バリウム検査やレントゲンは見落としの可能性も 医師が解説する「慎重に検討したい検査15」
日本では定期健診や人間ドックなど、健康状態を調べる仕組みが広く定着している。手軽に検査を受けられることから、無症状でも受診する人は少なくない。しかし、中には医学的根拠が十分とはいえない検査や、不要と考えられる検査もあるという。検査がきっかけで不要な追加検査や治療につながり、患者が不利益を被るケースもあると専門家は警鐘を鳴らす。あなたが受けようとしている検査が本当に必要か、一度チェックしてみてほしい。
教えてくれた人
山田悠史さん/医師・マウントサイナイ医科大学(ニューヨーク州)老年医学・緩和医療科・著書に『最新科学が覆す 体にいいのはどっち?』(サンクチュアリ出版)、室井一辰さん/医療経済ジャーナリスト、戸田佳孝さん/医師・戸田整形外科リウマチ科クリニック院長
医師が警鐘を鳴らす「過剰検査」の弊害
体の不調や異変を感じ医療機関を受診した際、医師から「検査」を提案されることは多い。
だが、その検査にも落とし穴がある。
全米トップの医大病院として知られるマウントサイナイ医科大学(ニューヨーク州)老年医学・緩和医療科の医師で、『最新科学が覆す 体にいいのはどっち?』(サンクチュアリ出版)の著書がある山田悠史さんが言う。
「日本では過剰検査の弊害が低く見積もられすぎだと感じます。人間ドックなどではオプションで様々な検査を受けられますが、実際は玉石混交で、なかには不要と考えられる検査もあります。
その結果をもとに、さらに不要かつ過剰な追加検査が生じ、患者が不利益を被るケースがあります。検査を受ける際は、将来の自分に害が及ぶ可能性があるという認識を持つことが大事です」
バリウム検査やレントゲンはがんを見落とす可能性も
多くの人に身近な検査といえば、自治体などが実施する健康診断やそれに付随するがん検診だろう。6月は自治体の検診がスタートする時期なので、手元に案内が届いた人も多いはずだ。
中高年の男性であれば、国が推奨する胃がん、肺がん、大腸がんの検診を、年1回や2年に1回などの間隔で、無料または安価で受けることができる。
例えば胃がん検診ではバリウム検査(胃部X線検査)や内視鏡検査が一般的だが、山田医師はこう指摘する。
「バリウム検査は早期胃がんの検出感度が高くなく、偽陰性(病気やウイルス感染があるにもかかわらず検査で「異常なし」と判定されてしまうこと)が多い検査という認識です。年齢を問わず受ける意味は低いと言えるでしょう。
一方、内視鏡はバリウムより検出感度が優れており、死亡率低下との関連も報告されていますが、毎年の健診で受けると過剰診療に繋がるリスクがある。無症状であれば2年に1回の頻度が適切と考えます」
山田医師がバリウム検査と同じく「医学的根拠が欠けている」と指摘するのが肺がん検診の胸部X線検査(レントゲン)だ。
「胸部X線は検出感度が低く、がんが見落とされる可能性があり、海外では病気の予防効果が否定されています。厚労省も低線量CTによる肺がん検診の導入を検討しており、いずれ切り替わることが予想されます。米国では、長期喫煙者など高リスクの人には低線量CT検査を年に1回受けるよう推奨しています」
自治体などの大腸がん検診では、便潜血検査(検便)が実施されている。しかし、医療経済ジャーナリストの室井一辰さんはこう言う。
「検便で大腸がんが発見されるのは、罹患者の25〜50%程度とされます。がんはある程度大きくならないと出血しないことがあり、検便ではポリープや早期がんを見逃す可能性があります」
その見逃しを防ぐには、大腸内視鏡検査が有効だとされている。自治体などの大腸がん検診では検便で陽性となった際の再検査で受けることになるが、人間ドックなどでは希望すれば最初から受けることもできる。
しかし、山田医師はこう注意を促す。
「米国の専門学会は、50才以上で大腸がんの家族歴がないなどリスクが低い場合は、大腸内視鏡検査は10年に1度の間隔が適当としています。内視鏡で『陰性』なら、その後10年間はがんの発症リスクが低いとわかっているためです」
大腸内視鏡検査は検査前の食事制限や下剤服用など、体への負担も小さくない。
「大腸内視鏡検査を実施するか否かは、健康状態や余命とのバランスも考慮すべきでしょう。今受ける検査のリスクと10年後のベネフィットを慎重に検討する必要があります」(同前)
山田医師によれば、70才以上の男性に不要と言えるのが前立腺がんを調べるPSA検査だという。
「PSA検査は議論が多い検査で、高齢者の過剰治療につながるとされています。多くの前立腺がんは進行が遅く放置しても問題ないケースがあるため、米国の専門機関は70才以上の男性に推奨しないと勧告しています」
健診や人間ドックの追加検査は不要?
