「今の自分に合った補聴器で飛行機の旅が快適になった」70代女性の実例【専門家が教える難聴対策Vol.5】
「聞こえにくい」悩みをもつ人にとって、実は電車や飛行機など乗り物の騒音がある中では、会話がより聞きとりにくくなってしまうケースも。補聴器をつけたとしても同様に、種類によっては騒音を拾ってしまい不快な場合もあるという。飛行機の旅で困っていた女性の実例をもとに、補聴器活用までのステップを紹介する。
教えてくれた人
認定補聴器技能者・田中智子さん
うぐいす補聴器代表。大手補聴器メーカー在籍中に経営学修士(MBA) を取得。訪問診療を行うクリニックの事務長を務めた後、主要メーカーの補聴器を試せる補聴器専門店・うぐいす補聴器を開業。講演会や執筆なども手がける。https://uguisu.co.jp/
旅と補聴器にまつわるエピソード
シニア世代には「旅行」が趣味のかたも多いのではないでしょうか。観光庁でも高齢者の旅行需要を喚起する目的で、ユニバーサルツーリズムを推進しています。
ユニバーサルツーリズムとは、高齢や障がい等の有無にかかわらず、すべての人が安心して楽しめる旅行を指すという取り組みで、観光施設のバリアフリー化も進められています。年齢を重ねて体の衰えを感じたとしても、旅を楽しめるというのは生きる希望になるのではないでしょうか。
しかし、「聞こえにくい」という悩みがある場合、旅行で少し困ったことに直面することがあります。
補聴器専門店にいらっしゃるシニア世代のお客さまの中にも、旅行が好きなかたがいらっしゃいますが、実は飛行機などの乗り物には、補聴器のご利用者さんにとってちょっとやっかいな問題が起こるケースがあります。
機内はエンジン音や振動音などの騒音でただでさえ会話が聞こえにくいもの。補聴器をつけたとしてもこうした騒音や雑音が気になって、機内アナウンスもよく聞き取れないという困ったケースも…。
そこで今回は、旅行が趣味のアクティブシニアの女性と補聴器にまつわるエピソードをご紹介したいと思います。
70代女性の相談実例「飛行機で会話が聞こえにくい」
「新しく補聴器を買い替えたいんです」
70代前半の女性、Aさんが来店されました。お話をしていると、旅行や麻雀が趣味で活動的なご様子が伝わってきます。
詳しく伺ってみると、6~7年前に近くの補聴器店で耳穴にすっぽりと収まる、耳穴式の補聴器(両耳)を購入。しかし、しばらくすると、左耳の補聴器がビービーとうるさく鳴り、耳の穴にもはまりにくくなってしまったそう。調整しても結局改善されなかったので、買い替えを決意されたとのこと。
以前はすすめられるがままに比較することもなく購入。なので今回はしっかりと調べて自分が納得したものを購入したいというお気持ちをお持ちでした。
どの場面で補聴器をどう使うか?
Aさんには、ご要望通り、いろんなメーカーの補聴器を聴き比べていただきました。今まで使っていた補聴器の音にも慣れているので、そのメーカーの最新機種もいいかもしれないと迷われいるご様子でした。
どのような場面でお使いになるのかを改めてお聞きしたところ、3か月に1度は旅行に行く、旅先でもたくさんの人たちとお話もしたいから、なるべく言葉の聞き取りが良い補聴器とがいいということでした。
そこで、Aさんの生活スタイルに合いそうなある海外のメーカーの器種をこちらからご提案し、まずは1週間お試しいただくこととなりました。
Aさんのように、「自分はどういうシーンで困っているか」「こういう生活をしているが、この場面での困りごとを解決したい」「今回はいろいろ比較して決めたい」など、具体的に自分が求めていることがはっきりしていると、合う補聴器が見つけやすくなります。さらに、購入後の満足度も高くなるケースも多いんですよ。
逆に、補聴器メーカーのことや、補聴器自体について事前にたくさん調べる必要はないと思っています。
数百種類ある補聴器の選定は専門家に任せて、ご自身のことをたくさん教えていただくことが、合う補聴器を見つける最短ルートです。
例えば、冷蔵庫を買うときに、家電量販店に行ったら、どういう風に選びますか?
