補聴器はどこでどうやって買うの?補聴器専門店って何をするところ?【専門家が教える難聴対策Vol.6】
聞こえにくい悩みをもつ人にとって頼りになるアイテムのひとつとなる「補聴器」。しかし、一体どこで売っているの? そんな疑問を感じている人も多いのではないでしょうか。補聴器はどこでどうやって購入すべきなのか? 補聴器専門店とはどんなところなのか? 今さら人に聞けない素朴な疑問を、認定補聴器技能者で自らも補聴器専門店の代表を務める田中智子さんに応えていただきました。
教えてくれた人
認定補聴器技能者・田中智子さん
うぐいす補聴器代表。大手補聴器メーカー在籍中に経営学修士(MBA) を取得。訪問診療を行うクリニックの事務長を務めた後、主要メーカーの補聴器を試せる補聴器専門店・うぐいす補聴器を開業。講演会や執筆なども手がける。https://uguisu.co.jp/
Q.補聴器を購入するにはどうすればいいの?
A.まずは耳鼻咽喉科を受診、専門店へ
「聞こえにくいな」と感じたら、補聴器の購入を検討するかたもいらっしゃると思います。いきなり補聴器を購入するのではなく、まずは耳鼻咽喉科で診断を受けることをおすすめします。
聞こえにくい問題が、補聴器で解決できること以外に、病気が隠れているということもあるからです。なので、まずは耳鼻咽喉科を受診し、ご自身の耳や聞こえの状態を検査してから、補聴器の販売店で購入するのが一般的な流れになります。
なお、耳の疾患や耳鳴りなどご自身で気になる症状が特にない場合には、耳鼻咽喉科を受診せずに、補聴器専門店にお越しいただいても大丈夫です。
お店にお越しいただいたら、まず聞こえに関する悩みなどを聞かせていただいたあと、耳の手術の経験や耳鳴りなどの耳に関する確認事項をチェックしていきます。そして耳の中の状態をチェックして問題がなければ、ヘッドホンを使った聴力測定へと移ります。しかし、さまざまな項目をチェックしていく中で、先に耳鼻咽喉科を受診した方が良いということになれば、やはり受診をおすすめしています。
なお、事前に耳鼻咽喉科で聴力検査を受けて結果をお持ちいただければ、お店での聴力測定は省略となります。
補聴器を購入→慣れるまでの流れ
・パターン1
耳鼻咽喉科を受診・聴力検査 → 検査結果を持って補聴器専門店へ → お悩みをヒアリング →気になる補聴器をお試し → 聞こえの調整 → 購入 → 調整 → メンテナンス
・パターン2
補聴器専門店へ →お悩みをヒアリング→ 聴力測定(問題があれば耳鼻咽喉科と連携) → 気になる補聴器をお試し → 聞こえの調整 → 購入 → 調整 → メンテナンス
Q.補聴器はどこで売っているの?
A.補聴器専門店や眼鏡店、百貨店でも扱っています
補聴器を専門に扱う補聴器専門店のほか、眼鏡店やデパートなどでも補聴器を扱っています。
補聴器専門店
補聴器専門店では、その名の通り、補聴器だけに特化している専門店なので、スタッフの知識や設備などの面で非常に専門性が高いと言えます。補聴器について知り尽くしているので、補聴器をつける方の生活を詳しくヒアリングして、価格と機能のバランスがとれた適切な補聴器を提案してもらえます。
なお、補聴器を扱う専門店の中でも、全国唯一の福祉用具に関するナショナルセンターである「公益財団法人テクノエイド協会」から認定された「認定補聴器専門店」もあります。
「認定補聴器技能者」が常勤していること、補聴器の調整のための設備や器具の設置・整備など、さまざまな要件を満たしていることが要件となっています。
「認定補聴器専門店」は、現在全国に1000店舗弱と、まだまだ少ないのが現状です。近くて通いやすい、親身になってくれる認定補聴器技能者がいるなど、認定店にこだわらず自分に合う「補聴器専門店」を探してほしいと思います。
眼鏡店
眼鏡店には、補聴器販売コーナーが設けられていることがあります。眼鏡の購入や点検で大手メガネチェーンを訪れたとき、「一緒に補聴器も試してみませんか?」と声をかけられたことがあるかたもいるかもしれません。
普段から眼鏡の購入や調整等で面識のある店員さんであれば、ご自身の生活についてもすでに知っていて馴染みがあるのであれば、補聴器の相談も気軽にしやすいでしょう。眼鏡店は店舗数も多いので、「近所にあって通いやすい」というメリットがあります。
しかし、補聴器メーカーの取り扱いが1~2種類に限られてしまう、聴力測定や補聴器の調整にかかわる設備や専門スタッフが充実していないケースなどのデメリットもあります。
百貨店やデパート
百貨店やデパートの場合には、静かで落ち着いた空間で補聴器を検討・購入することができ、質の高い接客が受けられるメリットがあります。
一方で、百貨店も、眼鏡店と同様のデメリットがあります。
試したい補聴器が決まっている場合や、質の高い接客を受けたい場合には適していると言えます。
このほか、家電量販店などでも取り扱っている場合があります。
Q.「認定補聴器技能者」って何をする人?
