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「認知症の母親のひとり歩きが不安」「また出ていってしまうのでは…」知っておきたい4つの見守り方法やサービスを専門家が解説

 認知症を患った家族の「ひとり歩き」は、ご家族にとって大きな不安のひとつだろう。しかし、もしかすると本人にとっては意味のある行動かもしれない。ひとり歩きが起こる背景や、自宅でできる見守りの工夫や介護保険サービスを活用した安全対策について、介護職員・ケアマネジャーの経験をもつ中谷ミホさんに解説いただいた。

この記事を執筆した専門家

中谷ミホさん

福祉系短大を卒業後、介護職員・相談員・ケアマネジャーとして介護現場で20年活躍。現在はライター・編集者として、介護業界での経験を生かし、介護に関わる記事を多く執筆・編集する。著書『介護職六法』(中央法規出版)、監修『サ責があなたに贈る本』(HTC出版)。保有資格:介護福祉士・ケアマネジャー・社会福祉士・保育士・福祉住環境コーディネーター3級・終活ガイド資格1級。X(旧Twitter)https://twitter.com/web19606703

認知症を患ったかたのひとり歩きは「不安な気持ち」から起こる

 認知症に伴う「ひとり歩き」は、事故や行方不明の不安が常につきまとい、介護を担う家族にとって大きな悩みとなります。

 そもそもひとり歩きは、「今いる場所が分からない」「何をすべきか分からない」といった不安な気持ちから起こるといわれています。本人にとっては理由のある行動であり、「出歩かないで」と頭ごなしに制限するのは、かえって逆効果となることもあります。

 とはいえ、家族だけで外出を防ぐのは現実的に困難です。だからこそ、万が一に備えた安全対策を講じておくことが、ご本人とご家族双方の安心につながります。  そこで今回は、ご自宅でできる環境づくりの工夫や、いざというときに役立つ見守りアイテム、そして地域や介護保険で利用できる頼れるサービスについて、詳しくご紹介します。

「夕飯が終わると外へ…」認知症の母のひとり歩きが心配

 数年前に認知症と診断された母親(86才・要介護1)とふたり暮らしをしている森下仁美さん(仮名・52才・会社員)。

 夕飯を終えたころになると母親がソワソワして落ち着かなくなりました。

「家に帰らないと」「子どもを迎えに行かなきゃ」と言って、外に出ていこうとするのです。仁美さんが車でドライブに連れ出すと落ち着く日もありました。しかし、知らないうちにひとりで家を出てしまい、慌てて近所を捜し回ったこともあったといいます。

 仁美さんは「また一人ひとりで出ていってしまうのでは」という不安から気が休まらず、心身の負担は大きくなる一方でした。限界を感じた仁美さんは、地域包括支援センターに電話で相談することにしました。

なぜ「ひとり歩き」は起きるのか

 ひとり歩きは、周囲からは「あてもなく歩き回っている」ように見えるかもしれません。しかし実際は、「仕事に行く」「家に帰る」といった、ご本人なりの明確な目的があって家を出ることがほとんどです。

 ただ、途中で目的を忘れてしまったり、道に迷っても誰かに尋ねられなかったりして、結果的に歩き続けてしまうのです。また、「夕方になるとソワソワして外に出たがる」というご家族のお悩みもよく耳にします。

 夕暮れ時は、日中の疲れや外の明るさの変化から、時間や場所の感覚が乱れやすい時間帯です。自分がどこにいるのか分からなくなる不安から、自宅にいるにもかかわらず「家に帰らなきゃ」と行動してしまうことがあります。これは「夕暮れ症候群(夕方症候群)」とも呼ばれ、仁美さんのお母様が夕食後にソワソワされていたのも、まさにこうした不安が背景にあるようでした。

「またひとりで出ていってしまうのでは」家族が抱える2つの大きな不安

 認知症の「ひとり歩き」には理由があると頭では分かっていても、「いつ外に出て行ってしまうか分からない」という状況は、ご家族にとって大きな不安となります。とくにご家族を悩ませるのが、次の2つです。

(1)事故や体調悪化など安全面への不安

 道路への飛び出しや転倒による事故、夏場の熱中症や冬場の低体温症など、命に関わる危険があります。また、そのまま行方が分からなくなってしまうリスクも伴います。

(2)「目を離せない」ことによる家族の疲労

 いつ出ていくか分からないという緊張感から、ご家族が睡眠不足や精神的なストレスを抱え、体調を崩してしまうケースは珍しくありません。家族だけで24時間見守り続けるには、どうしても限界があります。

