「脳トレで認知症のリスクが約半分に」カナダの学会で発表
コンピューターを使った脳トレで、10年後までの認知症発症リスクが48%も下がる可能性がある―─。こんな気になる研究結果が、カナダ・トロントで開催された国際アルツハイマー病会議(AAIC)で7月24日に発表された。
研究を行ったのは、サウスフロリダ大学・老年学教授のジェリー・エドワーズ博士。NIH(米国国立衛生研究所。日本でいう厚生労働省のような機関)から資金提供を受け、65歳以上(試験開始時の平均年齢74歳)の高齢者2785人を10年間にわたって追跡調査した。これほど多くの人を対象に、長期間にわたって認知トレーニングと認知症の関連についての試験が行われたのは、アメリカでも初めてだという。
10時間のトレーニングは10年後にも有効だった!
エドワーズ博士らの研究チームは、高齢者2785人を4つのグループに分け、そのうち3グループにそれぞれ異なる内容のトレーニングを1時間ずつ週2回、5週間にわたって計10回受けてもらった。残り1グループは対照群として、何のトレーニングも受けなかった。
3グループが受けたトレーニングの内容は「記憶術トレーニング」、「論理術トレーニング」、そして「情報処理スピードトレーニング(以下、スピードトレーニング)」だ。スピードトレーニングとは、コンピューターを使って頭の回転の速さや注意力を向上させるための視覚や聴覚トレーニングを行うもの。
さらに、それぞれのグループの一部の被験者は、最初の試験から11か月後と35か月後に追加トレーニングをそれぞれ4時間ずつ受けた(つまり、トレーニング時間が10時間、14時間、18時間の人がいる)。
実験の参加者は、トレーニング期間の直前・直後と1、2、3、5、10年後に認知能力や日常生活の機能の評価を受けた。その結果、トレーニングを受けなかった人では14%が認知症を発症したのに対し、「スピードトレーニング」実施時間が10時間以下の人の認知症発症率は12.1%。11時間以上の人では認知症の発症率が8.2%に抑えられた。また、「記憶術トレーニング」、と「論理術トレーニング」を受けたグループでは、トレーニングを受けなかったグループとの明らかな差は見られなかった。
この結果に年齢や性別、健康状態などの条件を加えたうえで統計的に処理すると、「何もトレーニングをしなかった人に比べて、スピードドレーニングを11時間以上受けた人は認知症の発症が48%少なかった」とエドワーズ博士は発表した。
別の試験では、スピードトレーニングを受けた人は、自動車運転のリスクが低いことも認められている。具体的には、路上運転中の反応時間が短くなる、自己過失による自動車事故が48%減少する、クルマを運転して自由に行動できる状態を10年間維持できる、などだ。アメリカの一部の損害保険会社では、加入者に向けて「スピードトレーニングを受講すると100ドルプレゼント」といったキャンペーンを行うところもあるという。