倉田真由美さん「すい臓がんの夫と余命宣告後の日常」Vol.77「父ちゃんとママの夫婦関係」
漫画家の倉田真由美さんは、夫で映画プロデューサーの叶井俊太郎さん(享年56)と連れ添って15年、喧嘩をすることもなく相性のいい夫婦だったと語る。とはいえ、いわゆる「おしどり夫婦」とは違うという。倉田さんが考える夫婦の関係性とは。
私たち夫婦の関係性
夫の生前、私は夫のことを褒めたり惚気たりということはほとんどしたことがありません。
喧嘩にならない相性だったし仲がよかったのは事実ですが、私と夫はいわゆる「男と女」という関係性からは程遠いものでした。私たちは「父ちゃんとママ」でした。
夫が病気になりさまざまな情報媒体で私たちのことが扱われるようになると、「素敵なご夫婦ですね」などと言われることがありましたが、私はどうもそれにはむずむずと面映いというか、素直に受け止められない気持ちが湧きます。「男と女を維持した夫婦」ではないからです。
もちろん、最初は私たちも恋愛からスタートしています。でも子供が産まれて程なく、そういう雰囲気は雲散霧消しました。以来ずっと、「父ちゃんとママ」です。
よく、妻が夫に「私はあなたのお母さんじゃない、ママとかお母さんとか呼ばないで!」と怒る話を聞きますが、私は真逆でした。
10年以上前のこと
10年以上前ですが、取材だか何かで夫婦揃って誰かと話していた時、夫が私を指して「真由美が…」と言ったことがありました。いつもは「ママ」なのに。私はそれをすんなり流せなくて、「真由美じゃないでしょ、ママでしょ」と強めに訂正したのを覚えています。
夫にとって私は実のお母さんとは違う「ママ」であり、私にとって夫は「父ちゃん」です。おしゃれ雑誌で見るような、週に一度子どもを預けて二人でデートしたりお互いだらしない姿を見せ合わない、若い人が憧れるような夫婦像とはまったく違います。
でも、確かに仲はよかった。夫が私をまったく女扱いしないことにも腹は立たなかったし、それが自然でした。
私は結婚して一度しか夫にプレゼントをもらったことはないけど(もらったことがある唯一のものは子供が喜びそうな卓上流しそうめん器)、そのことに不平不満など全然ありません。
ちなみに婚約指輪も結婚指輪ももらっていませんが、それも何とも思っておらず、ちょっとした笑い話にしているくらいです。
夫婦の形はそれぞれですが、うちはこうでした。多くの人がイメージする「おしどり夫婦」とはかなり違う関係性であったことは、誤解されるとしんどいな、と思うところです。