「階段での転倒がきっかけで施設介護に…」エレベーターがない2階以上の暮らに潜む危険と高齢者が備えるべき対策
「階段で転倒したことが引き金となって老人ホームへの入居を余儀なくされた」というケースは意外と多いと、社会福祉士で在宅介護に詳しい渋澤和世さん。高齢者にとってどんな住宅で暮らすのかは重要な問題だ。高齢者の暮らしに潜む危険なシーンを数多く見てきた渋澤さんに、エレベーターがない2階以上で暮らす高齢者の実例と対策を教えてもらった。
この記事を執筆した専門家
渋澤和世さん
在宅介護エキスパート協会代表。会社員として働きながら親の介護を10年以上経験し、社会福祉士、精神保健福祉士、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナーなどの資格を取得。自治体の介護サービス相談員も務め、多くのメディアで執筆。著書『入院・介護・認知症…親が倒れたら、まず読む本』(プレジデント社)がある。
※記事中では実例をもとに一部設定を変更しています。
2階に暮らしていた80代男性の実例
地方都市に暮らす80代の山田一郎さん(仮名)。町内会長でもあった山田さんは、1階は賃貸も兼ねた駐車場、2階はご自身の住まい、3階は息子夫婦の住まいという2世帯住宅に住んでいます。
ある日、デイサービスの介護職員に支えられて外階段を降りていたのをお見かけしたのですが、最近、姿が見えなくなりました。ご家族に話を聞いてみると、”階段での転倒”がきっかけで「老人ホームに入居した」とのこと。
私たちは何気なく使っている階段ですが、高齢者やケガ・麻痺がある人にとっては、日常生活において難所となってしまうこともあるのです。
階段で何が起きたのか?階段に潜むリスク
実は山田さん、この外階段で転倒し大腿骨頸部を骨折し、入院・手術をしていたのです。
リハビリを経て杖で歩けるまでにはなったものの、階段は怖くてひとりでは昇降できなくなっていました。
デイサービスの送迎も、強風や雨天時はもちろん、体重があるため介助に2人以上は必要です。職員の負担や山田さん自身が精神的にも限界になってしまったとのことで老人ホームへの入居を決めました。
高齢になるとテレビをずっと見ている、読書ばかりしている、昼寝を何時間もしている人も見受けられますが、動かないと体の衰えは早いものです。
山田さんのように骨折が原因ではないものの、足腰が弱り階段がつらくなったのを機に老人ホームへの入居を決める人も意外と多いのです。
シニア世代が直面する住宅問題
高齢者の9割以上は持ち家や賃貸住宅で暮らし、要支援・要介護認定者でも約8割が在宅介護を余儀なくされているのが日本の現状です。
※国土交通省: 高齢者の住まいに関する現状と施策の動向
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001464799.pdf
では、私たちは実際、どんな建物に住んでいるのかというと、大きくは戸建て、マンション(RC造、SRC造、重量鉄骨造などで建てられた3階建て以上の共同住宅)、アパート(木質造、軽量鉄骨造などで建てられた2階建て以下の共同住宅)に分けられます。
戸建ても平屋より2、3階建てが主流ですし、マンション、アパートも1階の住居数は限られています。
ちなみに、エレベーターは、建築基準法で高さ31メートル超(7~10階に相当)の建物には「非常用の昇降機」を設けなければならないとされていますが、これに該当しない場合は階段を利用するしかありません。
こうした現状から、「階段を使わざるを得ない」環境は誰もが直面するともいえます。
国土が狭い日本で効率よく居住地を増やすには、高さを出すことは当然の成り行きですがシニアが住み続けるネックとなるケースにもなり得るのです。
2階以上に暮らす高齢者が知っておくべき3つの対策
エレベーターがない住居に住んでいる高齢者はどうすればいいのか、対策を考えてみましょう。
【1】杖を使った階段昇降のポイント
1つ目は、骨折などで片方の足が不自由となったが、まだ歩行可能な際の正しい階段昇降のポイントです。
急がずに、左右両方の足を1段においてから次の段に進むのが安心です。
・杖は健康な足側に持つ
・階段の昇降は杖を先に出す
昇るときは、杖を先に出し、健康な足→不自由なほうの足の順に。
降りるときも、杖を先に出し、不自由なほうの足→健康な足の順で、階段の昇降をするのが安心です(症状にもよるので医師など専門家に相談してください)。
【2】居住スペースが2階以上の場合
2つ目は、持ち家で2階以上に居住スペースがあるかたの対策です。
・介護保険を使った住宅改修として手すりの設置、滑り止めの設置
介護保険の住宅改修を利用すると、自己負担1割で設置できます。ただし、一定以上の所得があるかたの負担金額は、2~3割となります。
・全額自己負担だが、階段昇降機の設置
手すりをつけても安全に階段昇降ができない場合は、階段昇降機の設置も解決策となります。
ただし、階段の幅が750mm以上必要なこと、全額自己負担だと100万円くらいかかるため、敷居は高くなりますが、いす型の昇降リフトなら、リモコン操作で安全に移動できます。自治体によって補助金の対象になる場合もありますので確認してみてください。
また、取り付けた後、使わなくなる可能性もある場合には、レンタルという選択肢もあります。「階段昇降機 レンタル」で検索すると、事業所がいくつかでてきますので比較・検討してみてください。
【3】賃貸で2階以上に住んでいる場合
3つ目は、賃貸で2階以上に住居があるかたの対策です。
・同じ建物で部屋を変更してもらう
階段リスクに備えて、1階に空室が出た際、部屋の変更は可能なのでしょうか。基本的には現部屋を解約し、新部屋で再契約となります。一棟所有の大家さんであれば初期費用等を多少免除してくれるかもしれないので相談する価値はありそうです。
・介護老人保健施設(老健)に入居
65才以上、要介護1以上であれば、自宅復帰を目指しつつ一時的に老健に入居するのもひとつの手段です。
筆者も車いすを利用されているかたが老健でのリハビリによって自立歩行ができるようになったケースを何件か確認しています。病院に入院中の場合は、医療ソーシャルワーカーに、在宅介護の場合はケアマネジャーに相談して入居の申し込みを行います。
・特別養護老人ホーム(特養)への入居の優先順位に該当するケースも
特養は判定会議によって入居者が決まりますが、その評価基準のひとつに、住居の状況があります。
生活行動に階段昇降が必要など、現在住んでいる家で生活を継続することが難しいと想定されると、特養に入居する必要性が高まります。
日ごろからその特養のデイサービスなどを利用して職員と顔見知りになり、生活状況を伝えておくことで要介護1、2であっても優先的に入居できる場合もあります。
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高齢者の階段転倒による事故は、降りる動作で起こることが多いです。すべてのかたが階段問題に直面するとは限りませんが、対策を情報として持ちつつ、日ごろから身体を動かす習慣を持つことが何よりも大切かもしれません。