「在職老齢年金」制度の見直しで高齢者の働き方はどうなる?気になる<50万円の壁>をFPが解説
年齢を重ねてもまだまだ働ける元気なシニアも増え、定年後も働いている人は多いだろう。そんな中、働きながら年金を受け取る「在職老齢年金」制度の見直しが検討されている。「50万円の壁」とも言われる現行の制度だが、いったいどんなものなのか、ファイナンシャルプランナーで行政書士の河村修一さんに解説いただいた。
この記事を執筆した専門家
河村修一さん/ファイナンシャルプランナー・行政書士
CFP(R)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、行政書士、認知症サポーター。兵庫県立神戸商科大学卒業後、内外資系の生命保険会社に勤務。親の遠距離介護の経験をいかし、2011年に介護者専門の事務所を設立。2018年東京・杉並区に「カワムラ行政書士事務所」を開業し、介護から相続手続きまでワンストップで対応。多くのメディアや講演会などで活躍する。https://www.kawamura-fp.com/
在職老齢年金制度の3つの見直し案
厚生労働省は、2024年11月25日に「在職老齢年金」について3つの見直し案を提示しました。在職老齢年金とは、年金の受給対象(60才以上)が、会社などで働いて賃金をもらいながら受け取れる老齢厚生年金のことです。
現在の制度では、給与※と年金額の合計が月額50万円を超えると、年金の一部または全部が支給停止(減額)となります。この在職老齢年金制度が、高齢者の働き控えや中小企業の人手不足の要因になるとも言われています。詳しく解説していきましょう。
※在職老齢年金の計算の対象となる給与=1か月あたりの賞与額(1年間の賞与を12で割った金額)を含む。また、税金等を控除する前の額で計算される(日本年金機構「働きながら年金を受給する方へ」より)。
https://www.nenkin.go.jp/tokusetsu/zairou.html
在職老齢年金の見直しにより、支給停止の基準額の廃止や引上げにより、働く高齢者の年金は増える一方、将来世代の給付水準が低下することが懸念されます。
厚生労働省の試算によると、在職老齢年金制度を撤廃すると年金の支給額は約4,500億円増加し、年金支給額が増えるのは、71万円に引上げると2900億、62万円に引上げると1600億円増えることになります。増えた年金の財源をどのように調達するのかも問題視されています。
「50万円の壁」で高齢者の働き控えも?
在職老齢年金制度は、給与(賞与含む)と老齢厚生年金の合計額によってもらえる年金が減る仕組みです。厚生労働省によると、支給停止対象者数は、在職受給権者のうち約16%にあたる約50万人となっています。
令和5年11月2日~12月10日の間に行われた「生活設計と年金に関する世論調査」(内閣府世論調査)では、60代後半の3割強の人が、「厚生年金を受け取る年齢になったときの働き方」の問いに対し、「年金額が減らないように、就業時間を調整しながら会社などで働く」と回答しています。
現行では、給与と年金の合計額が50万円を超えると、年金が一部または全額支給停止になるため、高齢者の就業意欲を削ぎ、働き控えにつながってしまうという訳です。このことから「50万円の壁」とも呼ばれています。
支給停止額の対象になるのは老齢厚生年金
支給停止額の対象になるのは、老齢厚生年金(報酬比例部分のみ)であり、経過的加算額や老齢基礎年金は支給停止になりません。
また、加給年金額※については、報酬比例部分の全部が支給停止されている場合は、全額支給停止になります。なお、在職老齢年金は、あくまでも厚生年金の加入者が対象です。自営業者や定年退職後同じ会社で業務委託などに切り替えて働く場合は対象にはなりません。
※加給年金額/厚生年金の被保険者が65才になった時点で配偶者や子どもなどを扶養している場合、老齢厚生年金に付加されて支給される年金。
在職老齢年金制度の見直しによる高齢者への影響は?【まとめ】
在職老齢年金制度の支給停止の基準額の引上げにより、高齢者の働き控えなどを解消することができる一方、年金支給額の増加による将来世代の給付水準の低下が課題となります。
また、同日に厚生年金の標準報酬月額の上限の引上げ案も示されており、課題を踏まえた様々な角度からの議論が必要ではないでしょうか。
参考/
厚生労働省 年金局「第21回社会保障審議会年金部会資料2 2024年11月25日」
https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001337884.pdf
厚生労働省 年金局「第21回社会保障審議会年金部会資料3 2024年11月25日」
https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001337885.pdf
内閣府「生活設計と年金に関する世論調査(令和5年11月調査)」
https://survey.gov-online.go.jp/r05/r05-nenkin/#T2
日本年金機構「在職老齢年金の計算方法」
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/seido/roureinenkin/zaishoku/20150401-01.html#cms01
老齢厚生年金の受給要件・支給開始時期・年金額 日本年金機構
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/seido/roureinenkin/jukyu-yoken/20140421-01.html#cms03