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健康

最新「認知症検査」でここまでわかった!治った!自宅でできるテストも

 2017年の経済協力開発機構の調査によれば、日本の全人口における認知症有病率は2.33%。先進国でもトップクラスだ。さらに、日米の最新の研究によれば、女性は男性よりも認知症になりやすいのだという。人生100年時代を楽しく健やかに生き抜くために、今からできるのは検査に基づく予防と対策だ。

 認知症は、まさに国民病だ。内閣府によると、認知症患者は、2012年には患者数462万人、65才以上の人口に占める割合は15%だったが、2025年には730万人、割合は20%になるとされる。さらに、2060年には1154万人、高齢者の3人に1人が患者となると予測されている。

 医師で筑波大学准教授の内田和彦さんが言う。

「あたかも打つ手がない“不治の病”のように思われている認知症ですが、実は予防も対策も可能です。最も患者数が多いアルツハイマー型認知症は、突然症状が現れるようなことはなく、実は生活習慣病であり、長期間にわたる乱れた生活習慣が症状として現れた結果ともいえます。長年の喫煙や過食、高血圧を放置した末に動脈硬化や糖尿病が起きるのと同じです。

 徐々に悪化し、何十年も経ってから症状が表面化する認知症は、裏を返せば、早期に発見できれば対策も可能なのです」

 つまり、生活習慣病やがんなどの病気と同じように、認知症も「早期発見、早期治療」ができる時代なのだ。

認知症、原因が違えば対策も異なる

 そもそも認知症とは、どんな病気なのか。菅原脳神経外科クリニックの菅原道仁院長が解説する。

「日常生活に異常をきたすような物忘れや認知機能の低下が起きている状態のことを指します。ただし、原因はさまざまです。例えば転倒して頭を打った人が、脳内出血を起こして、認知症の症状が出ることがある。これは血を抜く処置をすることで治ります。また、『甲状腺機能低下症』と呼ばれるホルモンの病気でも、記憶力が低下する症状が出ますが、適切なホルモン療法を施すことで治ります」

 ほかにも脳梗塞や糖尿病で高血糖が続いた場合、肝機能障害が原因で、認知機能が低下する場合もある。だがやはり、認知症の原因として最も多いのがアルツハイマー病によるものだ。

「認知症の7割がアルツハイマー型とされます。アルツハイマー病は、『アミロイドβ』というたんぱく質の老廃物が脳に蓄積し、神経細胞や、その情報伝達を担う脳内物質であるシナプスを損傷させることで、認知能力が低下するとされています」(菅原先生)

 つまり、症状としては同じ認知症でも、原因が違えば当然、対策も異なる。それを探るためにも検査を受けることが重要だ。

一般的な認知症の検査の種類

「認知症検査」と一口に言っても、現在、その方法は数種類が開発されている。いつ、どのような状態で、何を目的に受けるのかで検査の内容は違う。40~50代の中年にさしかかり、「なんとなく認知症が不安だな」という人が予防や改善のために受ける最新の検査については、詳しく後述する。まず、ごく一般的な、認知症を診断するための検査について解説する。

 医療に詳しいジャーナリストの村上和巳さんが言う。

「はじめに、精神科医の長谷川和夫さんが開発した簡易知能検査である『長谷川式スケール』という検査を受けることが主流です。『年齢』『今日の日付』『今どこにいるか』『知っている野菜の名前をできるだけ多く言ってください』など簡単な質問9項目からなる問診に答える内容です。所要時間は約15分程度。30点満点のうち20点以下の場合、認知症の疑いが高まるとされます」

代表的な認知症検査の表。長谷川式スケール、MMSE、TOP-Q、MCIスクリーニング、脳ドックの5つを解説

 そこで認知症の所見があれば、〝二次検査〟に進むことになる。

「世界中の認知症患者に使われている『MMSE(ミニメンタルステート検査)』という『長谷川式スケール』と同様の問診テストを受けるケースが多い。その際、もし本人の同意なく受診している場合、本人が認知症検査だとわかると、わざと答えを変えたり、『おれはボケてない!』と怒り出す人もおり、正確な結果が出ない場合もある。この傾向は特に現役時代、社会的地位の高かった人に多いとされています」(村上さん)

 そこで開発されたのが「TOP-Q」と呼ばれる簡易検査だ。

「2014年、東京都大田区の大森医師会が開発した比較的新しい検査です。雑談を装って2~3分話すだけで認知症かどうかチェックできるとされます。例えば『50年前の東京オリンピックの時は何才でしたか?』といった質問への反応を見たり、『手の様子を見ましょう』と話して影絵のキツネやハトの手を医師が作ってみせ、それと同じことができるかどうかチェックしたりすることで、認知症かどうかを判断します」(村上さん)

