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「人は必ず死ぬ。限られた余命でも、精一杯楽しく生きられたらいい」緩和ケア医・萬田緑平さん 夫を自宅で看取った倉田真由美さんが広めていきたい「在宅緩和ケア」とは 

 すい臓がんが発覚し、「余命6か月」を告げられた映画プロデューサーの叶井俊太郎さん(享年56)。闘病から看取りまでを綴った漫画家・倉田真由美さんの最新著『夫が「家で死ぬ」と決めた日 すい臓がんで「余命6か月」の夫を自宅で看取るまで』に収録された医師の萬田緑平さんとの対談から一部を抜粋してお届けする。 【全3回の第3回】

在宅緩和ケアは「死ぬ」ではなく「生きる」ための方法 

萬田:病院では「死なないように」治療を受けているから、死んでしまうと「残念な結果」とされてしまう。だけど私は、死ぬことは必ずしも「残念な結果」ではないと思うんです。 

 私は患者さんには「人はいつか必ず死ぬんだから、そこまでどうやって楽しく生きるか考えよう」と伝えています。限られた余命だとしても、その中で精一杯楽しく生きられたらいいじゃないですか。 

倉田:そうですね、夫は「痛いのは嫌だ」とは言っていたけど、「死にたくない」と言ったことは一度もない。どこかで死を受け入れていたのかもしれません。 

萬田:多くの人が「自分は平均寿命まで、もしくは平均寿命よりももう少し生きるだろう」と考えている。だけど、実際は平均寿命より長く生きられない人もたくさんいて、そういう人は「不幸」とみなされるけど、寿命の長さで幸せか不幸せかを測るものではないと思います。 

倉田:夫はいつもその時点でやりたいことを全部やっていたから、いつ死んでも後悔しない、自分の人生に満足しているというようなことは言っていました。 

萬田:自分の幸せのために人生を生きている。叶井さんはそういう生き方を自然とされていたんだと思います。死に方には、生き方があらわれると思います。 

倉田:それでも、もっと、もうちょっとでも、長く生きてほしかった…。 

萬田:早く亡くなったからといって必ずしも不幸なわけではないと思うんです。多くの人は「長生きしたい」と言うけど、どんな状態で生きていたいのかと。 

倉田:そうですね。介護施設で本人はほとんど寝たきりでわからなくなってしまった状態で、10年生きているというケースも聞きますから。 

萬田:臓器が強ければがんや病気にはならなかったとしても、脳は老いていくからいつか必ず認知症になるわけです。 

 多くの患者さんと接してきて思うのが、私自身は80歳くらいで認知症になるんじゃないかと想像するわけです。そこまで生きていたら、家族に迷惑をかけそうだから嫌だなと。もし自分にがんが判明したら、最期まで自分が納得する形で精一杯生き抜くことはできる。だから私は、常に今を、人生に悔いが残らないように生きるつもりです。 

倉田:私も数年前までは、「健康で長生き」が最終的な目標になると思っていましたけど、今は考えが変わってきました。いつ死んでもいいように生きていきたいと思っています。 

夫が選択した「在宅緩和ケア」 

萬田:叶井さんが選択された「在宅緩和ケア」について、もっと多くの人に知ってほしいと思います。緩和ケアと聞くと、緩和ケア病棟やホスピスを思い浮かべて、治療をあきらめた人がするものだと考えている人は多いのですが、そうじゃない。痛みや苦痛を和らげながら、よりよく生きるためのケアなんです。 

 医師によっては「今この状態で家に帰ったら死が早まりますよ。病院にいれば1か月はもつから」などと、退院させてくれないこともある。本人が退院を望んでいるなら、私は主治医のところに行って説得することもあります。「今日の午後に退院しますから」って医師を説得して、在宅医療の態勢を整えて家に連れて帰ってくる。 

倉田:さすが萬田先生です(笑い)。夫が「病院は絶対嫌だ」と言うのを聞いて、実はホッとしたんです。私の目の届かないところに連れて行かれるのはもう嫌でしたから。 

 夫が最期まで家にいてくれて本当によかったと何度も思います。こういう選択肢もあることを、ぜひ多くの人に知ってもらいたい。がんで余命半年と告げられても最期まで自分らしく生きた。夫が選んだ道を伝えていくこと。これは夫が遺してくれた私の使命でもあると思っています。 

萬田:「最期までよりよく生きて穏やかに逝きたい」と考える人の望みが叶う社会になるといいですよね。 

* * * 

 もしも余命を宣告されたら、あなたはどんな風に受け止め、どう生きていくだろうか?同書では、倉田真由美さんと夫・叶井俊太郎さんが選んだ「在宅緩和ケア」について、実体験をベースに具体的に解説されている。在宅医療・介護については、ぜひ元気なうちに知っておくべきだろう。 

取材・文/桜田容子 撮影/五十嵐美弥

『夫が「家で死ぬ」と決めた日 すい臓がんで「余命6か月」の夫を自宅で看取るまで』
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