 だからこそ、ご家族だけで抱え込まず、生活環境の工夫やサービスをうまく取り入れることが大切です。ここからは、自宅で取り入れやすい工夫から地域や介護保険のサービスまで、具体的な見守りの方法をご紹介します。

ひとり歩きに備えて活用したい4つの見守りサービス

見守りの選択肢【1】家の中でできること(玄関の工夫と徘徊感知機器)

●玄関の工夫

 大きな費用をかけずにできる方法として、玄関のドアが開くとチャイムが鳴るようにしたり、ご本人が一人では開けにくい位置に補助錠を取り付けたりする方法があります。ドアのチャイムや補助錠は、ホームセンターやインターネット通販などで手軽に購入でき、特別な工事をしなくても簡単に設置できるものも多くあります。購入前に対応するドアの種類や取り付け方法を確認しておくと安心です。

●徘徊感知機器のレンタル

「徘徊感知機器」は、玄関などあらかじめ設定した場所を通過した際にセンサーが感知し、家族のスマートフォンや受信機に通知を送る福祉用具です。認知症のかたが、気づかないうちに屋外へ出てしまうのを防ぐ目的で使われます。原則として要介護2以上のかたであれば、介護保険を利用してレンタルすることも可能です。(正式名称:認知症老人徘徊感知機器)

見守りの選択肢【2】外に出たときの備え(居場所がわかる「GPS端末」)

 万が一ひとりで外出してしまった場合に備え「GPS端末」を活用するのもおすすめです。靴に取り付けるタイプやキーホルダー型などがあり、家族は専用アプリなどから位置情報を確認できます。導入費用や利用料に対する助成制度を設けている自治体もあるため、お住まいの地域の条件や支援内容を確認してみましょう。

見守りの選択肢【3】地域サービスの活用(SOSネットワークと見守りシール)

 見守りは家庭だけで抱え込まず、地域のサポート体制も積極的に活用しましょう。

●認知症高齢者SOSネットワーク

 行方が分からなくなったときに、警察や自治体、地域の協力機関が情報を共有し、早期発見につなげる制度です。万が一に備え、ご本人の特徴や写真をあらかじめ登録しておける「事前登録制度」を設けている自治体もあります。

●見守りシール

 衣類や靴、持ち物などに貼るQRコード付きのシールです。保護してくれたかたがスマートフォンで読み取ることで、家族へのスムーズな連絡や身元確認につながります。

見守りの選択肢【4】介護サービスの活用(デイサービス・夜間の在宅サービス)

 家族がどうしても目を離さざるを得ない時間帯は出てきます。そうしたときは、無理をせず介護保険サービスを活用しましょう。プロの力を借りてご家族自身が「休む時間」を確保することも、在宅介護を長く続けていくためには大切です。

●デイサービス(通所介護)

 日帰りで施設に通い、食事や入浴、機能訓練、レクリエーションなどの支援を受けるサービスです。日中を安全に過ごして生活リズムを整えることで、夜間の落ち着きや安眠につながる場合もあります。

●小規模多機能型居宅介護

「通い」を中心に、状況に合わせて「泊まり」や「訪問」を組み合わせて利用できるサービスです。家族が見守れない日に「泊まり」を利用するなど、柔軟な使い方ができます。

●夜間対応型訪問サービス

 夜間の見守りが難しい場合には、夜間の巡回や緊急時の対応を行ってくれるサービス(夜間対応型訪問介護や定期巡回・随時対応型訪問介護看護)もあります。

 ここまでご紹介した制度やサービスは、お住まいの地域や要介護度によって利用条件や費用、助成の有無が異なります。まずは担当のケアマネジャーや地域包括支援センターに相談してみてください。

家族だけで抱え込まず、頼れる力を組み合わせて

 冒頭の仁美さんは、ケアマネジャーと相談して、徘徊感知機器とGPS端末を導入しました。あわせてデイサービスも利用し始めたことで、お母様は日中を活動的に過ごせるようになりました。結果として、生活リズムが整い、落ち着いて過ごせる日が増えたため、仁美さん自身も少しずつ眠れるようになったといいます。

 認知症に伴うひとり歩きを、ご家族の力だけで完全に防ぐことは困難です。だからこそ、家の中でできる工夫や、万が一に備える見守りアイテム、そして地域や介護保険サービスをうまく組み合わせていくことが大切になります。家族だけで抱え込まず、周囲の力を頼りながら無理のない見守り体制を整えていきましょう。

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