 認知症になると体の感覚を司る頭頂葉の機能が低下し、手の動きを模倣できなくなるのだという。それらの問診やペーパーテストを経て「疑いあり」と判断されたら、脳の画像診断が行われる。

「CTスキャンやMRIなどを使った画像診断によって、脳が萎縮しているかどうかなどを調べ、それによって医師が認知症であるかどうかの確定診断を下します」(村上さん)

血液を採取するだけで8割わかる

 現在主流となっている認知症診断は、問診で異常があれば脳の検査を受けるというものだ。しかし、まだ認知症の自覚症状がないうちからそのリスクが判明し、「予防につながる」として大きな注目を集めている検査がある。開発者である前出の内田先生が説明する。

「2015年に筑波大学の産学研究チームが開発した『MCIスクリーニング』と呼ばれる検査です。認知症の前段階である『MCI(軽度認知障害)』のリスクを血液検査で調べることができます。MCIの人は日常生活に支障はないものの、そのまま過ごすと約5年で半数以上が認知症に進行するといわれています」

 MCIは若年の罹患者も少なくない。現在放映中のドラマ『大恋愛〜僕を忘れる君と』(TBS系)でも、戸田恵梨香演じる34才の産婦人科医が、MCIに罹患し、「物忘れテスト」を受けるシーンが描かれた。認知症の問題は高齢者だけのものではないのだ。

「MCIスクリーニング」は血液の採取だけで、MCIのリスクを約8割の確率で見分けられるのだという。

「MCIの段階で適切な治療や予防ができれば、認知症への進行を遅らせることができたり、うまくゆけば認知症にならないようにすることができたりします」(内田先生)

 実際、2017年に国立長寿医療研究センターが行った調査によれば、MCIと診断された人のうち、生活習慣や食生活の改善などに取り組んだ結果、46%の人が回復したのだという。

「今のところ、自覚症状がないというかたにもぜひ受けていただきたい検査です。アルツハイマー病の原因といわれているアミロイドβは15~20年前から脳に沈着し始め、長い期間を経て発症する特徴がある。もしかしたら、症状を意識していないだけで、MCIはもう潜伏しているかもしれません」(内田先生)

 検査の結果は、「A」「B」「C」「D」の4段階で示される。

「A・Bが陰性でC・Dが陽性ですが、もしC・Dだったとしても、すぐにMCIと診断されるわけではありません。その後に神経内科や脳神経科にかかり、医師の診断を受けることになります」(内田先生)

「MCIスクリーニング」50代なら2年に1度は受診したい

「MCIスクリーニング」はどこに行けば受けられるのか。

「この検査は、全国1600か所の医療機関で受けられます。実施医療機関のリストは、私が代表を務める筑波大発ベンチャーのMCBI社の公式サイトを参照してください」(内田先生)

「長谷川式スケール」をはじめとした問診は、基本的には自覚症状が出た人が受ける検査だが、「MCIスクリーニング」は思い立ったときから予防のために定期的に受けることが推奨されている。
「50代ならば2年に1度受ければ充分ですが、65才以上のかたは1年に1回は受けてほしい。75才を超えると認知症のリスクはぐんと高くなる。その前に早期発見することが重要です」(内田先生)

 気になる費用だが、健康保険適用外の自由診療扱いのため、実施機関によって異なるが2万〜3万円程度だという。

 さらに深く、詳しく検査したい人には、「認知症予防脳ドック」と呼ばれる専門の検査を行う医療機関もある。愛知県にある認知症専門病院「福祉村病院」も、その1つ。同病院神経病理研究所所長の橋詰良夫先生が、検査の内容を説明する。

「こちらでは、一般的な心電図や尿検査、血液検査に加え、脳MRI、神経学的検査、四肢の運動機能の検査を行います。その後、『長谷川式スケール』や『MMSE』では見落としてしまうような認知症の傾向を探るため、〝少し特殊な問診〟をします」

 問診の具体的な中身を聞くと、たしかにユニークだ。

「例えば、質問者がチョキを出したら、それに負けるようパーを出さねばならないルールの『後出し負けじゃんけん』や、無作為の数字の並びを反復して言ったり、後ろから読み上げたりする『数唱』など。言語流暢性検査として、例えば『あ』のつく言葉を思いつくだけ言ってもらうといった項目もあります」(橋詰先生)

