倉田真由美さん「すい臓がんの夫と余命宣告後の日常」Vol.20「がん患者の身内として伝えたいこと」
今年2月にすい臓がんにより旅立った映画プロデューサー・叶井俊太郎さん。妻の倉田真由美さんが夫の闘病中に頼りにしていた情報や本のこと、「好きなものを食べたい」と夫が選んだ治療について振り返る。
執筆・イラスト/倉田真由美さん
漫画家。2児の母。“くらたま”の愛称で多くのメディアでコメンテーターとしても活躍中。一橋大学卒業後『だめんず・うぉ~か~』で脚光を浴び、多くの雑誌やメディアで漫画やエッセイを手がける。お笑い芸人マッハスピード豪速球のさかまきさん原作の介護がテーマの漫画『お尻ふきます!!』(KADOKAWA)ほか著書多数。
夫の叶井俊太郎さんとのエピソードを描いたコミック『夫のすい臓がんが判明するまで: すい臓がんになった夫との暮らし Kindle版』 『夫の日常 食べ物編【1】: すい臓がんになった夫との暮らし』は現在Amazonで無料で公開中。
「夫の闘病中にブログや本を暗記するほど読んだ」
このコラムを始めたのは今年1月、今振り返れば夫が亡くなるほんの1か月前です。すい臓がん患者の身内として伝えたいことはたくさんあるのに、リアルタイムで書けたことは少ししかありません。
なので、どうしても伝えておきたいことは時間を遡って書きます。きっとどこかの誰かには意味をもって届くと思うから。
実際私自身、夫が存命中、がん患者さんたちの日記やブログに励まされたり情報として参考にさせてもらったりしていました。中でも、2021年に夫と同じすい臓がんで亡くなった作家の山本文緒さんの最期の日記『無人島の二人』は、何度も何度も暗記するほど読み返しました。
そして「これは夫と同じ」「ここは違う」など、些細なことで一喜一憂していました。同じ病気でも違う人間なんだから同じ展開になるわけではない、それはわかっているけど、頼りのひとつになっていたんです。
「死ぬまで好きな物を食べたい」
夫はがんの標準治療は選ばなかったけど、対症療法の手術は受けています。がんにより詰まった胆管を通すためのステント(管のようなもの)手術、そして胃と小腸をつなぐバイパス手術。ステントは数か月おきに交換していたので、入院は何度も経験しました。
バイパス手術を行なったのは昨年6月です。すい臓がんが判明してからちょうど一年後くらいでした。がんが大きくなって十二指腸が閉塞してきたため、食べた物がいつまでも胃の中から降りていかず、何度もゲップが出たり吐き気がしたり、食後ずっとお腹が張って苦しくなったりしていました。それを解消するため、十二指腸を迂回して胃から小腸に直接内容物を流せるようにする手術を行なったんです。
実はこの時、医師からは他に二つ選択肢があると言われていました。一つは胆管のように、ステントを入れる手術。でもこれはうまく機能するか不明で、痛みがある可能性も指摘されました。そしてもう一つは、手術をせず点滴生活をすること。これだと手術はしないですみますが、食べることはできなくなります。
「死ぬまで好きな物を食べたい。バイパス手術します」
夫は即断しました。
そして手術は成功。直後は切った箇所の痛みが少しあったようですが、「胃液がせり上がる感じがなくなった」と夫は喜んで、10日後にはステーキとたい焼きを2個食べました。その後ちょっとまた苦しくなっていたけれど。
どの治療を受けてどの治療を受けないか、夫はすべて自分で決めました。「痛いのはイヤ」「食べたいものを食べたい」、夫はブレることなく信条を貫きました。後悔を口にしたことはただの一度もなかったです。
編集部註:記事は叶井俊太郎さんが選んだ治療法について綴ったものです。対処療法や手術などの治療については医師や専門家に相談してください。
倉田真由美さん、夫のすい臓がんが発覚するまでの経緯
夫が黄色くなり始めた――。異変に気がついた倉田さんと夫の叶井さんが、まさかの「すい臓がん」と診断されるまでには、さまざまな経緯をたどることになる。最初は黄疸、そして胃炎と診断されて…。現在、本サイトで連載中の「余命宣告後の日常」以前の話がコミック版で無料公開中だ。
『夫のすい臓がんが判明するまで: すい臓がんになった夫との暮らし Kindle版』
『夫の日常 食べ物編【1】: すい臓がんになった夫との暮らし』