「認知症だと思ったら…」【老人性うつ】は高齢になり大切な人の喪失機会が増えることも要因 認知症との違いは?専門家が解説
“生涯現役”を掲げ、年を重ねてなお好きな仕事をしたり、趣味を楽しんだりと輝いているシニアは多い。一方で、長生きしているからこそ“闇”を抱える回数が多くなるのも高齢者の現実だ。知らず知らずのうちに、あなたもその深みに入り込んでしまっているかもしれない――。「老人性うつ」の実態について、専門家に聞いた。
教えてくれた人
長谷川診療所院長 長谷川洋さん
精神科医 和田秀樹さん
「老人性うつ」とは?うつ病患者の4割も
千葉県在住の主婦・山田朋美さん(65才・仮名)は、昨年の夏に夫に先立たれてしばらくしてから様子がおかしくなった。娘の山田ひとみさん(38才・仮名)が当時を思い出す。
「年齢も年齢だし、話し相手だった父がいなくなったから認知症がとにかく心配で、1か月に1回は千葉の実家に様子を見に行っていたのですが、3か月ほど経った頃から昼間でもボーッとして、だるいと言って外出をしようともしなくなった。ついに来たか…と思って病院に連れて行くと『老人性うつ』と診断されました。てっきり認知症だと思っていたので驚きました」
長谷川診療所院長の長谷川洋さんが説明する。
「老人性うつとはその名の通り、高齢者がかかるうつ病のこと。若年のうつ病と比べて精神的な症状よりも健康状態の悪化など、身体的な症状が現れやすいのが特徴です。国内のうつ病患者は約120万人ですが、そのうち4割は60才以上の老人性うつです」
「認知症」と「老人性うつ」の違い
高齢者がうつになりやすいのは「心理的要因」「社会的要因」「身体的要因」など複数のうつになるリスクを上げる要因が自身に起こりやすいからだと長谷川さんは続ける。
「高齢になると長年連れ添った配偶者や昔からの友人が亡くなるなど、喪失体験が多くなります。
また、スマホやパソコンなどのIT機器が使いこなせず、時代の進歩についていけないことによる孤立感が生まれる。ほかにも体力の衰えや病気、経済的な不安など、慢性的にストレスがかかりやすい状況にあるのです。
年を重ねるごとにリスクが上がりますが、認知症と症状が似ているゆえに見過ごされやすい。気づいたら手遅れになっていたというケースも少なくないのです」
高齢者専門の精神科医として6000人以上の患者と向き合ってきた精神科医の和田秀樹さんも、老人性うつは認知症よりも重篤な状態を引き起こしやすいと警鐘を鳴らす。
「物忘れが多くなる、着替えやお風呂の回数が減る、片づけができなくなる、外出頻度が減るなど症状は似ているものの、両者はまったく別の病気です。
認知症が1年から5年程度かけて段階的に進むのに対し、うつは1~2か月の間にすべての症状が立て続けに生じるのが特徴です。つまり、進行は老人性うつの方が速い。しかも、老人性うつは最悪の場合、自殺を選んでしまうおそれがある怖い病気なんです」
老人性うつと認知症の違い
★老人性うつ
・初期症状|不眠、食欲低下、体の不調など
・症状の進行|一度発症した後は進行する速度が速い
・精神症状|貧困妄想、心気妄想など
★認知症(アルツハイマー型、レビー小体型)
・初期症状|物忘れをはじめとした記憶障害など
・症状の進行|長時間かけてゆっくり進行する
・精神症状|侵入妄想、物盗られ妄想など
出典/長谷川洋さんの著書『60歳から知っておきたい 認知症ではなく「うつ」だと知るための50の
こと』(徳間書店)
老人性うつは周囲が気づきにくい
長谷川さんが懸念するのは、老人性うつは発症しても本人も周りも気がつきにくい病気だということ。
「うつになると不眠や食欲不振、体や頭のだるさといった身体的な症状が現れます。若い人はもともと体に不調がないケースが多いので、内科などを受診して異常がなければ精神科へ、という流れになり発見されやすい。
しかし、高齢者はもともと頭痛持ちだったり、胃腸が弱い、めまいの症状があるという人も多いので老化現象と見分けがつきにくい。本人も家族も“年齢のせい”ですませて放っておいたり、誤診によって間違った治療を受けているうちに症状が悪化してしまうおそれがあります」(長谷川さん・以下同)
さらに恐ろしいのは、放っておくことでうつをきっかけに認知症を発症する事例が散見されること。
実際、今年7月に亡くなった作家の森村誠一さん(享年90)もうつに悩み、少しずつ回復していた矢先、うつと入れ替わるように認知症の傾向がみられるようになったと報じられている。
「詳しいメカニズムはわかっていませんが、脳梗塞後に生じる血管性のタイプの老人性うつは、血管病変が認知機能にも影響を与えることが最近の研究で指摘されています」
※女性セブン2023年12月14日号
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