A.厳しい条件のもと、公的機関から認定を受けている、いわば「補聴器の専門家」
認定補聴器技能者とは、公益財団法人テクノエイド協会から、厳しい条件のもと、基準以上の知識や技能を持つことを認定して付与される資格を持った人のことです。資格取得後も5年おきに講習を受け資格を更新する必要があるので、常に新しい情報や適切な知識をアップデートしています。令和5年度時点で、4836名の認定補聴器技能者がいます。
Q.「補聴器専門店」って入りにくそう。買わないかもしれないけど入っていいの?
A.一見さんでも大丈夫、気軽に訪れて!
専門店と聞くと敷居が高く感じられて、入りづらいと思うかたもいるかもしれませんが、気軽に来ていただいて大丈夫ですよ。私は東京・池袋で店舗を持っているのですが、明るくて入りやすいお店つくりを心がけています。そういう店舗は全国に増えていると思います。
まだ耳鼻咽喉科を受診していないという場合でも、新しい補聴器を見てみたいということでも、ご来店いただくのは歓迎という店舗がほとんどだと思います。
家の近所だからという理由でもOKですよ。補聴器専門店は、耳鼻咽喉科医と連携していますので、お近くの信頼できる耳鼻咽喉科を紹介してもらうこともできます。
Q.補聴器専門店ではどんなことをするの?
A.日常生活での聞こえの悩みのご相談や、補聴器購入をサポートします
補聴器専門店は、お客様が聴こえに悩まれている情報をもとに、どんな補聴器が合っているか一緒に選んでいく場所です。補聴器を選ぶところから、お試し期間、購入後のアフターフォローまで、何度か通っていただきながら、一緒に最適な補聴器と聞こえの状態を目指していきます。
まず、最初にお伺いするのが、ご自身やご家族が聞こえに関してどんなことに悩んでいるのかということ。日常生活で感じているお悩みに沿って、補聴器を提案させていただきます。どの店舗でも同じかと思いますが、初回はとくにゆっくりお話を聞かせていきたいので、事前に予約をしておくことをおすすめします。
Q.補聴器専門店では何を話せばいいの?
A.ご自身の悩みをリストアップしてみて
補聴器を購入するか悩んでいる場合、「どんな場面で困っているのか」を具体的にお話していただけると、ご自身にあった補聴器を選びやすくなります。
聞こえに関するお困りごと(一例)
・家の中で聞きにくい
・仕事中に困っている
・何人くらいの会話で聞こえにくいのか?
・電話の会話が聞き取りにくい
・テレビ(音量はどのくらい)で聞きづらい
・騒がしい場所で会話(アナウンス)が聞きづらい など
このように具体的な聞こえに関するお困りごとを事前に洗い出しておくことが補聴器選びをスムーズに進めるポイントです。
お困りごとを洗い出したうえで、次に「目立たない方がいいから小型の耳あながいい」とか「汗をかきやすいから防水タイプ」といった自分に合った補聴器の性能やスタイルの絞り込みをしていきます。
Q.補聴器専門店ではいろんな補聴器を試せるの?
A.実際に装着してお試しいただけます
お客様の聴力の測定データやご要望をもとに 、ご要望や聞こえに合わせた補聴器を体験していただきます。
補聴器を選ぶには、【1】聴力測定の結果、【2】ライフスタイル(本人の要望)。この2点を鑑みて提案していきます。
【1】は、お客さん側では分からないので、医師から指示をもらったり、補聴器専門店側で判断することになります。
【2】は、お客さんからどんどん要望をだしてもらって、その要望をもとに、補聴器専門店でふさわしいものを提案させていただくという流れです。
この2つを両立させながら、いかにその人に合う補聴器をいかに提案できるかは、販売員の力量といえるのではないかと思います。
ご提案させていただいた補聴器を、着けてみていろんな感想を聞かせていただきながら、実際に試していただきます。
Q.補聴器専門店にはどのくらい通わなければならないの?
A.ベストな聞こえになるまで平均2~3か月間くらいかかります
選んだ補聴器は、ご自身の日常生活で慣れる必要があります。運転免許を取るときに、教習所の所内から路上教習へと進むようなイメージです。
多くの補聴器専門店では、1~2週間程度貸し出ししてお試しいただく期間を設けています。
「お店の中ではよく聞こえたけど、お店を出て、デパートの地下で買い物をしたが店員さんとの会話が分からなかった」「お嫁さんの話はよく聞こえてよかったけど、息子の話は聞き取れなかった」など、実際の生活の中で使っていただいた感想をフィードバックいただくことで、ご自身に合う聞こえを探っていきます。
また、補聴器は買ったら終わりではなく、細やかな調整を繰り返しながら、生活に合う最適な音を作り上げていきます。それには、だいたい2~3か月程度かかります。だんだんフィットして、聞こえるようになる楽しさを一緒に歩んでいけたらいいなと思います。
さらに、購入後にはメンテナンスなどのアフターフォローのためにご来店いただくこともあります。補聴器を通じて長いお付き合いになるだけに、ぜひお客様のお悩みに親身に耳を傾けるスタッフがいる店舗を見つけて欲しいと思います。
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私自身、お客様の補聴器選びを通して実感するのは、補聴器には人生を変える力があるということ。聞こえが改善されることで人生がより輝く瞬間に立ち会えるのは嬉しいものです。
★うぐいす智子先生のワインポイントアドバイス!
補聴器専門店は、聞こえに困っている人のためのお悩み相談所 でもあります。ご自身の想いや悩みをどんどんぶつけて、いい補聴器選びをしてほしいですね
取材・文/立花加久 イラスト/奥川りな