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兄がボケました~認知症と介護と老後と「31回 映画『国宝』を観てきました」

 ライターのツガエマナミコさんの兄は認知症を患い、現在、特別養護老人ホームに入所しています。50代で発症した兄と長年、共に暮らしながら、あらゆるサポートしてきたマナミコさんでしたが、年々症状が進行する兄が巻き起こすハプニングには、ずっと翻弄されてきました。いま、マナミコさんにようやく訪れた平穏な日常、今回は、話題の映画を鑑賞してきたお話です。

 * * *

シニア割りで映画鑑賞

 60歳を超えてよかったと思うことの一つに映画館のシニア割引がございます。若い方には申し訳ございませんが、はぼ半額となる夢のようなこのご褒美を利用しないのはもったいないので、映画好きと言うわけではないツガエもしばしば映画館に足を運ぶようになりました。フラッと行って観るのが好きで、たいていは一人でございます。

 そして昨日「国宝」を鑑賞してまいりました。約3時間という長い映画でございましたが、中だるみどころか、集中を切りたくても切れないくらいの画力と演技力に圧倒されました。吉沢亮さまと横浜流星さまが主役を演じていらっしゃるので、よくあるイケメンの女子向け映画かと思いきや、歌舞伎の女形として切磋琢磨する2人の主人公を、鬼気迫る表現力で魅せてくれました。まず驚いたのは舞台のシーンでございます。全体の多くの割合を占めているのに、そのすべてを彼らが実際に踊っていて、発声からなにから歌舞伎の演目として見ごたえのある美しい作品に仕上がっておりました。「よくぞここまで努力したな」と、素人ながら感動いたした次第です。特に吉沢亮さま。こんなに彼の演技に引き込まれるとは思いませんでした。

 渡辺謙さま、田中泯さま、寺島しのぶさまという大御所が見事に主役を引き立て、厚みと重みをプラス。さらに物語の伏線回収も痛烈な、がっしり骨太な作品でございました。

 よくあるイケメンの女子向け映画かと思っていたのに観に行こうと思ったのは、監督が「フラガール」や「悪人」の季相日(イ・サンイル)監督さまだと知ったからでございます。どちらも好きな映画だったので「いい作品だろう」と思った通り、今回もまんまと術中にはまりました。お隣の女性もおひとりさまで、中盤から泣きっぱなしのご様子でした。もちろんわたくしも感涙。シニア割引で拝見したことが申し訳ない気持ちになりました。

 子どもの頃は、亡き母に連れられてよく歌舞伎座を訪れたものでございます。母は日本舞踊をたしなんでおりましたので家でもテレビで歌舞伎や日舞の番組を観ておりました。母の腕前は素人に毛が生えた程度なのに、いつでも上から目線でちょっとした間の悪さや角度の違いにケチをつけておりましたっけ。映画で彼らの舞うシーンを見ている間、そんな母の口調が思い出されて懐かしい気持ちにもなりました。

 3時間の長さは感じませんでしたが、知らず知らず体に力が入っていたようで、終わって立ち上がったときには膝が痛くて驚きました。ふと見れば数人が階段でよろめいておりまして、わたくしだけじゃないと安心いたしましたが……。

 さて、今週も兄は無事でございました。テレビのある広間の所定のテーブルで、ほかの方と並んでいるいつもの兄に「ヤッホー、来たよ、お兄ちゃん」と声をかけると、開口一番「何してるの?」と怖い顔をされ、ご機嫌ナナメなことがすぐにわかりました。スタッフの方が「お部屋行きましょうか」と車いすを移動してくださいましたが、お部屋に行ってもとっつきにくいツンデレのツンツンでございました。

 何度も「何しに来た?」「違うよ」「やってないよ」という兄に「そうだね、やってないよね」「違うよね」とわたくしも応戦。「やってないのは知ってるよ」「違っててもいいんだよ~」と言うと「何言ってんだよ、もう、ばかか」と兄の方が匙を投げる感じでございました。それでも手を取って歌を歌い始めると、急に表情が変わり、ニコニコしてリズムに合わせて首を動かして、なんと、童謡「あめふり」のピチピチ、チャプチャプ、ランランラン部分を全部口パクしてくれました。機嫌が良くなってくれたと思ってほっとしたのもつかの間、しばらくするとまた急に表情が変わってつないだ手を放して「なんだよ」とツンツン。この日は5分置きぐらいに機嫌が変わる感じで、素人目には薬の影響なのかなという印象を持ちました。

 兄が若年性認知症と診断されたのは2015年。早いもので今年は10年目となります。ツンツンされてもいいのです。来週はどんなツンデレを見せてくれるのか「楽しみ」にしたいと思います。

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文/ツガエマナミコ

職業ライター。女性62才。両親と独身の兄妹が、2012年にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現66才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。2024年夏から特別養護老人ホームに入所。

イラスト/なとみみわ

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