東国原英夫さん、10年の母親介護で痛感した後悔「妻子に自分の介護はさせない」と終活や生前整理を始める 高市首相の介護職に関する方針については「報酬だけではなく、働く環境などの是正も必要」
元宮崎県知事、元衆議院議員でタレントの東国原英夫さん(68歳)が、約10年にわたる母親の介護経験から得た「生前整理」の重要性と、自身がしている「終活」、また、日本の介護が抱える課題と対策について語った。
介護従業者の処遇改善が必要
――認知症だと気づいてから亡くなるまでの約10年、母親は介護状態でした。振り返ると、どんな思いがありますか?
東国原さん:ぼくは仕事で東京にいることが多く、直接介護に関わる機会が少なかったため、介護従事者の方たちと妻に感謝しかないです。今は少し介護職員の給与額も上がっていますが、10数年前は非常に低い報酬で、皆さん何件も掛け持ちでおやりになっていた。それでぼくらの相談を丁寧に聞いてくださって、天使のようだと思いました。
――2023年の武見元厚生労働大臣による介護職の6000円程度の賃上げ案について、東国原さんはSNSで「不十分だ」と発信されていました。
東国原さん:不十分ですね。介護職は全職種の平均よりも10万円以上低いので。高市(早苗)さんが所信表明で「介護従業者の処遇改善につながる補助金を措置し、効果を前倒しする」と述べておられたので、それは実現していただきたい。報酬だけではなく、働く環境などの是正も必要です。
今後はますます老老介護と認認介護が増えていく
東国原さん:今後はますます老老介護と認認介護(認知症も高齢者が、同じく認知症の高齢者を介護すること)が増えていくので、介護従事者の絶対的な人手不足が起こります。外国人を入れることもやっていますけども、近年は外国人に対して過度な排斥の風潮がありますね。これは絶対にあってはいけないと思います。
介護現場の方たちと意見交換をさせてもらっていますが、外国人はなかなか入れられないらしいです。日本語がわかる、もっと言うと方言がわかる。そして日本人と同じ技術レベルである。つまり、人材不足を外国人労働者だけで補うのは難しいということです。
そうすると、日本人の介護職の方を増やすしかない。生きがい、働く場所の環境の是正、報酬、この3つはやらないと、ますます介護離職が多くなって、経済的にもマイナスになる。介護職員の人手不足が一番の課題ですよね。
――要介護者を減らすことも、人手不足の緩和には大切なポイントですね。
東国原さん:元気で意欲のある高齢者の方たちは、できるだけ現役で社会参加をしていただきたいですね。認知症や寝たきりにならないように、予防医学のほうにも力を入れていかなきゃいけない。
元気に活動してある日コロリと亡くなることを“ピンピンコロリ”といいますが、長野県は20年以上前からピンピンコロリ運動に取り組んでいました。生涯現役で、病気や介護の期間が短ければ家族の負担は減るし、医療費削減にもなる。ただし、自己実現や尊厳、死生観は尊重しなければいけませんけどね。
家族に自分の介護をさせたくない――「終活」の準備は万全
――介護をされて、気づきはありましたか?
東国原さん:財産分与については、親が認知症になる前に整理しておけばよかったと後悔しました。銀行口座や土地、家屋といった財産を整理し、生前贈与などを済ませていれば、手続きはもっと楽だったでしょう。せめてエンディングノートでもあればよかったのですが、一般的に親へ作成を頼むと「まだそんな年ではない」「自分を殺す気か」などと反発され、かえって揉め事になるケースもあると聞きます。できれば遺言書を含めて、法的な手続きは早めにした方がいいと思います。
その反省を活かして、ぼくはもう生前整理を始めています。遺言書はまだですが、これから書く予定です。妻が20歳年下で子供もまだ8歳なのですが、妻や子供にぼくの介護をさせるつもりは一切ありません。その前に人生を終える。そう固く心に決めています。早めに遺言書なりエンディングノートなりは書こうと思います。
不要なものは既に処分したし、デジタル遺産もできるだけシンプルにしました。暗証番号も妻に伝えているので、いつ僕が不慮の事故にあっても大丈夫。しっかり話し合っているので、ぼくになにかあっても、彼女たちも準備ができていると思います。
――介護をされている方々へメッセージをお願いします。
東国原さん:介護を一人で背負い込まないでください。利用できる公的・民間サービスは、ためらわずにすべて活用するべきです。「自分が直接介護をしなければ親不孝だ」などと、ご自身を責める必要はありません。誰にでも限界はありますから、ご自身の許容範囲内で行うことをおすすめします。無理をすると共倒れになってしまう。
とはいえ、介護サービスもお金かかりますからね。親が他人に触られるのを嫌がるとか、いろんなケースがあると思うんですけれども。それでもケアマネさんと相談しながら、負担を最小限にした方がいいと思います。
◆政治評論家、タレント・東国原英夫
ひがしこくばる・ひでお/1957年9月16日、宮崎県生まれ。1980年よりビートたけしの一番弟子「そのまんま東」として、バラエティ番組を中心に活躍した。2000年早稲田大学第二文学部に入学、2004年卒業。2007年宮崎県知事就任、「どげんかせんといかん」をスローガンに宮崎ブームを牽引した。衆議院議員を経て、現在はタレント、コメンテーターとしてテレビや講演会などで幅広く活動する。
撮影/小山志麻 取材・文/小山内麗香
