『AirPods』は補聴器として使える?補聴器業界の注目トピックス<2024年振り返り>【専門家が教える難聴対策Vol.16】
「2024年は補聴器のAI競争が進みました。そしてAppleのワイヤレスイヤホンの補聴器のように使える付加機能が注目を集めた年でもありました」とは、認定補聴器技能者で補聴器専門店の代表を務める田中智子さん。今年の補聴器業界のトピックスを振り返りながら、2025年の新たな提案をお届けします。
教えてくれた人
認定補聴器技能者・田中智子さん
うぐいす補聴器代表。大手補聴器メーカー在籍中に経営学修士(MBA)を取得。訪問診療を行うクリニックの事務長を務めた後、主要メーカーの補聴器を試せる補聴器専門店・うぐいす補聴器を開業。講演会や執筆なども手がける。https://uguisu.co.jp/
補聴器の進化が勢いを増した1年
今年も残りわずかとなりました。そこで、1年を振り返りながら、補聴器業界の気になるトピックスを紹介していきたいと思います。
補聴器の性能は日進月歩。その歩みは勢いを増しています。高齢化とともに補聴器のニーズが高まっているためか、補聴器の機能の進化はもちろんですが、スピーカーやイヤホンなど、オーディオ機器にも広がりを見せています。
『AirPods Pro2』が補聴器に!?
今年の補聴器業界を震撼させたのは、Appleのワイヤレスイヤホン『AirPods Pro2』(エアポッズ プロ2、以下『AirPods』)に補聴器のような機能が追加されたこと。2024年の9月、聴力の健康をサポートする「ヒアリング補助機能」が新たに追加されました。
この機能の最大の特徴は、ユーザーの聴力を『AirPods』とアプリを使ってチェックし、聞こえていない音を増幅して耳に届けるというもの。チェックのやり方もとても簡単で、ワイヤレスイヤホンを耳に着けて音が聞こえたら、アプリの画面をタッチするだけです。聴力の結果が画面に表示され、気軽に聴力のチェックもできるのです。
なお、米国ではFDA(日本の厚生労働省のような機関)が認める医療機器として承認されています。ちなみに日本では、補聴器は、管理医療機器として厚生労働省が認めていますが、『AirPods』については、アプリのみが管理医療機器として承認されています。
この機能で定期的に聞こえのチェックをしておけば、急に聴力が落ちたとか1年前と比べて落ちているなどと、ご自身で聴力の変化を知ることができ、耳鼻咽喉科を受診する目安にもなります。
さらに、大きすぎる音が入るのを抑えてくれる機能など、耳を守るための工夫もされており、軽度~軽めの中等度難聴のかたにはとてもいい製品だと感じています。補聴器の未来を大きく切り拓く画期的なアイテムともいえるでしょう。
実際、補聴器のかわりになるか?
一方で、本格的に補聴器の代わりとして使うには、バッテリーの駆動時間が心もとないともいえます。一般的な補聴器は、バッテリーが18~24時間は持ちますが、『AirPods』のバッテリーは最長で6時間とされているので、本格的に補聴器として使うにはまだ実用的ではないかもしれません。
しかし、何よりこの『AirPods』のヒアリング補助機能により、気軽に耳の健康に興味を持つ人が増え、耳にイヤホンを入れて音を聞く・会話をするということに抵抗がなくなることが広がっていくことを期待しています。
補聴器の最新トレンドは”AI” 各社の「ここがスゴイ!」
補聴器の最新トレンドは、なんといっても「AI」です。車の自動運転でも使われるような高度な処理をするAIを小さな本体に搭載した補聴器が、各メーカーから続々と発売されるようになりました。メーカーによってAIの活用の仕方も異なるので、気になる3社のAIの特徴をピックアップしてみます。
オーティコン
デンマークの補聴器メーカー、オーティコンが2024年に発売した『オーティコン インテント』は、第2世代の高度なAI「ディープニューラルネットワーク2.0(DNN2.0)」を搭載。あらゆるシーンで快適に聞こえるように自動で音を調整し、細部までより明瞭に、バランスよく音の情景の全体像を届けるというものです。
さらに、独自の「じぶんセンサー」(4Dセンサー)により、補聴器ユーザーの頭や身体の動き、会話活動、音環境を感知します。たとえば、狭い会場で、前にいる人の話を聞きたいのに、近くにいる後ろの別の人の声を補聴器が拾ってしまい、話が聞き取りにくいといったことが解消されるでしょう。「聞きたい」と思っている会話を、脳に届けてくれるので、聞きたい会話をより聞こえるようにしてくれます。
オーティコン『オーティコン インテント』
オープン価格
https://www.oticon.co.jp/professionals/products/hearing-aids/intent
スターキー
アメリカの補聴器メーカー、スターキー社の補聴器に搭載されたAI技術は、「聞こえる」というだけでなく、「意識する」「集中する」「遮断する」「選別する」といった、私たちが無意識に行なっている「聴覚機能」までも自動調整してくれます。
これまで補聴器専門店で「こんな場所でこんな時に聞こえづらかった」などと話しながら何度も足を運んで調整していたものが、聞こえづらい場面で補聴器をトントンとタップするだけで、AIによって瞬時に判断・調整できるというものです。
スターキー『Genesis AI(ジェネシスエーアイ)』
価格:片耳31万円~
https://www.starkeyjp.com/pressrelease/2024/02/genesis-ai
フォナック
スイスの補聴器メーカー、フォナックでは、2025年1月発売予定の補聴器に最新のAI技術を搭載。2つのチップを搭載し、1つのチップではこれまでよりさらに高度な処理をしつつ、もう1つの新たに搭載されたチップで、「言葉」と「雑音」をAIが瞬時に選別。これまで以上に快適に言葉が聞こえるようにしてくれます。
これまで、ガヤガヤした喫茶店にいるときは雑音全体を「抑制」することはできました。しかし、この新しい補聴器では新たに「音声」と「雑音」をAIで分離し、雑音だけを「除去」することで、騒がしい中でも全方向からの言葉がクリアになり、ラクに会話ができるようになるとのことです。
『フォナック オーデオ インフィニオ スフィア』
価格:片耳51万2000円~
https://www.phonak.com/ja-jp/hearing-devices/hearing-aids/audeo-sphere
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AIの進化によって、補聴器はユーザー一人ひとりに寄り添えるようになっています。これまでのように数パターンのシーン設定ではなく、その場面によって適切な音、聞こえ方を自動で調整できる。つまり、まさに今、あなたがいる場所での会話がよりよく聞こえるというわけです。
2025年もAIによる補聴器の進化は進み、さらに高価格帯以外にも、AIを搭載する機器の幅が広がっていくのではないでしょうか。