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連載

「3月11日、毎年母と思うこと」NO老いるLIFE~母と娘のほんわか口福日誌~第69話

 慢性膵炎の母と山口県で暮らす漫画家で栄養士の資格をもつうえだのぶさん。東日本大震災が起きた日を迎えるたびに、病を抱える母と暮らす中で、毎年あらためて思うことがあるという。あの日(2011年3月11日)の記憶をたどると――。

福岡の街で起きたこと

 本日3月11日は「東日本大震災」が発生した日です。偶然連載の公開日と重なったので、今回は私なりのあの日への想いを書かせていただきたいと思います。

 あの日私は友達と一緒に福岡の街にいました。友達を車に乗せて博多駅の近くを走っていました。お昼頃だったと思います。

 突然目の前にブルーインパルスの一隊が現れました。それはもうビックリしました。カラフルな煙をたなびかせながらぐうっと上空へ、上から下、ぐるりと旋回、突然の航空ショーに車の中で友達と大興奮です。「何!? 何!? これは何!?」

 車を停めて駅に入ると賑やかなアナウンスが聞こえ、袋に入ったグッズのようなものを配っています。周辺にはずらりと並んだポスター。そう「九州新幹線全線開業」の前日だったんです。駅全体が華やかで賑やかな空気に包まれていました。

 その後、駅の隣の家電量販店ビルで買い物をしました。しばらくして別々に買い物をしていた友達から電話がきて「今すぐテレビ売り場に来て」と言われました。

 売り場に着いたとたん、異様な雰囲気なのがわかりました。広いフロアの端から端まで山ほどテレビが並んでいるのに売り場が「静か」なのです。そして、いっぱい人がいるのに誰もしゃべっていなくて、全員が自分の目の前のテレビを凝視しているんです。

 ほとんどがコートを着たビジネスマン風の男性でした。そしてなぜかテレビの画面は全て同じでした。

 最初は何が映っているのかわかりませんでした。しばらく見つめていてヘリコプターで上空から平野のような場所を撮っているんだと気づきました。テレビの音は流れていたのかもしれませんが、その時の私の記憶に「音」はありません。売り場中が凍ったように押し黙って、恐ろしいくらい静かでした。

 突然、テレビの画面に「津波警報」の文字と日本地図が現れました。日本中が黄色い線で囲まれ「警報域」になっていました。その瞬間、催眠術が解けたように売り場にいた人達が一斉に動き始めました。携帯を手に誰かと話しながら四方八方に散っていきました。私もすぐその場で母に電話をしました。

 そして…この日の私の記憶はここまでです。その先の記憶がないんです。母とどんな話をしたのか、その日のうちに家に戻ったのかホテルに泊まったのか、帰り道の記憶も何もありません。テレビ売り場で我に返った後、昼間見たブルーインパルスと賑やかな駅の景色がぐるぐると頭の中で回り続けていたことだけは覚えています。

 その次の記憶は、テレビに映される津波の映像、地震の被害、繰り返し流される同じCMを連日延々眺めていたこと、当時お仕事をしていた編集部のかたがたと連絡を取り合ったことなどを覚えています。

似顔絵を描いて笑顔に…

 震災の後、私は色々な地元のチャリティーイベントに声をかけられ、似顔絵を描いては寄付するというようなことを続けていました。でもイベントを重ねるごとに「こんなことしかできない」「安全な場所でチャリティーをしている自分は偽善者だ」と自分を責めるようになりました。

 そんな時、知り合いの編集者から、「それはサバイバーズ・ギルト(生存者が感じる罪悪感)というもので、心的ストレスの一種だからそれ以上自分を責めてはいけない。しっかりと自分の人生を生きることが残った人間の役目だと考えましょう」と言われました。

 その時に思ったのは「じゃあ、せめて私は自分の目の前にいる人を笑顔にしよう」ということでした。

 似顔絵を描きに(描かれに)やってくるお客さんを全員笑顔で描くことにしました。緊張して仏頂面のお父さんも泣いている小さな子も、笑顔を想像して描きました。そのスタイルは15年経った今でもずっと続けています。漫画やイラストも「フッと笑ってもらえたら」と思いながら描いています。

 毎年3月11日を迎える度に「自分の人生をしっかり生きよう、生ききろう」と心に誓います。

 母が慢性膵炎を発症し手術と入退院を繰り返していた頃に、「元気なうちにおいしいものをいっぱい食べる」という人生のテーマが我が家に生まれました。

 父が亡くなって、さまざまな自然災害が起きて、母が大きな病気を抱えて…いろいろな出来事を経て現在、我が家のモットーは「元気なうちにいっぱい笑っていっぱいおいしいものを食べよう」です。

 でも今このエッセイを書いている時点で世界では大きな戦争が起こっていて、このまま世の中がおかしなことになってしまうのではないかと、とても怖くて不安です。

「元気なうちにいっぱい笑っていっぱいおいしいものを食べよう」と、明るく言える日常がどれだけ恵まれていて幸せなことか。

 今日、3月11日。

 あらためて胸に刻み、その「当たり前」の尊さをしっかり噛み締めたいと思います。

(*当時の様子などは記憶だけなので、事実と違っている箇所があるかもしれません。何卒お許しください)

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絵と文

漫画家・うえだのぶ

うえだのぶさん

 イラストレーター・漫画家。59才。山口県で83才の母とふたり暮らし。40代で地元の短大に入学し、栄養士の資格を取得。地元山口県を拠点に、漫画を利用した食育や時短調理などの栄養講座の講師なども務めている。
アメブロ:https://ameblo.jp/abareinupoti/ インスタ: https://www.instagram.com/nobuueda/?hl=ja
『読者体験!リアル迷惑人間大集合1 』Kindle版が発売中。

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