《教訓は「1人で抱え込まない」》いとうまい子が語る認知症だった母親の介護 「あんた誰?」と般若のような怖い顔で見られた時にどう対応したか?
女優やタレントとして活躍する傍ら、早稲田大学などで予防医学やロボット工学を学び、研究者・経営者としても活動するいとうまい子さん(61歳)。両親の看取りや介護を経験した彼女が、自らの体験を通して得たのは「1人で抱え込まない」という教訓だった。家族の介護という難局をどうやって乗り越えてきたのか。息抜きの大切さや、マインドセットの秘訣について伺った。【全3回の第3回】
家族だからこそ抱え込みがち。しんどいときは迷わずプロに相談を
――ご両親の看護や介護、看取りの経験を通じて、得た学びや気づきを教えてください。
いとうさん:本当に日々学びの連続でした。私は子どもを育てた経験はないのですが、介護って子育てに近いと思うんですよ。ただ、子育てよりも大変なのは、成長していくのではなく衰えていくこと。それでも、血を分けた家族に寄り添うという意味では、似て非なるものだけど本質は近いと思います。
ただ、特に日本人は「自分の親なんだから自分がちゃんとやらなきゃ」と、すべてを自分の中にため込んでしまいがちなんですよね。私も最初のころは周りの人はもちろん、ケアマネジャーさんにすら、あまり相談していませんでした。
――そこから、どうやって状況を変えていったのでしょうか。
いとうさん:抱え込むことは絶対によくない、共倒れになりかねないと思ったんです。「もうしんどい、大変だ」と思ったときに解決策を知っているのは、プロのケアマネジャーさんや介護をしてくれる方々ですよね。だから思い切って連絡をして、相談に乗ってもらうようにしたら、すごく気持ちが楽になったんです。
「親のことなんだから自分がやらなきゃ」という責任感を持つこと自体はいいことだと思います。でも、抱え込みすぎないことの大切さを私は学んだので、これから介護に直面する方には、「1人でため込まないで」と伝えたいです。
「明日の命の保証はない」。親や兄の死を通して変わった死生観
――ご家族を見送られて、死生観や老いに対するお考えに変化はありましたか。
いとうさん:元気だった父ががんで亡くなったときもそうでしたが、50代半ばで兄が寝ている間に突然亡くなってしまったこともあり、人間はいつ亡くなるか分からないと、強く意識するようになりました。それまでは死についてあまり深く考えていませんでしたが、明日の命が保証されている人なんて誰もいないんですよね。
だからこそ、誰もが今を楽しんで生きるのが一番だと思うようになりました。若いころは永遠に若いと勘違いしてしまう時期もありましたけど、老いは誰にでも平等にやってきます。明日亡くなるかもしれないからこそ、今日を大切に生きようと気持ちが変化しました。
肉体的に老いるのはみんな同じです。でも、同じ年齢でも健康に気をつけて筋力を維持し、自力で外を歩いている高齢の方を見ると、お金の貯金も大事だけど、筋力の“貯筋”も必要だと感じます。だから、老いそのものが怖いというよりは、何もしないで筋力を失っていくことへの怖さのほうが大きいですね。
――いとうさんは、認知症ケアの技法である「ユマニチュード」も学ばれていますね。身内の介護において、本人を尊重して接することの難しさや大切さを教えてください。
いとうさん:ユマニチュードの基本信条は、相手の尊厳を重んじて接することです。相手が拒否するなら無理に触らない。でも、許可をもらって手を取るなり介護をするなりしなきゃいけない。
ある日、家に帰ったら母に「あんた誰?」って、般若の面のように怖い顔で見られたことが1回だけあったんです。人生で見たことがないくらい怒っていて、「出ていけ!」ぐらいの勢いでした。私が誰かわからなくて、知らない人が家に入ってきているという恐怖と怒りの目でした。
――そのとき、具体的にどのようなやり取りをされたのでしょうか。
いとうさん:最初は私が誰かわからないのかと何回か確認しました。「なんでわからないの?」と問い詰めると、相手はもっと混乱して恐怖を感じるだけだとわかっていたので、責め立てたり、大きな声を上げることはしませんでした。
それから聞くのをやめて、やるべきことを済ませながら時間を置きました。そして「そういえば、おまんじゅうが売ってたけど、お母さん食べたい?」と全然違うことを言ってみたら、スイッチが切り替わって元に戻りました。親であっても隣人に接するくらい優しく、敬意を持って相手の気持ちを考える。その知識が少しあるだけでも、いざというときに自分が混乱せずに済むと思います。
他人の目は気にしない。息抜きをしつつ、介護を“ゲーム”として捉える
――介護をする上で、日本の介護制度や社会環境について、気になることはありましたか?
いとうさん:少なくとも私が体験した自治体の介護制度は、とてもよくできていて助けられました。私は介護の素人ですから知らないことばかりでしたが、要介護度が上がるとおむつ代の助成や、家の中の手すり設置費用の自己負担が何割で済むか、などを丁寧に教えてくださったんです。「毎日おむつを替えていたらおむつ代だけで大変」という悩みから解放されましたし、日本の介護制度は整っていると思うので、どんどん利用すべきです。
――周囲へSOSを出すコツや、息抜きの秘訣を教えてください。
いとうさん:まず、介護経験のない素人の家族や友人にSOSを出すのは、相手の負担になり共倒れになるだけなので避けるべきです。どんなときもプロにSOSを出すこと。もしケアマネジャーさんやスタッフの方と親の相性が悪ければ、すぐに代えればいいんです。たくさんの施設や人がいるので、相性のいい親身になってくれる人を見つけるのがコツですね。
息抜きについては、田舎あるあるかもしれませんが、親をデイケアに預けて自分は遊んでいるように見られるかも、と近所の目を気にしてしまう人が多いと思います。でも、隣の人もお向かいさんも、誰も我が家の介護を手伝ってくれるわけじゃありません。自分の身を守るのは自分しかいないんです。だから他人の目を気にせず預かっていただいて、その日は1日寝ていてもいいし、映画を見に行ってもいい。自分第一に考えて息抜きをしてほしいです。
――現在介護に直面して思い悩んでいる方に、マインドセットのアドバイスをお願いします。
いとうさん:悩みの種類は人それぞれなので簡単には言えませんが、自分が親におむつを替えてもらい、ミルクを飲ませてもらって成長してきた道のりを、今度は自分が代わりに送っていく順番が来たんだな、と思っています。親のためと責任感を背負い込みすぎず、少しゲームのように考えるのも1つの手です。
私の場合は、母がトイレにおむつを流してしまった事件があって。それを「挑戦状を叩きつけられた!」とゲーム感覚で捉えました。「あっちがそう来るなら、こっちは先手を打って床一面にペットシートを敷き詰めて全部吸い取ってやる」みたいな(笑い)。深刻になるのではなく、「じゃあこうしておこう」と少しでも楽しく乗り切る工夫ができるといいですよね。
◆女優、大学教授、研究者・いとうまい子
いとう・まいこ/1964年8月18日、愛知県生まれ。1982年にミスマガジン初代グランプリを受賞し、翌年アイドル歌手としてデビュー。ドラマ『不良少女とよばれて』などでブレイク。女優、タレントとして活躍する傍ら、2010年に早稲田大学へ入学し、修士課程でロコモティブシンドローム予防ロボットを開発。現在も研究者として活動しつつ、2025年からは情報経営イノベーション専門職大学で教授も務めている。
取材・文/小山内麗香