脳や心臓の疾患を見つけるために健診や人間ドックなどで追加検査が勧められることは多いが、「なんとなく」「言われたまま」受けるのは避けたい。
例えば狭心症や心房細動につながる不整脈を見つけるために行なわれる心電図検査は、医学的根拠に乏しいという。
「心電図では血管の状態までは把握できず、それで見つかる狭心症や心筋梗塞は偽陽性が多いとされます。不要な追加検査につながるリスクもあるため、無症状の人が心電図検査を受ける必要はないでしょう」(同前)
狭心症や心筋梗塞を早期発見するための冠動脈CT検査もその一つだ。
「アメリカの専門学会は、『無症状の場合における冠動脈CT検査は、冠動脈内の石灰沈着の程度を見るもので、それ以上の意味はない』と指摘しています。
冠動脈の石灰化は80才以上の人ではごく当たり前に見つかるもので、それが狭心症や心筋梗塞に直結するわけではありません。無症状の人、とくに高齢者が冠動脈CTを受けるメリットは少ないと言えます」(同前)
くも膜下出血を調べる頭部MRI検査、脳梗塞を調べる頸動脈エコー検査も無症状の人への検査は推奨されないという。
「頭部MRIでは未破裂脳動脈瘤が見つかることがありますが、年間破裂率は1%程度と低く、見つかっても経過観察以外に選択肢はありません。
頸動脈エコーも有用性が示されていないうえに、偽陽性で追加検査になるリスクがあります。ベネフィットが明らかでない検査には慎重になるべきです」(同前)
年を重ねるほど高まる認知症のリスク。認知症予防クリニックなどでは、アルツハイマー病の原因とされる脳内物質「アミロイドβ」の沈着を確認するアミロイドPET検査が実施されている。
「アミロイドβの蓄積が見つかるだけでアルツハイマー病になると判断することはできません。その後の治療方針をミスリードすることにも繋がりかねないので、無症状の人がアミロイドPET検査を受けるメリットは少ないと考えます」(同前)
過剰な検査は無用な手術の原因に
健康診断や人間ドック以外にも、不要な検査はある。
戸田整形外科リウマチ科クリニック院長の戸田佳孝医師は、足腰や関節の痛み、肩こりなどで整形外科を受診する際にも、医師の言葉を鵜呑みにしてはいけない場面があると言う。
「患者さんが筋肉や神経の痛みを訴えた際、整形外科で原因を調べるために針筋電図検査を勧められることがあります。筋肉の深部に太い針を通し、筋肉の微弱な電気信号を解析して異常を判別しますが、検査では痛みの原因箇所を判別できないことが少なくありません。
例えば患者のしびれの原因を探る際、筋電図で神経の異常が確認されても、しびれが加齢による血流悪化によるものか、神経の圧迫によるものかを判別するのは困難です。針筋電図検査は苦痛を伴ううえに、手術など過剰な医療を生みやすい検査と言えます」
腰やひざなど、関節の痛みがある際に原因を探る目的で実施されるMRI検査にも同様のことが言えるという。
「MRI画像で異常を捉えても、それが加齢による変化か、痛みの原因かを識別する決定打にはなり得ません。60才以上で腰の痛みがない人を対象にした海外の研究では、57%の人の腰椎にMRIにより神経の圧迫が認められました。80才以上なら無症状でもおそらく8割の人に圧迫が見つかるでしょう。過剰なMRI検査を機に、無用な治療介入や手術を勧められる可能性があります」
代表的なケースがMRI検査で見つかるひざの「半月板損傷」だ。
「50才を過ぎれば、半数以上の人で加齢により半月板は割れています。にもかかわらずMRI検査の結果をもとに『関節鏡を用いた簡単な手術だから』と勧めてくる医師がいます。しかし、ひざの痛みの原因が半月板の損傷箇所とは限らず、手術を第一選択肢にするのは早計です。費用対効果も高いとは言えません」(同前)
