難聴の患者数は5年で50万人増加!アルツハイマー型認知症のリスクを専門医が解説
加齢とともに耳が聞こえづらいと感じていませんか。いつまでも、友人たちと食事に出かけておしゃべりを楽しみたいもの。ただ難聴といっても、さまざまな種類がある。なかにはアルツハイマーの要因になるものも。そのメカニズムを専門家が解説する。
コロナ禍以降『耳が聞こえづらい』人が急増
「久しぶりに参加した同窓会だったのに、不完全燃焼のまま終わりました。立食パーティーだったから大人数で輪になって話していたんですが、同級生たちの声が全然聞き取れない。父が晩年、大音量でテレビを流していたことや、『え?』と何度も聞き返す姿が、脳裏をよぎって不安になりました」
主婦の村田陽子さん(仮名・60代)はそう言って肩を落とす。
目と耳の治療院『日本リバース』院長で整体師の今野清志さんによれば最近、村田さんのように難聴に悩む人が増えているという。
「コロナ禍以降、『耳が聞こえづらい』と訴えて来院する人の数が1.5倍以上に増えています。自粛生活に伴うストレスによる自律神経の乱れや、マスク生活での酸素不足、運動不足による血流の低下によって耳まわりの筋肉がこわばっていることが大きな理由だと考えられます。
加えてイヤホンやヘッドホンを日常的に装着する習慣が一般化したことも耳に負担をかけている。実際、WHOの発表によれば難聴の患者数はこの5年で50万人も増加しているのです」(今野さん)
●難聴の原因は鼓膜の前と後ろで大まかに分かれる
聴力は脳の機能と大きく関係
一口に難聴と言っても、その原因は多岐にわたるが、大まかには「伝音難聴」と「感音難聴」、両者の合併する「混合性難聴」に分けられる。伝音難聴は中耳炎や外耳炎など、耳の入り口から鼓膜までの部分に障害が生じることで引き起こされるが、症状に応じた治療をすれば、多くの場合はもとの聴力に戻る。
一方の感音難聴は、内耳(ないじ)から脳までの間の一部に問題が起こることで発症するもので、加齢による難聴は後者だ。
筑波大学医学医療系耳鼻咽喉科教授の田渕経司さんが解説する。
「内耳には『蝸牛(かぎゅう)』というカタツムリのような形をした器官があり、入ってきた音を振動として感知し、電気信号に変えて脳に伝えています。しかし老化に伴い、蝸牛にある『有毛細胞』の機能が低下して、音の振動を察知しにくくなるのです。また、電気信号を認識する脳の神経細胞が衰えることも難聴を悪化させるといわれています」(田渕さん)
つまり、聴力は脳の機能とも大きく関係しているのだ。
アルツハイマーの原因の約1割は難聴
川越耳科学クリニック院長の坂田英明さんが言う。
「私たちがほかの人の話し声を『言葉』として理解できているのは、耳で音を聞くだけでなく、脳が音を言葉として認識しているためです。大脳を中心に海馬などと連携しているのです。『音は聞こえるが、何を言っているのか理解できなくなった』『複数人が同時に話すと理解できない』という人は耳だけではなく脳の機能が落ちている可能性が高い」
さらに恐ろしいのは、その“聞こえづらい”状態を放置すると認知症になるリスクが上がることだ。
「難聴になったことがきっかけで認知機能が低下し、アルツハイマー型認知症を発症するケースは少なくありません。
実際、アルツハイマー型認知症の約1割は難聴が原因だという研究データもある。耳が聞こえづらくなることで人づきあいも減り、外出がおっくうになって家にこもりがちになり、筋肉が落ちてフレイルの状態になるケースも少なくありません。そのまま、寝たきりになる可能性すらあるのです」(坂田さん・以下同)
教えてくれた人
今野清志さん/目と耳の治療院『日本リバース』院長、整体師
田渕経司さん/筑波大学医学医療系耳鼻咽喉科教授
坂田英明さん/川越耳科学クリニック院長
※女性セブン2023年6月22日号
https://josei7.com/
●聞こえの悪さ”難聴”を放置すると認知症リスクが高まる?早めの対策が肝心【専門医解説】