせよ、令和にはない、いつの時代でも忘れちゃいけない「昭和」の良さがあるはずだ。オレの言ってることややってることを通して、昭和的なコミュニケーションの楽しさを感じてくれたら嬉しい。
「カミさんに恩返しをするまではくたばるわけにはいかない」
現役世代や「高齢者の入口」に立ったぐらいの人たちに伝えたいのは、自分のできる範囲で人のお世話をしようということ。お袋は「人のお世話にならぬよう、人のお世話をするよう」が口癖だった。元は戦前に東京市長などを務めた後藤新平の言葉で、本当はこのあとに「そして、報いを求めぬよう」と続く。美輪明宏さんが言っていた無償の愛が、今こそ大切だと思う。
人間は誰しも歳を取る。歳を取ったら人の世話にならなきゃいけない。若くて元気なときに何もしてないヤツが、歳を取って「さあ、自分にやさしくしろ」なんて言うのは図々しい話だよ。もちろん、人の世話は「そして、報いを求めぬよう」なんだけど、自分がやるだけのことをやったという気持ちがあれば、心穏やかに世話をしてもらえるんじゃないかな。
あらためて言うのはテレ臭いけど、オレが好き勝手にやってこられたのは、ひとえにカミさんのおかげだ。苦しいときも何も言わずに支えてくれたし、いいときもオレが調子に乗り過ぎないように手綱をしっかり握ってくれてた。オレにとって今「いちばんやりたいこと」は、カミさん孝行だな。たっぷり恩返しをするまではくたばるわけにはいかない。
これを読んでいる人も、ダンナにせよカミさんにせよ親にせよ、恩を返しておきたい相手がいるんじゃないかな。「もっと大事にしなきゃな」と思っているうちに、どっちかが弱ったりしてできなくなるなんて話もよく聞く。後悔しないように、恩返しは急げだ。
言いたい放題してるオレも、いつかはこの世とおさらばしなきゃいけない。ピンピンコロリは勘弁してほしいな。周りに迷惑をかけるかもしれないし、自分としても心残りだ。最後の10日ぐらいはベッドに寝たまま、いろんな人にお礼を言ってからいなくなるのがいい。30年ぐらい前に『人生八十、寝てみて七日‐ジジィ、ババァに学んで二十五年』って本を出したことがあるけど、80は超えちゃったから「人生百年、寝てみて十日」だ。
ニッコリ笑って手を振りながら「自分はもう十分に生きたから、お先に失礼」なんて言って旅立てたら最高だね。いつか向こうで会うことがあったら、声をかけてくれ。ハハハ。
毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう)
1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からパーソナリティを務めているTBSラジオの「ミュージックプレゼント」は、現在『金曜ワイドラジオTOKYO 「えんがわ」』内で毎月最終金曜日の16時から放送中。90歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など精力的に活躍中。この連載をベースにしつつ新しい相談を多数加えた『70歳からの人生相談』(文春新書)が、幅広い世代に大きな反響を呼んでいる。最新刊は玉袋筋太郎と熱く語り合った対談集『愛し、愛され。』(KADOKAWA)。毒蝮の「毒」と玉袋の「粋」が熱く融合し、混迷の時代を生きる私たちに勇気と希望を与えてくれる。
YouTubeの「マムちゃんねる【公式】」(https://www.youtube.com/channel/UCGbaeaUO1ve8ldOXXも、毎回多彩なゲストのとのぶっちゃけトークが大好評! 毎月1日、15日に新しい動画を配信中。
石原壮一郎(いしはら・そういちろう)
1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」「失礼な一言」など著書多数。新著『昭和人間のトリセツ』(日経プレミアシリーズ)と『大人のための“名言ケア”』(創元社)が好評発売中。当サイトの連載「マムちゃんの毒入り相談室」では、マムシさんの言葉を通じて高齢者に対する大人力とは何かを探求している。
撮影/横田紋子
