「まあ、ぼちぼちやりましょう」という気持ちを表すために、父の爪を整えてついでにマッサージ【実家は老々介護中 VOL.4】
アラフィフ美容ライターが、がん・認知症・統合失調症を患う80才の父と、在宅介護をする母がふたり暮らしの実家を手伝っています。父母が見栄を張って、「身の回りのことは自分でできる」と申告するのに困り中。でも、ちょっと身ぎれいにして、父母も私も明るい気分で過ごしたいと思います。
目の前のことを解決しながらコミュニケーションを取ろう
「お父さんの足の爪、切ってよ。靴下に引っ掛かって困ってんの」
母に頼まれた私は、ネットで見つけたよく削れる爪ヤスリと、大きい爪切りを持って実家へ。歳を取ると乾燥して爪がぶ厚くなるので、切るのが大変なんですよね。
この日は訪問看護師さん初来訪の日。父の介護を母が抱え込まないための第一歩です。この時期、私は、我が子の校外学習や体育祭など学校での行事が再開され、お弁当を作ったり見に行ったり。その分仕事が溜まってしまい、寝不足です。感染症対策の緩和はありがたいけど、私の体はひとつしかない!
「ピンポーン」
玄関チャイムが鳴り現れたのは、ニコニコ笑顔の看護師さんふたりでした。
「お邪魔しますね〜」
おひとりが父の血圧を測り始め、もうおひとりは母と私に契約書類の説明をしてくれました。ずっと要支援2のままの要介護度をまだ区分変更できてないけど、それは影響せず、今から週に3日まで訪問看護を利用できるそう。1日につき料金は5550円、うちの場合、1割負担なので支払うのは555円だけ。実費として交通費が片道1kmごとに50円。24時間つながる緊急電話対応もあり、すべてがありがたい!
しかし、申し込み書類を書いてる最中、隣で話す父の受け応えが気になりました。
「お風呂は2日に1回、ひとりで。背中流すとき、少し手伝ってもらってます」
「つかまらずにひとりで歩けます」
「人の手を借りずに、ベッドから起き上がれます」
かなり上方修正してるな? すべて介助が必要なはずです。そこへ、母が参戦。
「イヤお風呂はね、私が全部手伝ってるんですよ。でもご飯はいっぱい食べるんですよ。問題ないです」
母も上方修正してる! このときの父は、お椀1杯のおかゆとほんの少しのおかずで満腹っていう食の細さでした。父母のいないところでこっそり、私から現状を伝えなくては。
看護師さんに、爪切りのコツを聞きました。姿勢が保てるよう、父には背もたれのある椅子に座ってもらい、安定した台に足を乗せるといいとのこと。爪の病気などがないので家庭で行って構わないし、私たちもやれますよ、と言ってくださいました。
そして、看護師さんが帰るとき、駐車場まで送るのを口実に外に出て、父の本当の様子をこっそり説明。今後、電話で私からちょくちょく状況を報告する約束もしました。
さて、部屋に戻ると父の爪切りを。用意した大きい爪切りでは切りすぎてしまいそうだったので、ヤスリでこすって短くしました。ガラスの爪磨きをかけるとピカピカになり、そのまましゃべったり足をマッサージしたり。父とこんなに向き合って時間を過ごしたのは、人生初かもしれません。
「どうも、ありがとうね」
そのまま父は疲れて寝てしまいましたが、小さいころあんなに怖くて無愛想だった人が、フガフガと私にお礼を言うなんて、こちらはドギマギ。今後、こうやってお節介を焼きますよ、というこちらの気持ちが伝わったのなら、まあいいか。
「私も足の爪切るの大変なのよ。体はかたいし、目は見づらいし」
と母が言うので、母の爪も切ってピカピカに磨きました。母も爪が伸びっぱなしでちょっとびっくり。睡眠時間を優先して、自分のことは放っておいてるのかな。本当はマニキュア好きの母なのですが。
今日はタッチセラピーになったのか、すぐ怒る両親も怒りませんでした。介護の仕組みを作るところさえ監督すれば、流れができ、母も私も無理しなくて済むはずなので。こんな感じで、できるときはお節介を焼こうと思います。
文/タレイカ
都心で夫、子どもと暮らすアラフィフ美容ライター。がん、認知症、統合失調症を患う父(80才)を母が老々在宅介護中のため、実家にたびたび手伝いに帰っている。
イラスト/富圭愛