冬こそ「東洋医学」!風邪、冷え、インフルエンザは【漢方】で対策
急激に気温が下がり、空気が乾燥する冬に突入。薬をのむほどではないけれど、なんとなく感じるこの頃の不調、軽いうちになんとかしたい‥‥。
漢方とツボ押しなら、セルフケアでそれができるんです!風邪や冷え、かゆみはもちろん、インフルエンザにも効果的。寒い時期の不調は”古来の医術”で吹き飛ばしましょう。
気候の変化「風、寒、暑、湿、燥、火」が体の不調を引き起こす
今年は秋らしい快適な季節をさほど感じられないまま気温が低下。乾燥も進んでいることから、冷えや風邪の症状を訴えて受診する人が多いと、東洋医学の専門医師・伊藤隆さんは言う。
「東洋医学では、気候の変化を風、寒、暑、湿、燥、火の6つの気に分類し、この変化が激しいほど人体に悪影響を与え、病気などの害を引き起こすと考えられています。
とはいえ、気候の変化が激しくても、抵抗力や免疫力が強ければ不調は退けられます。睡眠をしっかりとって疲れをためず、体を冷やさないよう心がけるのが基本です」(伊藤さん・以下同)
秋から冬にかけて、体は乾燥により水分を奪われた『燥邪(そうじゃ)』の状態になる。肌や髪、口腔内を乾燥させるほか、肺やのどの潤いも奪い機能を低下させるため、せきや喘息が出て、胸が痛くなるような症状も表れる。
これに備えるには、まず室内を加湿することが大切で、食事などで体を温めて、気の流れを整える必要がある。
「肺や気管支の負担を和らげる作用のある大根や玉ねぎなどの野菜のほか、ねぎやしょうが、唐辛子などの薬味や香辛料を摂ることも養生になります」
●【秋】燥邪
さらに、季節が進んで気温が下がってくると体は『寒邪(かんじゃ)』と呼ばれる状態になり、皮膚や呼吸器官などから、全身に冷えをもたらす。
この寒邪に備えるためには、全身の血の巡りをよくする黒大豆やプルーン、にら、玉ねぎ、きくらげなどを積極的に摂るといい。
「冬の寒さから身を守るためにも、夏よりも多くのエネルギーを体内に蓄えることが必要です。人間の生命活動を維持する“腎”の気を補うことができる山いもやオクラ、なめこなどのネバネバ食品、わかめやのりなどの海藻類を摂り、パワーをつけて」
●【冬】寒邪
それでも、乾燥や冷えにより体調を崩してしまったら、漢方薬を試してみるのもいい。最近では調剤だけでなく、市販の漢方薬が数多くそろっている。
「ひと口に“冷え”といっても、症状は人それぞれ。漢方薬は気・血・水のバランスを考慮しながら自分に合うものを選んでください」
風邪、インフルエンザ、冷えに…タイプ別漢方薬の種類
●初期の風邪に「葛根湯(かっこんとう)」
体力がある人の初期の風邪に効く。ただし、発汗作用があるため、すでに汗をかいている人には不向き。
生薬:葛根、麻黄、桂皮、芍薬、大棗(たいそう)、生姜、甘草
●胃腸が弱い人がかぜをひいたら「香蘇散(こうそさん)」
葛根湯よりも穏やかに効くので、胃腸の弱い人向き。ゆるやかに熱を下げ、痛みを緩和する。
生薬:香附子(こうぶし)、蘇葉(そよう)、陳皮、生姜、甘草
●インフルエンザに「麻黄湯(まおうとう)」
熱があり、体の節々が痛む風邪で、汗をかいていない初期に適応。インフルエンザにも効果があり、タミフルなど西洋薬とも併用しうる。
生薬:麻黄、桂皮、杏仁(きょうにん)、甘草
●のどの痛みに「桔梗湯(ききょうとう)」
のどが腫れて痛みがある扁桃炎や、扁桃周囲炎などに、うがい薬のように使うことで痛みを緩和する。もちろん、のんでもよい。
生薬:桔梗、甘草
●のどの痛み、高齢者に「麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)」
体力のない人や高齢者、病み上がり時に、寒気が強く、のどが痛い風邪をひいた場合におすすめ。不眠や倦怠感にも効果がある。
