倉田真由美さん「すい臓がんの夫と余命宣告後の日常」Vol.21「夫が残してくれた得がたい体験」
漫画家の倉田真由美さんと夫の叶井俊太郎さん(享年56)は、15年連れ添い、共に子育てをしてきた。娘さんが小さい頃のこと、最期になった夫が選んだ子どもの遊び場――。叶井家の子育てにまつわるエピソード。
執筆・イラスト/倉田真由美さん
漫画家。2児の母。“くらたま”の愛称で多くのメディアでコメンテーターとしても活躍中。一橋大学卒業後『だめんず・うぉ~か~』で脚光を浴び、多くの雑誌やメディアで漫画やエッセイを手がける。お笑い芸人マッハスピード豪速球のさかまきさん原作の介護がテーマの漫画『お尻ふきます!!』(KADOKAWA)ほか著書多数。
夫の叶井俊太郎さんとのエピソードを描いたコミック『夫のすい臓がんが判明するまで: すい臓がんになった夫との暮らし Kindle版』 『夫の日常 食べ物編【1】: すい臓がんになった夫との暮らし』は現在Amazonで無料で公開中。
夫は「娘を喜ばせること」が生きがいでした
娘が小さい頃、夫は「娘を喜ばせること」が生きがいでした。
すべての余暇を娘のためにつかっていた、といっても過言ではないほど休日はあらゆる子どもの遊び場に行きました。
関東近県の主だった遊園地、牧場、屋内・屋外遊具場はほぼ網羅しているんじゃないかというくらい。さらに期間限定のイベントや祭りなども、面白そうだと思ったら多少遠くても電車を乗り継いで行きました。そのおかげか、娘は見ている周囲の人がびっくりするほど金魚すくいが上手です。いろんな祭りで何度も何度もやっていますから。
夫は熱心にネット、時には地域の掲示板すら情報源にして「次の土日、娘をどこに連れて行くか」を考えていました。
「このイベント、よさそうじゃない?」「こんなのできてる。行こうよ」と私に情報ページを見せ、私が「ちょっと遠いよ」「お金かかりそう」と難色を示しても、「いいじゃん、娘が喜ぶんだから」と結局行くことになるのが常でした。
うちは車がないので、出かける時は大抵電車です。遠出の時は娘が退屈しないよう、電車の中でも遊べる小さな遊具や絵本を大量に持って行きました。そして私はしばしば、原稿用紙とペンケースを帯同していました。現地で夫が娘を遊ばせている間、私はスペースを見つけて原稿を描く。時期によってはこういう日もあり、「私だけ自宅で仕事していたほうがよかったかな」と思うこともありました。
でも、今振り返るとすべて行ってよかったと思います。大人だけでは行かない場所、イベント、今となっては訪れることはないですが、楽しくなかったかというとそんなことはないんです。
食堂の片隅で原稿を描いている時間の方が長くても、垣間見える非日常の風景、「へえ、こういうところなんだ」という小さな感動はやっぱり足を運んで行ったから得られるものです。
夫がいなければ、たとえ子どもがいても半分、いや10分の1も行っていなかったでしょう。夫は私にも、得がたい体験をたくさん残してくれました。
夫が選んだ子どもの遊び場、最期になったのは相模原にある「ぼうけんの国」です。昨年春頃、中学2年生の娘と娘の友だちを連れて行きました。屋内で釣りや宝探しができて、一日中遊べました。
娘たちが遊ぶ様子を心から楽しそうに見て笑って、時には一緒に遊ぶ夫。娘の喜びをストレートに自分の喜びに変換できる人でした。こういう夫でよかった。こういう人と子育てできてよかった。心から思います。
倉田真由美さん、夫のすい臓がんが発覚するまでの経緯
夫が黄色くなり始めた――。異変に気がついた倉田さんと夫の叶井さんが、まさかの「すい臓がん」と診断されるまでには、さまざまな経緯をたどることになる。最初は黄疸、そして胃炎と診断されて…。現在、本サイトで連載中の「余命宣告後の日常」以前の話がコミック版で無料公開中だ。
『夫のすい臓がんが判明するまで: すい臓がんになった夫との暮らし Kindle版』
『夫の日常 食べ物編【1】: すい臓がんになった夫との暮らし』