 簡単そうに聞こえるが、実際にやってみると戸惑ってしまう人も多いはず。認知症になると、こういったことができなくなるのだという。そうした検査も早期から受けるべきなのだろうか。

「一度の検査で2時間半くらいかかる大がかりなものなので、症状がないかたが頻繁に受ける必要はないでしょう。それよりも、若いときから生活習慣病のチェックを行い、現在の自分の身体状況についてしっかりと確認しておくことが必要です。予防のためには、50才を超えたら一度、脳のMRIを受診することをおすすめします」(橋詰先生) 前出の菅原先生は、認知症らしき症状が確認されたり、そういった疑いのある親を連れて行く場合は「物忘れ外来」などにかかるべきと強調する。

「MCIスクリーニング検査は、あくまで正常な人が、将来どのくらい認知症になるリスクがあるかを調べる検査です。家族からの頼まれごとを頻繁に忘れてしまうとか、家電の操作ができなくなったなどの具体的な症状が出ているなら健康保険が適用になりますから、脳神経外科や神経外科、あるいは物忘れ外来を掲げている病院を受診した方がいいでしょう」(菅原先生)

「脳のか・き・く・け・こ」の実践を

 万一、スクリーニング検査で認知症リスクが高いと出た場合、発症させないために具体的にどういった対応を取るのがいいのだろう。菅原先生が言う。

「MCI検査の結果が陽性だったかたには、脳の『か・き・く・け・こ』の実践をおすすめしています。“か”は噛むこと。咀嚼することは脳を刺激し、活性化につながります。“き”は聴くこと。難聴は脳の機能低下につながることが明らかになっています。聴力が衰えたかたは積極的に補聴器を使いましょう」

 認知症検査の問診でも、難聴が理由でうまく質問が聞き取れず、判定が悪く出るケースもあるという。

“く”は口元です。これは、よく笑いましょうという意味。感情と記憶を司る脳の中枢には密接な関係があり、楽しかったり、嬉しかったりするときは記憶力も上がります。“け”は血管です。動脈硬化は認知症の危険因子の1つ。そのために、魚を中心としたあっさりとした食事に変え、またたばこはやめ、お酒も適量に抑えてください。運動も大事で、ウオーキングなどの有酸素運動は脳細胞を活発にし、血管にもいい影響があります。

 最後の“こ”はコミュニケーション。人と交流することは脳にも精神にも心地よい刺激を与えます。年を重ねても、新しい出会いや会話の場に積極的に参加するよう努めてください」(菅原先生)

 この「脳のか・き・く・け・こ」なら覚えやすい上、すぐに実行に移せそうだ。金内メディカルクリニックの永積惇院長は、検査を受けることと並行して、「生きがいを見つけ、人づきあいを大切にしてほしい」と説く。

「以前、診たかたで、こんなケースがありました。定年後の男性が、まだ仕事をしたいということでマンションの守衛を始めた。管理しているマンションで草木を育てたり、住民と会話したりと楽しんでいたのに、出世した息子さんが『小遣いをあげるから辞めてくれ』ということで職を退いたとたん、認知症になってしまった。どんどん進行し、回復することなくそのまま亡くなった。家に閉じこもらず、自分は家庭や社会できちんと役割を果たしているんだ、と実感することが、いかに重要かということです」

 同様に、子供夫婦と同居して仕事もせず、のんびり暮らしている老夫婦は、揃って認知症になることが多いのだという。そう聞いて心配になった人のために、橋詰先生が自宅でできる認知症テストを紹介してくれた。

「ぜひ試してほしいのが『重心動揺テスト』です。両手を腰に当てて両目をつぶり、左右どちらでもいいので片足立ちになります。50代なら6秒以上できないと要注意です」

 実際にやってみると意外と難しい。

「次に紹介するのが『タイムアップ・ゴー・テスト』。椅子に座り、手は太ももの上に置いたところからスタートします。椅子から立ち上がって3m先の目印を回り、再び椅子に座るまでの時間を測定します。70才では平均9秒、80才は11秒超となっています」(橋詰先生)


 検査と予防で認知症を遠ざけることは充分可能。人生100年時代、頭の中まで健康でいたい――

※女性セブン2018年11月22日号

●認知症を遠ざける食生活【地中海式食事法+牛乳】のレシピ

●アルツハイマー型認知症の兆候を発見する早期発見リストと認知予備力

●高齢者に増加中の「大動脈弁狭窄症」症状と注目の最新治療法を解説

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