《認知症を予防するには?》米国で活躍する老年医学の医師が明かす「広い交友関係や友人との交流でリスク低下」「運動も予防に有効」
65歳以上は5人に1人が認知症になるといわれる現代。どうすれば予防することができるのだろうか――。ニューヨークにある老年医療の最高峰、マウントサイナイ医科大学の老年医学・緩和医療科で医師として活躍する山田悠史さんが上梓した『最新科学が覆す 体にいいのはどっち?』(サンクチュアリ出版)。食事、運動、睡眠などの疑問に対し、最新論文をもとに「本当に正しいのはどちらか」を明快に解説している同書から一部抜粋して、認知症について解説する。
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認知症は治る?
アルツハイマー型やレビー小体型に代表される認知症は、残念ながら現代の医学では完治が望める段階にはありません。今のところ行われている治療の主な目的は、病状が進むスピードを緩やかにしたり、不快な症状を和らげたりすることに置かれています。
最近ではアルツハイマー病に関与する物質に働きかける「抗体薬」も登場し注目されていますが、その効果はまだ一部に限られており、根本的な治癒を可能にするまでには至っていません。
その一方で、ごく稀にビタミンB12の不足や甲状腺ホルモンの異常が原因で認知機能が低下しているケースがあり、これらは原因を解消することで症状が改善することもあります。そのため、全ての症例に対して「絶対に治らない」と断定はできませんが、大半のケースにおいては、病気そのものを完全に取り去ることは難しいというのが実状です。
認知症の発症率は遺伝で決まる?
認知症の発症には、遺伝的な要素が関わっています。とりわけ、65歳より前に発症する若年性アルツハイマー型認知症の中には、特定の遺伝子変異(APP、PSEN1、PSEN2など)が直接の原因となるケースがあり、これらは家族性アルツハイマー病と定義されています。もっとも、こうした例は患者さん全体で見れば、1%に満たないごくわずかな割合に留まります。
その一方で、高齢者に多く見られる一般的なアルツハイマー型認知症については、APOE遺伝子のタイプが影響します。「イプシロン4」という型を保有している場合は、標準的な「イプシロン3」などの型を持つ人と比較して、発症する可能性が相対的に高まることが判明しています。
さらに、生活環境や日々の過ごし方も無視できない要因です。例えば、飲酒や喫煙の有無、運動の習慣、周囲との交流、受けてきた教育の背景など、日常生活における一つひとつの選択が、認知症になるリスクを大きく左右しているのです。
社交的な生活は認知症になりづらい?
近年の研究で、社交的な生活が予防に極めて有効である可能性が示されています。広い交友関係や、家族・友人との頻繁な交流はリスク低下と深く関わっており、交流が盛んな人はそうでない人に比べ、発症が最大5年ほど遅れるという報告もあります。逆に「孤独」や「孤立」はリスクを高める大きな要因です。
他者との会話で記憶や言葉を使うことは、脳への良質な刺激となります。特にボランティアなどの社会参加は、貢献の喜びを感じながら脳の健康も守れる、非常に効率的な取り組みと言えます。
運動は認知症予防になる?
身体活動が認知症予防に有効そうだということは、多くの研究で裏付けられています。大規模な調査によれば、活動量が多いと発症リスクは20~40%低下し、動けば動くほどリスクが下がるという、運動量に応じた効果(量反応関係)も確認されています。
運動で血の巡りが良くなると、脳が活性化します。それによって新しい神経細胞が生まれやすくなるほか、脳のダメージとなる『炎症』を抑える効果も期待できます。また、運動習慣がある人は脳の容積が大きく、健康な状態が保たれやすいことも判明しています。
運動の種類や量に「正解」はありません。何より大切なのは継続すること。無理なく楽しめるものから始めてみましょう。
◆老年医学・緩和医療科医師・山田悠史
やまだ・ゆうじ/1983年4月2日、岐阜県生まれ。2008年、慶應義塾大学医学部卒業。日本各地の病院の総合診療科で勤務後、2015年に渡米。現在は高齢者医療を専門に診療や研究に従事。NPO法人FLATの代表理事として、在米日本人の健康を支援する活動にも力を入れている。AIと医療をつなぐ合同会社Ishifyの共同代表。マウントサイナイ医科大学老年医学・緩和医療科医師。米国老年医学・内科専門医、医学博士。近著は『最新科学が覆す 体にいいのはどっち?』(サンクチュアリ出版)。