腰痛に対する頻繁なレントゲン検査も「無意味」と戸田医師は断じる。
「腰痛の約85%は筋肉や神経に起因するもので、それらの異常はレントゲンには写りません。転倒や打撲がなければ骨折の可能性は低いため、頻繁な撮影は意味がない。ましてや定期的な受診で儀式のように撮影するのは被曝のリスクを伴うだけです」
このほか主に健診や人間ドックなどで実施される検査のうち、エビデンスが不十分であったり、メリットよりも身体的負担が大きいものなどを別掲の表にまとめた。
医師がすすめても慎重に検討したい検査15
【1】<胃がんの検査>バリウム検査
(不要と考えられる理由)
早期胃がんの検出感度が低く「偽陰性」で問題なしとされるケースがある。
【2】<胃がんの検査>胃内視鏡検査
(不要と考えられる理由)
バリウム検査よりも検出感度は優れているが、2年に1度の頻度で問題なし。毎年受ける人は過剰診療の可能性がある。
【3】<肺がんの検査>胸部X線検査(レントゲン)
(不要と考えられる理由)
検出感度が低く、がんが見落とされる可能性がある。がん検診のエビデンスに欠け、年齢を問わず受ける意味はほぼなし。
【4】<肺がんの検査>低線量CT検査
(不要と考えられる理由)
胸部X線検査に比べ検出感度は高いとされ、自治体検診でも導入が進むが、非喫煙者であれば毎年受けなくてもよい。
【5】<大腸がんの検査>線潜血検査(検便)
(不要と考えられる理由)
早期、進行がんの検出率は25~50%とされる。自身の健康状態や余命を考慮し判断。
【6】<大腸がんの検査>大大腸内視鏡検査
(不要と考えられる理由)
食事制限や下剤服用、内視鏡挿入など心身に負担がかかる。大腸がんリスクが低い人は10年に1度でもよい。
【7】<前立腺がんの検査>PSA検査
(不要と考えられる理由)
前立腺がんは進行も遅く、過剰な検査→手術で排尿障害や性機能障害リスクも。70才以上であれば、まず不要と考える。
【8】<心房細動・狭心症・心筋梗塞の検査>心電図検査
(不要と考えられる理由)
息苦しい、胸に痛みがあるなどの症状がない場合、「予防目的」で受ける必要性は低い。
【9】<狭心症・心筋梗塞の検査>冠動脈CT検査
(不要と考えられる理由)
高齢者に冠動脈内部の石灰沈着あるのは自然。上記と同様、胸痛など症状がなければ、予防目的で受ける必要性は低い。
【10】<くも膜下出血の検査>頭部MRI検査
(不要と考えられる理由)
未破裂脳動脈瘤の破裂率は1%程度と低く、経過観察以外に選択肢はない。無症状の人が受ける必要性は低い。
【11】<脳梗塞の検査>頸動脈エコー検査
(不要と考えられる理由)
無症状の人への検査の必要性は低いと考えられている。さらに「本来受けなくてよい追加検査」が生じるリスクがある。
【12】<認知症の検査>アミロイドPET検査
(不要と考えられる理由)
アミロイドβの脳内沈着だけが「アルツハイマー病」の原因とは限らず、治療方針がミスリードされる可能性がある。
【13】<筋肉・神経の痛み、しびれ、脱力などの検査>針筋電図検査
(不要と考えられる理由)
筋肉の深部に太い針を刺すため、強い痛みを伴う。検査をしても、痛みの原因が特定できないことが多い。
【14】<腰やひざなど関節の痛みの検査>MRI検査
(不要と考えられる理由)
MRI画像が捉える異常には「加齢による変化」も含まれ、本来必要のない治療や手術に至ってしまうケースがある。
【15】<腰痛の検査>腰部X線検査(レントゲン)
(不要と考えられる理由)
腰痛の8割超は筋肉や神経に起因。レントゲンによる原因特定は困難で、無駄にX線被曝によるリスクが生じる。
※週刊ポスト2026年6月26日・7月3日号
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