脳科学者・川島隆太さんに学ぶ「認知症にならない生活・スマホの使い方」【最新!脳トレ計算問題」
元気なうちから始めたい認知症対策。しかし、「どんな環境が脳にいいのか悪いのか?」「本当に効く脳トレとは?」と悩んでいる人も多いのではないだろうか。そこで、脳科学者の川島隆太さんに認知症にならない生活や認知機能を上げるトレーニング方法を教えていただきました。
加齢と認知症の脳はどこに違いがある?
加齢と認知症は、脳の動きに違いはあるのだろうか?
「認知症の中でもっとも罹患者の多いアルツハイマー型を例に説明しましょう。
記憶にはメカニズムがあり、過去の記憶は、後頭部の下の方にある脳の“後頭葉~側頭葉”という部分に蓄積されます(長期記憶)。記憶は体験ごとにひとまとまりに蓄積されるのではなく、バラバラに格納されるのですが、それらを組み立てて思い出すための機能が、頭の前方の脳である『前頭葉』にあると考えられています。
ところが、年を取ると前頭葉の機能が低下し、上手に記憶が組み立てられなくなります。加齢で前頭葉の記憶の組み立てシステムに問題が生じることがあるのです。一方、新しくものを記憶するときにも前頭葉を使います(短期記憶)。そこで記憶を書き込む作業を行い、脳の奥にある“海馬”という場所で仕分けされ、古い記憶は後頭葉~側頭葉に格納されるわけですが、認知症になると、仕分け役の海馬がダメージを受け、壊れやすくなることがわかっています」(川島隆太さん・以下同)
古いことは覚えているのに新しいことを忘れてしまうのはそのためだ。ちなみに、画像診断に表れるアルツハイマー型の脳には、海馬周辺の萎縮が起きているそうだ。
「認知症によるもの忘れの感覚をたとえると、お酒を飲むかたは経験があるかもしれませんが、『深酒をして記憶がなくなっているのに、なぜか家に帰って寝ていた』という状態に似ているといわれます。これは、前頭葉がうまく働いていないものの、何とか記憶をつないで行動できてしまう状態で、それが平時でも起こっていると考えてください」
年を取って性格が丸くなったとか、怒りっぽくなったという声を聞くが、これも脳の老化によるものだろうか?
「そうですね。前頭葉の機能が老化などで落ちていくと感情の抑制がかかりづらくなります。この程度の変化なら深刻に捉える必要はありませんが、人格が変わるほどのレベルの場合は注意が必要です。たとえば、人が変わったように暴れたり、暴言を吐いたり。このような場合は、認知症の疑いが強いでしょう」
主な認知症の種類
●アルツハイマー型
脳の神経細胞にゴミ(アミロイドβというたんぱく質)が蓄積し、海馬を中心に脳が萎縮する。認知症全体の約70%を占める。画像診断で脳の萎縮が確認できる。記憶障害、もの盗られ妄想、徘徊、とりつくろいなどの症状が起き、ゆるやかに進行する。
●脳血管性型
脳梗塞、脳出血などが原因で脳の血液循環が悪化し、脳の一部が壊死する。認知症全体の約20%を占め、画像診断で脳の壊死部分が確認できる。認知機能障害、手足のしびれやまひ、感情の抑制がきかないなどの症状が起こる。疾患により異なるが、段階的に進行する。
●レビー小体型
レビー小体という特殊な病変が脳にできることで神経細胞が死滅する。画像診断でははっきりとした脳の萎縮が見られないことが多い。症状は注意力・視覚の低下、幻視や妄想、抑うつ、パーキンソン症状(筋肉がこわばって動作が遅くなる)など。調子のいいときと悪いときを繰り返しながら進行し、時に急激に進行する。
出典:認知症ねっと https://info.ninchisho.net/mci/k10
現代の生活習慣が招く“スマホ認知症”とは?
超高齢社会のいま、認知症患者が増えていくのは必然ともいえるが、現代の生活習慣が、将来的に患者の増加を加速させる可能性があると、川島さんは危惧する。
「スマホやパソコン、テレビなどのデジタル機器に囲まれた生活様式が、認知機能の低下を促進していることは間違いありません。いまは、人類史上初めてのデジタル社会。過去のデータがないため、具体的な問題点を挙げられない段階ですが、“認知機能の低下の先に認知症がある”というモデルが100%正しければ、高齢者に限らず、幅広い年代の人が認知症に罹患する可能性があると憂慮しています」
昨今“スマホ認知症”という言葉も聞かれるように、「スマホの見すぎ」は「膨大な情報を浴び続けること」となり、脳内での処理が追いつかず、脳機能の低下を招くといわれている。スマホによる脳の機能低下は、中高年ばかりでなく、若年層にも及ぶ。
「東北大学の学生で調査をしたところ、スマホが手放せない人の脳は、神経線維が集中する『白質(はくしつ)』の体積に、すでに老化のサインが出ていました」
「無意識にスマホをいじってしまう」「プッシュ通知が来るたびに見てしまう」といったスマホ依存の声は10~20代に多いが、シニアもそうなる可能性は高い。NTTドコモによると、2022年現在、スマートフォンの保有率は94%。うち60代で9割、70代でも7割(※)に上っており、シニアにおけるスマホの普及は格段に進んでいるからだ。
「私も含め、多くの人がデジタル機器を手放せない生活を強いられていますが、仕方のない面もある。人間は、情報がたくさんあると触れたくなる本能を持っているからです。スマホのアプリはそこを刺激するようにできており、無意識のうちに依存症になってしまうのです」
スマホの何が問題なのか?
デジタル機器の中で、なぜスマホが問題なのだろう?