もちろん、冷蔵庫のことを知り尽くして、この機種がいい!という選び方もあると思いますが、
「自分はひとり暮らしなので、あまり大きなサイズでなくていい」「お取り寄せが好きだから冷凍庫の収納が大きい方がいいな」などの要望を伝えれば、店員さんが、「それだったらこの機種がおすすめ」とか、「冷凍庫のスペースは一番大きいのはこれ!しかも今、商品の切り替え時期で、去年出たばかりのモデルだけど値下げしてるよ」などと、店員さんしか知らない情報も含めて、おすすめしてくれると思います。
補聴器も同じです。つける方の聴力や生活スタイルに合わせて最適な1器種を選びますので、補聴器をつけてどんな生活になりたいか?を販売店にどんどんお伝えすることをおすすめします。
1週間後の変化「具体的な感想で補聴器選びがスムーズに」
ご提案した補聴器を1週間ほど使っていただいた結果、Aさんは、1日に補聴器をつけていた時間が平均時間が15時間30分であること、左は入れにくいし抜けやすいことがわかりました。
さらに、ボリュームボタンをよく使うことや、充電式は安心して1日使用できること、5人グループでの会話は良く聞こえたとのこと。
映画館では音量を下げ、電車の中ではボリューム調整することで音がクリアになり、ご自宅での装着はほとんど問題がなかったこともわかってきました。
このように、Aさんの生活スタイルと補聴器との相性、機能や問題点など、とても具体的に感想をいただくことができました。
さらに、別の器種もお試しいただき、2週間後には最初にお試しいただいた海外メーカーの補聴器を購入されました。入れづらかった左側は、耳に入れる部分の形状を変更することで装着も問題なくできるようになりました。
飛行機の中で会話を楽しめるようになった
Aさんは補聴器を使用して1か月たった頃には、すっかり日々の生活で使うことにも慣れたご様子。
そして、念願だった、飛行機に乗っての旅では、石垣島を堪能されたとか。石垣島のお土産、パイナップルケーキを持参してくださり、嬉しそうに報告してくださいました。
以前は、飛行機の騒音が気になって補聴器を外していたそう。どうせ会話もしないからと、本を読んで過ごしていたとか。最新の補聴器にしたところ、会話がクリアに聞こえるようになったそうです。これは、新たな補聴器に雑音が適切にカットされる機能が備わっていたからです。
CAさんとの言葉もよく聞こえるようになり、お友達と旅先での行程を話し合えるようにもなり、機内での時間がとても楽しい時間に変化したんだそうです。
夫と同じテレビの音量でも聞こえるように
旅もそうですが、新たな補聴器で実感したのがご主人と過ごす時間の変化だそう。テレビを視聴するときには、補聴器の本体ボタンを押してテレビモードというプログラムに切り替え、「夫と同じ音量でもテレビの音が聞きとれるようになり、夫に話しかけられたとき、聞き返すことが格段に減って気がラクになった」とおっしゃっていたのも印象的でした。
また、最新の補聴器はスマホのアプリと連動して使うことができるのですが、Aさんはもちろんアプリも使いこなしていらっしゃいます。
夫婦で食事にお出かけになったとき、少し騒がしい場所だった場合は、スマホで左右の音量バーで調節して、旦那さんがいる側の音を大きくして反対側は下げることで会話がしやすくなったといいます。
Aさんのようにご自身に合った補聴器を活用することで、人生をよりアクティブに、より楽しい時間に変えることができるんです。
★うぐいす智子先生のワインポイントアドバイス!
補聴器選びや調整に積極的な人は慣れるまでも早いもの。どんな聞こえ方を求めているかどんどん伝えて調整をしたもらうことで自分に合った補聴器がみつかるはず。マイベスト補聴器で人生はより楽しめますよ!
取材・文/立花加久 イラスト/奥川りな
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