生薬:麻黄、附子、細辛
●体力がなく、汗ばむ時に「桂枝湯(けいしとう)」
体力がない、胃腸が弱い、高齢者などで、頭痛や寒気、発熱があり、皮膚が自然と汗ばむ時におすすめ。
生薬:桂皮、芍薬、大棗、甘草、生姜
●水っぽい鼻水に「小青竜湯(しょうせいりゅうとう)」
鼻風邪で、水っぽい鼻水やたんが出る症状に効果がある。そのほか、気管支拡張作用もある。
生薬:麻黄、芍薬、乾姜(かんきょう)、桂皮、細辛、五味子(ごみし)、半夏(はんげ)、甘草
●冷えに「当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)」
血行不良で指先やかかとが乾燥しやすく、手足の末端が冷える人に効果的。貧血で疲れやすく、月経痛がある人にも。
生薬:当帰、川芎(せんきょう)、芍薬、茯苓(ぶくりょう)、白朮(びゃくじゅつ)、沢瀉(おもだか)
●しもやけ、冷えると腹痛に「当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)」
手足の先が冷え、しもやけができる人や、冷えによる下腹部痛、腰痛、下痢に適応。月経痛にも◎
生薬:当帰、桂皮、芍薬、木通、細辛、甘草、大棗、呉茱萸(ごしゅゆ)、生姜
●冷え、のぼせに「桂枝茯苓丸(けいひぶくりょうがん)」
経障害や更年期障害などで、手足は冷えているのに、頭部はのぼせる人におすすめ。
生薬:桂皮、茯苓、牡丹皮(ぼたんぴ)、桃仁(とうにん)、芍薬
●ストレス、冷えに「四逆散(しぎゃくさん)」
みぞおちに重苦しさがある人の腹痛、胃炎、胃痛などの症状に用いられる。手足の多汗がみられるストレス性の冷えに効く。
生薬:柴胡(さいこ)、芍薬、枳実(きじつ)、甘草 ・
●むくみ、頭痛に「五積散(ごしゃくさん)」
むくみ、頭痛を伴う冷え、のぼせに。
生薬:蒼朮(そうじゅつ)、陳皮、当帰、半夏、茯苓、甘草、桔梗、枳実、桂皮、厚朴(こうぼく)、芍薬、生姜、川芎(せんきゅう)、大棗、白芷(びゃくし)、麻黄
●冷え、のぼせ、便秘に「桃核承気湯(とうかくじょうきとう)」
便秘があり、血の巡りが悪く、月経困難症の人やイライラする人、足は冷えるのに顔はのぼせる人に。
生薬:桃仁、桂皮、大黄、芒硝(ぼうしょう)、甘草
●冷え、のぼせ、更年期障害に「加味逍遥散(かみしょうようさん)」
月経異常や更年期障害に使われる代表的な漢方薬。
生薬:柴胡、芍薬、当帰、茯苓、蒼朮、山梔子(さんしし)、牡丹皮、甘草、生姜、薄荷(はっか)
【副作用に注意!】
西洋薬と同じく漢方薬にも副作用はある。人によって体質的に合わない場合のほか、そもそも副作用を起こしやすい生薬もある。
「葛根湯に含まれている麻黄、甘草は、副作用を引き起こしやすい生薬です。服用量に注意していても、体に合わない場合がありえます。
薬局で買える葛根湯には、医療用と同量の生薬を含む満量処方のものが多くあります。効き目が高い分、副作用のリスクも高いといえます。2日ほど服用しても症状の改善がみられない場合は、医師に相談してください」
・甘草
漢方薬に多く含まれ、甘味料として食品に使われることもある。血圧の上昇やむくみ、尿量の減少、だるさなどの副作用がある。特に高血圧の人、高齢者に注意。
・麻黄
葛根湯や麻黄湯に含まれており、動悸、不整脈、血圧上昇、過剰な発汗、尿量の減少などの副作用がある。体力が落ちている人、高血圧や心疾患のある人は注意。
・附子
トリカブトの根を乾燥させたもので、体を温めて冷えをとる作用がある。副作用として強い動悸、冷や汗、吐き気などがあり、高血圧や心疾患のある人は注意。
教えてくれたのは
伊藤隆さん/医師 。東京女子医科大学教授で東洋医学研究所所長。
イラスト/いばさえみ
※女性セブン2018年11月29日・12月6日号